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第121話 覚醒


 思いついた作戦をサツキに伝えた。

 

「上手く行くか微妙な所だが、やるしかないか」

「そうですね。まあ失敗したら死にますけど」

「あはは、そうならないように努力しよう」


 

 意外にもここに来て初めて見るサツキの笑顔にどこか安心感を覚える。

 失敗したら死ぬかもしれないのに余裕が垣間見える……それは自分の力に驕っているような傲慢じゃなくて、落ち着きによるものだろうか。

 

 サツキの実力は多少分かったんだけど、それでもまだ全部は見せていないはず。

 自分はこういう力を持っていると提示していたんだけど、私の見立てではまだ何か隠している。


 前世を含めて長く生きている勘がそう言っている。

 

 もっと味方の事が分かっていれば無茶な作戦を考えなくて済むんだけど……フーリア達が居ればちゃんと連携できた。

 って置いてきた私が言える立場じゃないか。

 魔法が使えない以上、2人で同時に攻撃する方が良い。手数は文字通りこちらの方が多いからね。


 炎の剣の出力を上げる。

 この剣は燃やすというよりは破壊することに特化している……だから作戦は1つ……!!

 面倒なもう片方の氷の剣を砕くッ!!


 聖剣や魔剣ならともかくアーティファクトなら破壊できるはず。

 私に対して油断しているアーミアは私が向かって行くと左手の氷の剣を前に出してそれで受ける準備をする。

 サツキの攻撃を受け止めなけばいけないのでそこは神秘剣を温存している。

 

 それが隙になる!!

 

 炎帝剣と氷の剣がぶつかる。

 片手だけのくせに凄いパワー……身体強化の魔法を使えないからという理由もあるけど、それにしては強すぎる気がする。

 勾玉の力のせいか?なんにせよこの状態から氷の剣を砕かないと……!!


「はぁぁぁぁああああああ!!」

「勢いだけでは我の剣は突破できないぞ?」


 どれだけ全力で力を込めても微動だにしない……。

 そこへサツキが水を纏わせた剣でフロストに斬りかかる。当然とばかりに温存していた神秘剣で受けに来る。


 チェンソーのように水が回転して切れ味を上げているけど、やはり風に水が散らされて水の剣の勢いが落ちる。


「さっきと同じだぞ?」

「同じかどうか……試してみるといい!!」


 サツキは先程よりも手に入れる力を込める。

 血管が浮き出るほどには力を込めているし神秘剣を少しずつ押している。


 これならいけるかも!!


 しかしベテランの剣士であるフロストから見たその行動は愚策だった。

 

「お前はもう少しマシな剣士だと思っていたんだがな」

「なんだと?」

「この小娘は剣にただただ力を込めているだけ、おもいっきり握っておもいっきり振るう。そんな剣で我には勝てん。お前は技術で向かって来ていたから警戒していたが……結局はまだまだガキだな」

「――ッ!!」


 確かに私は力を込めて剣を振るう事しか考えていない。

 というかそれ以外の剣術を習得するのがあまりにできなかった。純粋に才能がなかったんだろう。


 最近はそのことを指摘されてハーベスト帝国では魔法のみで戦った。

 魔法でなら皆の足を引っ張るどころか先導しつつ対等以上に渡り合えていた。

 だからわかる……私の剣は弱い。


 聖剣と言う大層なモノを持っているのにその程度で……だからこそフロストは私の剣を氷の剣で受け止めた。

 ただ力を込めるだけではダメ、そんなことはサツキなら分かっている。

 だけどそんな戦い方をサツキにこの戦い方を提案したのは私だ。

 

 サツキのパワーなら技術無しでも受け止めるのに右手の力を込めないといけない。意識をそっちへ向ける。

 これは賭け、もし失敗したり、左手の力の入れように変化が起きなかったら氷の剣を砕けずにサツキはその愚策に足を取られて最悪死ぬかもしれない。

 こんな所で死んでいる場合じゃない……私は一か八か勝率を上げる方法を発動する!!


「ルミナ、私の腕に力を貸して!」


 小声で聞こえないようにつぶやくとルミナは顔を出さずに私の腕に力を貸してくれた。

 結局、この子の力を借りた所で剣術が身に付けらえるわけじゃないけれど私の目的は氷の剣を砕くこと。

 技術面はサツキにカバーしてもらう。


 パワーと破壊しかないのならそれを極限まで引き出して一気に相手の剣を砕く!!


 ミキミキッと氷の剣にヒビが入る。


「なんだ急に力が!?くっ……氷の剣が砕けるだと……?」

「君……まさか」

「どんな馬鹿力だよ!!」

「砕けろぉぉぉぉおおおおおお!」

 

 パリーンッ


 とまるで氷が砕けたかのような綺麗な音が響き渡る。

 

 私はそのままアーミアの氷の剣を砕いた。そして直後、炎帝剣の炎で身体を包む。

 死なないようにどこかで炎を沈めないといけない。

 全く面倒な義姉ね。


「君、さっきの力は……」

「炎帝剣は破壊の剣ですから」

「いや……それだけじゃなくて」


 さすがにルミナの事はバレていないと思うんだけど、どうしたんだろ?


 いやそれよりもフロストの様子がおかしい事に気づく。

 氷の剣を砕かれてご乱心というわけじゃなさそうだ。

 

 何というかあれは……。


「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 おおよそ人間が発するような声とは思えない程の高い叫び声を上げ始めた。

 

「発狂してる……?」

「あ!サツキ見てください!!」


 氷の剣が砕けた事で辺り一面の氷が砕ける。

 サジタリオンや父上、義母に義妹も氷の中から解放された。氷の中に居たせいか意識がなく、その場に倒れている。


 危ない状態だ。

 すぐに安全な所へ移動させたいんだけど……フロストは酷いほどに錯乱していて、そのあたり一帯が風に覆われている。


 暴風が近づく私達を拒絶しているみたい。


「まさかあの剣……砕かない方が良かったのか?」

「だ、だとしたらごめんなさい……」

「いや……結局あの剣は砕かないとサジタリオン様達が解放されなかった……仕方ない」

「そう言っていただけるとありがたいのですが……」


 フロストが暴れる様子をただただ見守ることしかできない……。

 少しして周りの風はだんだん収束する。


「来るぞ!!」


 剣を砕いた事で弱体化すると思っていたんだけど……どうやらその逆だったみたい。

 神秘剣は姿を変え、騎士が使うような重厚な剣から細いレイピアへ。

 そして何より神秘剣を構えているその女性はもう既にアーミアではなかった。先ほどまではアーミアの身体にフロストの人格が乗り移っている感じだったんだけど、見た目が変わってしまう。


 見たことのある白い髪を持った美しい女性がそこに立っていた。


「フーリア……!」

「ついに解放された……!!我はホワイト家当主、フロスト=デイ=ホワイトだ!!」

 

 そこにはフーリアにそっくりな全くの別人が狂気の笑みを浮かべていた。

 

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