第124話 後悔
アーミアの起こした争いは終結した。
あの後、ルエリア王国の騎士団がやってきて残っていた魔王教団の残党とアルタイルを捕らえて行った。
お礼の1つくらいでも言われると思っていたんだけど……。
「ルーク嬢、この度はよくやってくれた。後は我々に任せなさい」
私が騎士団の人達に捕まえた魔王教団の団員はどうなるのか、どこへ連れて行くのか聞こうとしたんだけど、それは教えてくれなかった。
ただ1つ分かったことはそれらを連れて行ったのは王家の竜を象った紋章を持っていたこと。
引きこもりがちで外の世界よりも魔法や剣術しか習ってこなかったからあんまり詳しくないんだけど……確か王家の紋章だったはず。
多分……。
確かに魔王教団がどこへ連れていかれるのか気になったんだけど、王家に連なる人達になら任せても大丈夫だろう。
こっちへのケアは全然なかったのは複雑な気持ちだけどね。
その後、サジタリオンや父上達が目を覚ました。
「ふぅ……助かった。まさか昔の人の魂をアーミアさんが宿していたとはね……」
「サジタリオン様……大丈夫ですか?」
「うん、言い訳だけど少女だからと死なせたくないという気持ちがあってしくじっちゃった……けど次はもうヘマはしない」
「というと?」
「次は残酷だけど……殺す。負けた恨みとかじゃなくて、純粋にアレは人類の敵になる」
神秘剣も取られ、躊躇しなければヘラクレスが入る隙を作らずに殺せたはずだし、逃したのは私のせいでもある。
神秘剣を取り返さないといけないから、またいずれ戦う時が来るかもしれない。
その時はヘラクレスも……。
そこへ義母が間から入ってくる。
「ちょっと待ってください!アーミアを死なせろというの!?」
「バレンタイン婦人……あの子はもうアーミアさんではありません」
「そ、そんな……ダメよあの子を……あの子は……!!」
「心中お察ししますが、国を滅ぼしかねない案件なのでまずは一度、街へ戻って安静にしてください」
「街……そう街……ここはホワイトの街ですよね……?」
「ん?ええ、そうですね」
氷から出られてすぐに気を失っていて、今そのことを確認しているという事は凍りつけにされたのはバレンタインの街でかな。
ようやく辺りを見回してここがバレンタインの街じゃない事に気づいたみたい。
ここは戦いのあった広場でそこら中にある家々は崩壊していた。
よくそれでホワイトの街だと気づけたわね……バレンタインの街とホワイトの街は街並みが似ているんだけど……。
「あの子がホワイトの街を……」
「壊しましたが、アーミアさんの責任ではありません。なのであなた方に責任は――」
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
突然、義母は発狂した。
先程まで凍りつけにされていた割には凄く元気ね。耳を塞がないと鼓膜が破れてしまいそう。
それを宥めるように父上が入ってくるが……。
「お前!アーミアの事は……」
「いやぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
「――ッ!!」
あまりの叫び声に父上ですら言葉を失う。
命の危険でも感じてるような恐ろしいほどの絶叫、確かアーミアは私の魔法のせいで義母は執拗に強くなるよう急かしていたと。
いや、さすがに娘にそんなことはしないか。
叫びすぎて気を失った義母を怪我人の集まる施設へ持っていく。そんな様子を見守った後、父上が話しかけてくる。
「ルークちゃ……ルーク良く来てくれた」
「いえ、それより父上がアーミアに負けるとは思いませんでした」
「あ……あぁ、まあそれはそうだな。弁明の余地も無い……強いて言うなら仮にも今の妻の子供だから殺すという選択は出来なかった」
「そうですか……」
「だが、あの強さは異常だ。魔王教団はある程度、殲滅したんだがな」
父上が言うには私達がハーベスト帝国に居る間、第一王子率いる騎士団が魔王教団の支部を見つけて何個も叩き潰したらしい。
ルエリアの都市であるエステリアの名門学校が襲われたんだからそれ相応の対応を国がしていたみたい。
アルタイルを連れて行った騎士団は第一王子の率いていた者達。
「それでもアーミアにその魔の手が伸びていた……これは俺の責任だ」
「それってもしかして……あの……」
「可能性はあるが証拠がない以上口にするな」
「……父上はあの人の優しすぎます」
「……すまない。だからこそその責任は取る……」
「あんな人捨ててしまえばいいのに!!」
「それは……できない」
「……」
「……ルークには話さないといけない事が――」
改まってどうしたんだろ……覚悟を決めて話を聞こうとした時だった。そこへサツキが話に入ってきた。
「バレンタイン領主すまないが少しルークさんを貸してくれませんか」
「あなたは魔導騎士の……今回の件、誠にありがとうございます」
「いえ、俺はそこまで約に立てませんでした」
「……それで何の用ですか?」
「それはルークさんに……」
「ほぅ……失礼ですがルークちゃんの事をどう思って?」
さっきまで深刻そうな顔をしていたのに急にこの人は何を言っているんだ。
サツキが用事ってことはやっぱり魔王教団についてだろう。
「父上、とりあえずサツキの話を聞いてきます。先ほどの……」
「呼び捨て!?あ、あぁ……いや、さっきのはいい。俺とルーンはあの馬鹿が目を覚めたらバレンタインへ戻る」
「そうですか……私は……」
「ルークはエステリア学校が再開するからエステリアへ戻るといい」
「それって……」
「宿は良い所を取って、アナも連れて行って良い」
「え……お金はあるんですか?」
貧乏貴族というわけではないんだけど、バレンタインの街が破壊されているのに復興のためにいくらかかるか。
それに人の数も圧倒的に足りないし……。
「そこは一応、どうするか決めている。だから言おうとしたんだが……」
「さっきのですか?」
「まあその時にでも遅くない……今はそっちを優先しなさい」
「は、はい……」
「しかし……サツキ殿、あまりルークちゃんをたぶらかすことは――」
「あー……サツキさん行きましょう」
面倒くさい事になりそうだからとっととサツキに付いていく。
街の中央はまだ荒れていて人が出入りしていない。
「それで何の御用ですかサツキ」
「君とは今後ともいい関係を築きたいと思ってる。魔王教団と戦う時はまた協力して欲しい。もちろん俺達も協力する」
願っても無い申し出だ。
言われなければこっちから提案していた内容なだけにこちらがとやかく言う事は無い。
「後……」
「え……」
サツキが私への距離を縮めてくる。
え……何本当にまさかそう言う事?
でも前世の男としての記憶があるから絶対に嫌なんだけど……しかし女の子の身体のせいかドキドキしてしまう。
確かに顔は整っていて良い人だけど、やっぱりそれは嫌だ!!
そんなことを考えていた時だった。
私とサツキの間に風の刃が割って入ってくる!!
風でサツキの頬が少し削れていた……この業はまさか……。
私はある意味死を覚悟した……。




