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第123話 魔王教団幹部ヘラクレス


 フロストに最後の一撃を加えるという瞬間、ジークが間に入ってきて邪魔してきた。

 炎を纏った右手で私の炎の剣を受け止めている。

 

 親戚でもバレンタインの血を引いているからこの人も私と同じ固有魔法を扱える。炎への耐性と翻した剣だからこそ受け止める事が出来た。ターゲットに温情を掛けたのが間違えだったか。

 それにしても久しぶりに会ったと思ったらこの人は一体何をしているの?


 魔王教団の服なんて着て……こんなのまるで……。

 

「昔みたいにジークお兄ちゃんと言ってくれないのか?って呼ばれたこと無かったっけ?いちいち覚えてねーからいいや」


 こっちは複雑な気持ちなのに向こうは昔と何ら変わらない。

 軽薄な態度を取っているけど、魔王教団のフロストを助けたという事はやっぱり仲間だと見ていいんだよね……?

 肝心のフロストは炎に半身焼かれている状態だけど、息はあるみたい。


 全力の炎で倒しきれなかった。

 間にジークが入ってこなければ倒せていたはずなんだけどね。

 フロストはそんな助けてくれたジークの肩に手を置いて瀕死になりながらも私の事を睨む。

 

「はぁ……はぁ……小娘ぇ!!せっかくの若返った私の綺麗な顔を……!!」

「あれ?てことはやっぱりあなたがフロスト様ですか」

「そうよ!あなたは?」

「ジーク=バレンタインです。あなたをお迎えに来ました」

「バレンタイン……」


 その名前を聞いて助けてくれたジークにすら睨み始める。

 しかしジークはまるでそんな目で睨まれてもどうでもいいかのように応える。

 

「あールークとは敵対関係ですよ」

「さっきお兄さんと呼んで欲しいみたいなこと言ってなかった?」

「言ったじゃないですかどうでもいいって、もっともあいつにそう呼ばれる筋合いは無いんだけどな」


 その時のジークの表情はどこか暗く、昔の気さくな感じじゃなかった。

 

 まさかジークも他の人格を……?

 

 いや……そう言うわけでもない……そんな気がする。

 敵対関係か恨まれるようなことをした覚えはない。それとも何かしちゃったのかな……分からないけど、ただ分かっている事は敵が増えたという事。

 

 私はさっきの一撃で大量の魔力を消費しちゃったし満足に戦えない。

 それでもサツキが居るし、ルミナの力だって温存してある。

 

 まだ戦える……!!


「ここは引きますよフロスト様」

「何を言って……我はまだ戦え……」

「腕と顔の半分が焼け爛れてますよ」

「だから何?我はあの小娘を殺さないと気が済まない……!!」

「嫌ですよ」

「なんですって?」

「あんたを庇いながら戦うのは嫌と言っている」


 フロストも目力が強くて怖かったけど、ジークもそれに勝るほど……どちらかというとジークの方がなんだか不気味な怖さがある。

 長く生き、経験もあるだろうフロストでさえ、その表情に震えている様子だった。


「あんた……何者……?」

「魔王教団のジークですよ……あ、でも最近新しい名前を貰いました」

「は?あなたはジークと言う名前ではないのか?」

「ええ、ジーク=バレンタインの名は捨てましたから」


 ジークはそう言うと目線をフロストから父上へ移す。氷から解放されたけどまだ気を失ってうつ伏せで倒れている。

 その目には恨みや憎しみのようなモノを感じる。


 だけど少し悲しんでいるようにも見えてジークが一体何を考えているのか全く分からない。


「だからそう、今後俺の事は……魔王教団幹部ヘラクレスと呼んでください」

「呼び名なんてどうでもいいわ」

「……ルークも今後は俺の事をそう呼んでよね。君にジークって呼ばれたらうっかり……殺してしまうかもしれない」


 私自身、昔ジークとはそこまで話したことが無い。

 ただ幼いながらに記憶はあって私に優しくしてくれていた……はずだったんだけど……。


「じゃあね!また会おうルーク、次からは容赦しないよ」

「……逃がすとでも?それにどうしてこんなことを……ジー」

「……」


 ジークと呼ぼうとした瞬間、鋭い眼光に睨まれる。

 嫌な寒気を感じた。


「……ヘラクレス」

「それでいい。教えるつもりは無いけどね?」


 それならこっちにも考えがある。

 せっかくフロストを瀕死の状態まで追い詰める事が出来たんだ……ジーク……いやヘラクレス1人を相手にならサツキとルミナが居れば勝てるはず!!


「サツキ!!」

「もう準備してる!奥義……海割り!!」

「君はお呼びじゃないんだけど?」

「知るか!」


 サツキの水の刀がヘラクレスに触れる瞬間、辺りが白い霧に覆われる。


 ジュゥ……。


 炎が水で冷やされて蒸発した時の音……。

 ヘラクレスはわざと水に炎を当てる事で視界を霧で隠した。

 

「クソ……どこ行った!!」

「君もいつか殺そう……魔導騎士(エーテルナイト)は………………嫌いだ」

「なっ……!?待てどこに……?」


 そういうとヘラクレスとフロストは姿を消してしまった。

 霧が晴れて炎に包まれた街が姿を現す。


 逃がしたか……。


 次会う時は敵同士ということね。

 それにしても一体どこから現れたんだあの人……ずっと音信不通だと思っていたらこんなタイミングでしかも敵として出て来るなんて!!

 

「はぁ……逃がしたが次は容赦しない」

「そうですね……神秘剣取られちゃった……」

「それより君はあんなこともできたのか」

「何がですか?」


 もうここに敵は居ない……だけど、街は破壊されていて火の手も上がっている。

 早く止めないといけないんだけど何か気になる事でもあるみたい。


「あの炎の魔法?剣術?」

「あぁ……アーミアを殺さないために控えていただけです。隠していたわけではないですよ?」

「……女神魔法」

「それが何か?それよりも早く街の人達を助けないと!」

「その力は……いや、人命が優先だな」


 私達は燃える街の人達を助けるために尽力した。

 その甲斐あって、被害は最低限に抑えられたけど、やはりフロストが一度落とした神秘剣は無かった。


 おそらくヘラクレスが持って行ってしまったんだろう。

 あの人が敵になるなんて……。


「宝剣の事……フーリアにどう説明しよう……」


 あの子の顔を想像すると居たたまれない気持ちになる。


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