第122話 女神魔法
ホワイト家の先代はフーリアの父親だからそのさらに前の人ってことだよね……。
言葉遣いや当主という言葉を聞いて男性だと思っていたんだけど……まさかフーリアに似た女性だったとは……。
「本来、女は家を継ぐことはできない……が、我は特別でな。ホワイト家の歴史上最強の剣士なのよ」
「そんな人がどうして現代に……」
未練があるとしても子孫まで傷つけるな……!!
こんな奴にフーリアはやらせない。
しかしほんとにどうして過去の人間が現在の人間の身体を使って出てきたのか。
そんな魔法があるのかな……それとも他に何かあるのだろうか。
「我は復活の時を待って居たのだ」
「はぁ……?どうやって……」
「魔王教団」
ここでもまた魔王教団か……。777年……現在は916年だからまあ約200年前の人ってことだよね。
そんな時代から魔王教団が存在していたというの……?
「彼らは約束してくれた。我の力と魂を勾玉に封じる事でいつか再びこの世に蘇る事ができると」
「蘇る……?あなたは死んでいたとでもいうの?」
「死んでいたか……身体はしわしわで剣を振るう力も無い老人を死んでいると仮定するならその通りかもしれない」
老人……今のフロストは老人どころかフーリアが少しだけ歳を取って大人になったような若々しい姿をしていた。
おそらくアーミアと同じ年齢……アーミアの年齢は知らないけど。
まさか若返るためにこの日を待ち望んでいたとでもいうの?
「そんなに若い身体が欲しかったの?」
「当たり前でしょう?再びホワイト家を統べるために色々手を回したんだから」
「ホワイト家のこの剣には弱点があるの。それを魔王教団に教えてやったのよ」
「まさかその弱点を教えたせいでフーリアのお父さんは……!!」
「先代が死んでホワイト家になり替わろうとする家系がある。それは……魔王教団の息が掛かった人達でね」
「全て、計画通りだったとでもいうの?」
「ええ、後は……邪魔なバレンタインと魔導騎士を殺せば私は――」
ホワイト家を継いだ人達がフーリアの事を蔑ろにしていた理由が分かった。
彼女に剣を渡してしまえば神秘剣をフロストが手にすることは無かったからね。
あれはホワイト家当主の証と言ってもいいから何としてもフーリアを避けていたわけか。
もしかしたらあの日、大量の魔物でホワイトの街を襲ったのも魔王教団の仕業だったのかもね。
そのせいで私も母上を失った。
「再びホワイト家当主として君臨できる……!!」
「そんなことのために!!絶対に許さない……!!」
フーリアが苦しんだのはこいつのせい……。
そんなの許せるはずが無かった。今現在、神秘剣の影響で魔法のコントロールが難しくなっている。
それは完全に魔法を使えなくなるんじゃなくて炎の火力を調整したり、相手に向かって放つ照準も散らされる。
威力を抑えていたのはアーミアの身体を傷つけまいという考えからだったんだけど……もうその必要も無さそうね。
「炎帝剣……燃やし尽くせ!!」
遠慮なく燃やし尽くしてやる!!
炎帝剣を縦に振るう。
剣から炎が吹き荒れて斬撃としてフロストに襲い掛かる。家を覆いつくす私の最大の一撃……!!
「貴様の馬鹿力だけは厄介だな」
そんなことを呟きながらフロストは神秘剣で私の炎の斬撃を受け止める。
いくらフロストでも私の全力の一撃には両手を使っていた。
よし……この程度で両手を使ってくれるならやれる!!
「焔付与!!」
炎の斬撃にさらに炎を追加する。
私の魔力とこの炎帝剣……本来は両立しない魔法と剣だけど特に私はこの2つの相性が良い。
後は締めだ……16年間家に引きこもって魔法を学んでいた。
それで得た私の超級を超える炎の魔法を今ここで使う時!!
「なっ……貴様、魔法を使えるのか!?」
「そうよ……そしてさらに……。女神よ、我に炎の知恵を与えたまえ……炎の契約、焔の血の導に従い――」
「魔法……?この詠唱?な、何をしようとしている!?」
「我が命を燃やし、敵を葬りたまえ……!!女神魔法、炎魔剣!紅!!!!」
炎帝剣とバレンタインの魔法を合わせた黄金色の炎は再び血のように赤く染まる。
それだけじゃない、辺り一面を炎の熱だけで溶かし始める。
私の炎を正面から受け止めている神秘剣は一切溶けることなく、その原型と留めているけど、剣を握っているフロストはそうもいかない。
あまりの熱さに剣の塚を持っていられなくなり――カランッ。
剣を地面に落とす。
ホワイトの聖剣だけあって超高温だろうと耐えてくるか。
それでも熱さでしばらくは握れないはず、私は女神魔法を一旦止める。
凄い量の魔力を一気に持って行かれた……これでも魔力量には自信があったんだけど、これはポンポン撃てる魔法じゃない。
「くっ……おのれ……!!」
「これで……終わり……!!」
剣を手放したフロストへ向かって行く。
炎帝剣を翻してフロストの胴体を狙う。翻したとしても神秘剣の効力が無くなり身体強化した私のパワーなら気絶するほど痛いはずだ。
「炎帝……」
「やめ……!?」
自分で相当な年長者だと言っている割に敗北の瞬間に涙を瞳に浮かべるフロスト。
私は容赦なく打撃を加える。これで終わり……そう思っていたんだけど、炎帝剣がフロストを捉らえる事は無かった。
私とフロストの間に人が割って入ってきたのが見えた。
炎の勢いで間に入ってきた人の姿がよく見えない。
一度そこから離れてその正体を探る。
「なっ……!?」
私はその間に入ってきた人の姿を見て唖然とした。
なぜならそれは子供の頃、まだ母が生きていた時から関わり合いが無くなった親戚の……。
「ジーク!?」
久しぶりに姿を見たジークは……魔王教団の服を着ていた。




