第119話 神秘剣
「あの女、どうして追ってこないんだ?」
サツキの言う通りアーミアは勾玉を潰して辺り一面を凍り付かせたものの、逃げる私達を追ってこなかった。
そうなってくるとこのまま逃げることもできそうだけど……。
街を見回してみると怪我人をおぶっている人や、足を引きずりながら逃げている人達がいる。
私達は逃げられても怪我を負って逃げるのが遅れる人は助からないだろう。
「行くしかない……」
「せっかくここまで逃げられたのにか?」
「待ち伏せができないのならこっちから行かないと、街の人達を危険に晒しちゃう」
「待ち伏せだと後手に回る可能性があるか……まるで俺達の動きを読まれているようだな……」
アーミアにそれほどの知略があるとは思えない。
考えられるのは後ろに黒幕が居るか……リゼルのように他の人格がアーミアの身体を使っているか。
もし後者ならこっちの行動を読んでくる厄介な相手ってことになるけど、それも確認しないと分からない。
「君は他に何ができる?」
「え?」
「時間は無いけど、少しでも作戦を考えるべきだ。少なくともお互いの手札は公開しよう」
「……」
炎帝剣の概要を説明するのはいい。
ただ魔法を使える事を知られれば面倒な事になるし奥の手であるルミナの存在はそれ以上に誰にも知られてはいけない……少なくとも信頼できる人じゃないとダメな気がする。
しかしサツキの言っている事も納得できる。
そんな私の考えを見透かしているのかサツキは私の顔をじっと見つめて――。
「もうお前が魔法を使える事は分かってる」
「――ッ!!」
「そんな驚くなよ……大体アレで隠してると思ってる方に驚く……はぁ、最初に街へ入った時、怪我をした女性を救っただろ?あれでサジタリオン様もマツバも俺も気づいていた」
「そ、それは……」
「まだまだ子供だな。隠し通したかったらあの女性を見捨てれば良かった」
「……」
本当に少し前の自分ならその選択ができたと思う。
ショナの話を聞いてから……いやもっと前、4人でチームを組んでからまるであの子達に合わせるかのように自分の考え方が変わっていた。
もしかしたら精神が身体に影響されているのかもしれない。
後、前世の記憶も薄いし……。
「言わない」
「え?」
「誰にも言わないと誓うよ。俺の名に誓って」
そんなまだ知り合って1日も経っていない人の事を信用なんてできるはずがない。
できるはずがないのに……この人の真っ直ぐな瞳に見つめられると信じられる気がする。
自分で言うのもなんだけど私は結構人を疑う人間だ。少しは前世の記憶があるからこそ、人生経験が警戒心を強くしている。
そんな私がこの一言で信用するなんてどういう心境の変化なのか……。
この人の力はまだ底知れないから万が一のことがあれば不安が付き物。
でも私の魔法の開示が必要でこれで勝っても負けてもこの人が話したら私は……。
いや悩んでいる時間はない覚悟を決めないと今のアーミアには勝てない!!
これで……もし追われる身になったら二度とフーリア達には会えないなぁ。
「分かりました……。魔法も使えます」
「うん、その剣は?」
「炎帝剣と言います。炎で破壊が可能です」
「治癒の炎魔法を使えるのに剣は破壊特化なのか……」
「後、魔法は身体強化と他の属性の中級魔法くらいなら使えます」
「炎は上級か?」
「超級まで使えます」
「ほう……最上超級魔法の前か」
大体の私が使えるものは開示した。
さすがにルミナはやめておく、魔物っぽい見た目だし何より……この子はやる気がないみたい。
「ちなみに俺のは水神剣ワダツミ。主に水を使うだけだな……」
「それだけですか?」
「魔法も水魔法を使えるくらいで大体この剣だけで戦うのが俺のスタイルだ」
「えぇ……」
せっかくの魔導騎士と言うポテンシャルを持っているのにもったいない。
しかし私も魔法だけじゃなくて剣を使えるのに、魔法の方が良く使っているし両方使えても器用貧乏になるだけなら片方を鍛える方がいいのかもしれない。
それでもうまく組み合わせれば強いけど……。
「後、もう1つ能力があるんだけど……それは海が無いとできないから」
「分かりました」
「うむ、君は魔法の方が得意なら後ろで支援、可能なら一緒に剣で戦う事も考えて欲しい」
「それじゃあサツキは……」
「メイン攻撃は俺が引き受ける。必ず勝って君の義姉を止めてサジタリオン様を救うぞ!」
「はい!!」
さらっとアーミアの命を奪うんじゃなくて止めると言ってくれた。
私が殺したくない事を察してくれたんだ。この人とならやれる気がする……!!
再び街の中央へ戻る。
当然足元は凍り付いているので気を付けないと足を取られる。
急ぐけど気を付けて凍り付いた時計塔へたどり着く。
「どこへ行った?」
周囲を見回してもアーミアの姿は無い……けど、サジタリオンが凍りつけにされているまま残っていた。
「サジタリオン様!!」
「サツキ退いてください炎で溶かします!!」
「頼む」
サジタリオンが閉じ込められている氷へ炎を放ったけど、氷は溶けなかった。
まさかこの氷……ただの氷じゃなくて封印魔法を兼ねている?
封印魔法は外や中からの攻撃じゃびくともしない。だけど解除の魔法を知っていれば子供でも開けられる。
「封印魔法か……俺は専門外だ」
「一応解けますけど時間が掛かりま――」
封印魔法なら時間を掛ければ解ける。そう説明しようとした時、ふと時計塔から何かに見られている感じがして見上げる……そこにはさっきは良く見えなかった凍りつけにされた3人の姿が見えた。
さっきはアーミアのせいで良く見えなかったけど、そこに封じられていたのは……父上と義母とルーンだった!!
「なんであの3人が……!!」
父上を狙うだけならまだ分かるけど、どうしてあの義母とルーンまで氷に閉じ込める必要があるんだ。
そんなことを考えていると私達より反対の方からアーミアが歩いてくる。
「それは我がやった」
「アーミア……どうして!!」
「アーミア?我はそのような小娘ではない」
「まさか人格が……」
アーミア?は姿形こそ彼女そのものだけど話し方や仕草が違う。
いや……まあデカい態度は一緒だけど……。
何より左手には氷の剣を持っていて、右手には……先ほどまで無かった白くて神秘的な……まるでフーリアの髪の色と同じ綺麗な剣を握っていた。
あの剣はさっきまで持っていなかったはず。
「これはホワイト家の宝剣。神秘剣ホワイト……だ」
「そんな……その剣はホワイト家の人しか使えないはず!!」
「そう……だから我が使っていてもおかしくないだろ?」
「え?……」
「自己紹介が遅れたな。我は今は900年だったか……777年、ホワイト家8代目当主……。フロスト=デイ=ホワイト様よ」




