第117話 氷の時計塔
襲って来たアルタイルは何とか倒すことができた。
しかしその戦いにサツキはあまり納得していない様子だ。
意識を失い気絶しているアルタイルを見つめている。
「……コイツ、胴体を真っ二つにする勢いで斬ったのに気絶だけで済んでるぞ」
「そ、その人は蛇の鱗を纏う魔法を使うのでそれで強度が増してるんだと思います」
「なるほど……別に無暗に殺す気は無かったからいいけど……ちょっと悔しいな」
「そうですか」
それでもおそらくサツキならアルタイルに単騎で勝てていたと思う。そう思わされるほどに彼の実力は本物だった。
まだ剣術しか見ていないけど魔導騎士なら魔法だって扱える。
それがあればまだ戦いの幅も広がるだろうし、できれば敵には回したくないな。
「それにしてもやっぱりお前……魔法に詳しいだろ?」
「……」
「なんで隠す?そこまで重要な情報とは思えないが」
サツキの中ではまだ私が魔法と剣を両方使える事は確定していない……はず。
ここで頷くわけにはいかない、とりあえずは目を逸らしておく。
聞いた話だと魔法と剣を使える者は魔導騎士に見つかると連れていかれる。
噂では異端者認定されて処刑されたとか。だからここでは言えない、特に魔導騎士の前では。
それにそんな事よりもこの現状に意識を向ける必要がありそうだ。
本当にどうしてこんな所にアルタイルが居るんだろうか、やっぱりアーミアに協力するため……?
よくもまあ……あの義姉はこんな連中を信じたものだ。
「俺達も向かおう!」
「どこへですか?」
「サジタリオン様の所へ」
「ま、まずは避難民の救出を……」
「それはそうなんだが……こんな状態である以上、救える人間は限られてくる。それなら先にこの騒ぎを起こした者を捕らえて戦いを終わらせる方がてっとり早い」
「そ、それじゃあ街の人達は?」
「全員は助けられない……だが、その分頭を叩いて可能な限り早く終われば助かる人数も増える」
「そんな……それはあまりにも……」
ショナの話を聞いた後だからこそ、命に対して重みを感じているせいでその考えには同意できない。
サジタリオンは私達よりも強いはず、それならアーミアはあの人に任せて私達で可能な限り救うことだってできるはずだ。
ただ、中央からまだ逃げてくる一般人が居る事から戦いは終わっていないんだろう。
「たった二人じゃそれは不可能だ。人数が圧倒的に足りない」
「だ、だけど……」
「東西南北全ての避難所を周って俺達が居なくなった所へ狙われたら助けても無意味になる。残酷だが選定する必要がある」
前の自分なら納得できるその答えも今じゃすぐにはそうと頷けない。
分かってる……こういう選択をしなきゃいけない時がきっとくると言う事は……。
悩んでいるとサツキは呆れたようにこちらを覗き見る。
「はぁ……まあまだ子供だから仕方ないがそういう選択を強いられる時は来る。責任は俺達が取る。だからここは俺に従ってくれ」
同い年で精神的にこっちの方が上なのにこんなことを言われてしまうなんて思わなかった。子ども扱いされたのは少しムカついたけど、このまま手をこまねているわけにもいかないか。
私一人じゃ救える命は少ない、それなら強いサツキに付いて行って協力した方が確実かもしれない。
私達は念のためにアルタイルを縛って拘束してから街の中央へ向かった。
サジタリオンが速攻で終わらされていればそんな心配も無いんだけどなぁ。
そんなことを考えながらすぐに走り出し、街の中央付近までたどり着いた時、悪寒がした。
嫌な感じ?いやもしかしてこれは……。
「寒いな……ルーク大丈夫か?」
「え、あ……はい」
「どうした?確かに寒いが、何か不安でもあるのか?」
悪寒と言うか純粋に寒い……。
常に炎の剣を持っている状態で身体強化の魔法を使っていると気温なんか一切気にしなくなる。熱さには当然、身体も熱いから寒さだって感じづらい。
だから久しぶりに寒さを感じた。
「割と大丈夫そうだな」
「熱さも寒さも耐性があるので……でも寒さは確かに感じています」
「あれだけの炎を使える君が寒いと感じているんだ。これがアーミアという人がやったのか?」
「分からないけど……氷……」
屋敷は氷の攻撃を受けていた……あれがアーミアのものならおそらくそう言う事になる。
そうなるとやっぱり前のアーミアとしてみるべきじゃない。
それこそ殺すつもりで戦わないと……。
寒さのおかげでアーミアに近づけばさらに冷えるので場所の特定は簡単。
この寒さ……サツキも弱音は吐いていないけど、凄く寒そうにしているのが分かる。
白い息を吐きながら私の前を走っている。
より寒さは増し、寒さに耐性がある私でも白い息を吐くくらい寒くなる……私達は足を止めて、上を見上げる。
アーミアが居るはずの中央の時計塔に辿り着いた。時計塔は凍り付いていた。
街の中は戦火に包まれているのにここだけは寒く、地面や家までもが氷の中にとり締められている。
冷気が視界を覆っていて良く前の光景が見えないんだけど……一方的に向こうから声が聞こえてくる。
「あら?ルークじゃない!まさかこんな所にまで来るだなんて馬鹿な義妹」
「アーミア!!」
「お義姉様を付けなさい……じゃないとこの男のように氷漬けにするわよ」
アーミアがそう言った次の瞬間、冷気の霧が消えて辺りがはっきり見えるようになる。
しかし私の目に映る光景は最悪なモノだった。
中央へ直接向かったサジタリオンは手足を氷付けにされて身動きが取れない……あと良く見えないけど凍り付いた時計塔の上に3人凍り付けにされている人が居る。
アーミアはまるで理性が飛んでいる……というかこの雰囲気はなんとなく見たことがある。リゼルが薬を飲んだ時と似ている。
嫌な感じね……。
そんなことを考えているとサツキは私に近づいて来て耳元で呟く。
「ルーク、君はやばいと思ったら逃げて」
「サツキ様は?」
「俺は魔導騎士としてやるべきことをする。後、様は付けなくていいよなんだか歯がゆいし……」
「アーミアは私を狙っているみたいだし、そうはいきません……何かやるのなら教えてください」
私の目にはサツキは何か考えがあるように見えた。
策があるならこんな状態でも戦えるはずだ。
「君は……まあいいけど死んでも文句は言わないでよ」
「大丈夫です」
「よし……それじゃあ、やろう!!」
「はい!!」
アルタイル戦でこの人との戦い方は少しだけわかった。
これでもスイレンの作戦担当なんだ……即席のチームでも上手くやってやる!!




