第109話 失態
街は崩壊しているいた……あまり思い入れがある街ではないんだけど、それでも生まれ育った場所がこんな悲惨な目にあっていて胸が痛まない程、私の心は冷めてない……。
そしてこんな悲惨な状況を作り出したのが義姉のアーミアと言う事が本当に信じられない。
やってもおかしくない性格をしているけど、本当に実行するのとはまた別。
本当にアーミア一人でやったの……?
茂みの中に潜みながら街の様子を見回していると広場の方でまだ生きている女性が居た。酷い怪我でお腹から血を流して壊れた家の壁にもたれ掛かっている。
どこかで見たことのある人だと思ったらフーリアと一緒にパンを買いに行ったお店の人だ。
周りには敵は居ない……はず。
どこかの物陰に隠れているかもしれないけど、街が破壊されているので隠れられるところは無い。
私は今にも倒れそうな女性へ走って向かっていき、そのまま治癒の炎魔法を放つ。
体力は回復できないけど、傷口ならこの炎で塞ぐ、炎で傷口を塞いでから声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「あ、あなたは……ルーク様……!!」
「何があったの?」
「ア、アーミア様が……アレ?お腹の怪我がない?」
「バレンタインの治癒の炎を使いました。でも失った血は戻せないから無理はしないで」
「はい……!」
怪我は酷かったけど、不思議と血の量は少なかった。遠くからだったから見間違えかもしれないけど、もう少し血を流していてもおかしくない怪我だったはず。
どういう怪我の追い方をしたの……?いや、逆……?どうやって怪我をさせた……?
頭の中で思考を巡らせているとそこへサツキが怒鳴りながらやってくる。
「お前!何やってんだ一般市民に!……火葬はまだだろ!!」
「ち、治癒の炎を使いました……勝手に出て行ってすみません」
「治癒……?あの炎が?」
火葬ってそれもそれで酷い言いようだよね……。
疑いの目を向けていたサツキだったけど、さっきまで大怪我していた女性のお腹の傷が無くなっているのを見て信じてくれる。
問題はこんな所へ出て行って誰かに襲われないかということ、でもそれは大丈夫そうだ。
「これがバレンタインの治癒の炎魔法か」
「サジタリオン様!知ってるんですか?」
「うん、バレンタインの固有魔法だね。治癒の炎……かつて天から降りてきたとされる炎の鳥の肉を食べたバレンタインのご先祖様が得たという伝説があるんだ」
「魔法……でもこの人は剣士では?」
「ん?……あれ?確かに……」
やばい……!!
この女性を助けることしか考えていなかったせいでそのことをすっかり忘れてた!!
最近ショナの話を聞いてからというモノ、知らず知らずの内に命に対して執着が強くなった。助られるなら助ける。
そんな考えを持ち始めた直後にこれって……。
「えっと……これは剣の力です」
「剣?治癒の?」
「はい……バレンタインの血筋だからですかね」
「なるほど……普段は魔導士の血筋だが、剣士が生まれてくる場合もある。その時はその固有の魔法を引き継ぐ可能性があるのかな?」
「そ、そんな感じですかね?」
なんか勝手に解釈してくれたのでそれに乗っかることにしよう。
騙すのは気分が悪いけど、さすがに魔導騎士の人にバレるわけにはいかない。
「サジタリオン様はこういうの見たこと無いんですか?」
「そうだねサツキくん。固有魔法を持った血筋は大体魔導士を排出するからね……珍しいパターンではあるけど、あり得ない話じゃない」
この世界の知識があるが故にサジタリオンは深読みしてくれた。
というか、私はバレンタインの伝説なんて知らなかったんだけど……。
固有魔法を持っているのは知ってるけど、それを手に入れた経緯なんて聞いたことも無い。
そんな伝説すら知っているサジタリオンとはいったい何者なのか。
魔導騎士は力だけじゃなくて知恵も持っているみたい。
今回はそれを利用させてもらおう。
「そ、それより……屋敷へ向かいますか?」
「そうだね。街の被害は酷いけど、静かだから敵は周りに居ないみたいだ。とりあえずバレンタイン領主の救出を優先する」
「「「はい!」」」
壊れた街を横切りながらバレンタインの屋敷へ向かう。
そこまでの道中は敵に遭遇することはなくて割れた地面に気をつけながら進んで行った。
安全確保をして屋敷を壊れた家の壁に背を当てて隠れるように覗き見る。
屋敷は1部、まるで爆発でも起こったような跡が残っている……けど端が凍り付いて良く分からない状態だ。
その部分は完全にくり抜かれていて部屋が無くなっていた。
そしてその部屋は……私の部屋だった。
アーミアがやったのならさぞかし私への恨みが強いみたいね。
正直なんで恨まれているのか知らないけど……。
「一応聞くけど、あれは君の姉がやったんだよね?」
「そ、そうなるんですかね……」
「年齢はどれくらい離れてるの?」
「え……1歳くらいだと思います」
「知らないのかい?」
「はい……仲良くなくて」
「そういう関係……恨まれているとか?」
「恨まれるようなことはしていないと思います。関わらないようにしていたので」
私が関わらなかったところで向こうは部屋へわざわざ押しかけてきていじめてくるくらいだ。
どちらかと言うとこっちが恨んでもおかしくないくらい。
あ、だけど1つ思い当たることがあった。
「あ、あるとすれば私はエステリアの学校に進学して、アーミアはバレンタインの学校でしてそれでガミガミ言われた気がします」
「あー……」
何となくサジタリオンは察してくれたようだ。
私達は話し合いを終えて……まずは屋敷の中を調べる。
アナ……どうか無事で居て!




