第125話 誤解
聞き覚えのある声と見たことある風の斬撃……私はそれを見てすぐに確信する。
「フーリア……!!」
そう叫んだ瞬間、私はあることに気づいた。
それはどうしてフーリアが斬撃を飛ばしてきたのかを……。普通友達や仲間に攻撃をするなんてありえない。
ましてやあんな殺意むき出しの斬撃なんてどう考えてもおかしい。
あるとすれば裏切った者へ攻撃するか……怒りをぶつける場合……。
私はチームを離れちゃったから前者にも該当しているんだけど、フーリアなら多分後者の理由で攻撃しているよね。
てことは今のフーリアは……。
「るぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅうぅくぅぅぅぅぅううううう!!」
「ひぃ!?」
魔剣アスタロトを携えたフーリア……基、悪魔が私の名前を叫んでいる。
やばい……!
今日までフーリアの怒りの沸点は更新し続けていた。
もうこれ以上怒らせることは無い……そう思っていたんだけど、どうやらまだ先の怒りが彼女にはあった。
「どうして勝手に……何して…………………………その男ダレ?」
「え……あー……」
「死ねッ!!」
フーリアは私の応えを聞くことはなく、風の斬撃をサツキへ放つ。
当然サツキは向かってくる風の斬撃を水を纏った刀で受け止める。
突然こんな所で攻撃をされたサツキは攻撃こそ受け止めているけどそこには焦りが見えていた。
「な、なんだ?まさかまだ魔王教団が!?」
「違うんです!あれは……私の仲間なんですが……」
「は?君の仲間がどうして俺を……」
「それが分からな――」
そんな会話を遮るようにフーリアが私とサツキの間に入る。
「アンタ、ルークに手を出す気?」
「手……ってわた……俺はそう言うのじゃ……」
「なに頬を赤らめてるのよッ!!」
「だ、だからそうじゃなくて……!!」
フーリアは問答無用でサツキに斬りかかる。
攻撃を受け止めるのは簡単だけど、その速度に圧倒されてサツキは反撃ができないでいた。
いや、彼は反撃をするつもりなんてないみたい。
私の仲間というのを聞いて手加減してくれている。
「それでも結構きついんだが……」
「フーリア待って!」
このまま戦わせるわけにもいかず、私はフーリアを止めた。フーリアの肩へ触れようとすると物凄い眼力で睨まれる。
これはアレかな……私に先を越されるのが嫌だからサツキを殺そうとしたとか。
私は基本、結婚なんてする気はない。
なのでその心配は要らないんだけど、それを伝えるわけにもいかないしなぁ。
一応貴族だから、程よく引き伸ばして無かったことにする予定なので……。
そんなことを考えているとショナがフーリアとサツキの間に入ってくる。
「はいー喧嘩ダメ!まずは話を聞こう!私だって聞きたいことがあるんだから!!」
「そうね……ルークには聞きたいことが沢山ある……けれど仲間じゃないこいつは邪魔だから殺す!!」
「なんでそうなるの!?」
「文句あるんの?」
「怖いってばその顔!!」
フーリアは依然として手を緩めない。
ショナがそんな様子を見てあたふたしていると2人が来た方向からもう2人の影が近づいてくるのに気づいた。
それに向かってまるで助けを求めるかのように手を振る。
「ユウリー助けてぇ~!!」
「見た感じめんどくさそうだからやだー!」
「友達でしょ!?」
ユウリはフーリアとサツキが剣と剣を合わせて戦っているのを見て慌てて駆け寄るどころか平然と歩いてゆっくり向かって来ている。
そんなユウリの横に居るのはバレンタインの街で待って居ると言っていたマツバだった。
次はそれに気づいたサツキがマツバに助けを求める。
「マツバ!お前俺より強いって言ってただろ!なら助けろ!!」
「見た所、面倒くさそうだから嫌だなぁ~」
「仲間だよな!?」
この人もめんどくさがりなのかな。それはいいや……とりあえずここは私がどうにかしないと、というか多分私しかこの状況を鎮められないだろうし。
「大丈夫だよフーリア。そう言うのじゃないから」
「は?何が?」
「それにそう言うのはフーリアの方が先になるんじゃないかな」
「何言ってんの?」
「いや、フーリアの方が綺麗だし」
「えっ!?」
お、フーリアの力が弱まった。
私に先起こされる心配が無いって分かったから安堵したのかな。
フーリアは剣を鞘へ納めて、頬に手を当てている。何故か下を向いているせいでどんな顔をしているか分からないけど、多分安心してるだろう。
一応争いに発展することは無かったけど、ちゃんと説明しないといけない。
じゃないとまた同じ事が起きそうだし……。
私はとりあえず、先ほどまで起きたことをすべて話した。
皆を置いて行った事でショナには怒られたけど、怖い感じというよりはむしろ向こうが少し涙を浮かべている程で寂しかったと伝えてくれた。
それが嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
やっぱり置いて行くべきじゃなかったのかもしれない……けれど、あのアーミアと戦う事になっていただろうから結局これでよかったんじゃないかな。
話して誤解は解け、これからも冒険者スイレンのチームメンバーとして居ていいと言ってくれた。
そんな言葉に安堵していると大体の話を同じく聞いていたサツキが入ってくる。
「事情は分かった。それで気になる事があるんだが……よかったらルークを貸してくれないか?」
「は?ぶっころ……」
「フーリア!魔導騎士様なんだからそう言うのはダメー!!」
とてつもなく口の悪い事を言おうとしていたフーリアをショナは口を塞いで止める。
しかし私の心配をしてくれているのかサツキの言葉を聞き返す。
「貸すってなんでですか?」
「あ……いや、一瞬だけというか。教えておきたいことがあるんだ」
「私達はダメなんですか」
「ダメだ」
「……そうですか」
私以外が聞いちゃダメな話……?どんな話をするつもりなんだろう……?
気になっているとそこへマツバが話に入ってくる。
「じゃあ俺は?」
「マツバは……お前もダメだな」
「……なんだ?なんかムカついたぞ」
「気のせいだろ。それよりほんの少し話したいだけだから頼む」
頭を下げられてお願いされてしまう。別に私は良いので素直に了承する。
フーリアは凄く不満そうにしていたけど、この人の話というのは気になる。
「フーリア、お願い」
「……分かった。けど、何かあったらそいつ殺すから」
「う、うん……?」
不穏な事を言っているけど、とりあえずそれは置いておく。
彼の話を聞く……その必要がある気がするから。




