第108話 街の崩壊
馬に揺られること9時間弱、私達はバレンタインの街のすぐそこの平原に居た。
本当に半日、いやそれよりもずっと早くたどり着いた。
「なんだかサジタリオン様の魔法でも予想以上に早く着いた気がするけど」
ちなみに私も強化魔法を使って馬を強化してみた。といってもおそらくサジタリオン程の強化魔法じゃない。
人以外の生物に強化の魔法を使うのは初めてでなかなか慣れないのとこの魔法は初めて使ったからこんなものだろう。
そのせいでサジタリオンが予想したよりもずっと早かったという事だ。
「早いに越したことはないと思いますよ?それよりサジタリオン様、これからどうしますか?」
「あ、うん。バレンタインの街がどうなってるのか分からないから遠くから近づいて様子を見るよ」
「はい!」
「分かりました」
こういう時、私は返事をするべきだろうか……。なんだか場違いな気がしてただオドオドしてしまう。
私も一緒に戦うのだけど今の私は剣士だから、魔法を使う訳にはいかないし……。
影でこそこそ魔法を使いたいんだけど、魔導騎士が見てるんだから下手な事はできない。
バレたらどうして魔導騎士でもない小娘が魔法と剣を使えるんだー!!って怒られて最悪死刑までありそうだし……噂では一般の子が魔導騎士と同じ力を持っていて、どこかへ連れていかれたみたいな話もある。
「君も私達から離れないように」
「え……は、はい」
「ちなみに戦える?」
剣士としての経験は浅く、才能も無いと言われているけど……アーミアが原因なら私が何とかしなきゃいけない。
ここはとりあえず戦えるという意思表示をしておこう。
久しぶりに私は炎の剣を取り出す。
この剣は契約時、私の身体に入っていつでも取り出せるようになった。
だから普段は剣を持っていない状態からでもすぐに取り出せる。
何も無い所から剣が湧いてでてきても魔導騎士の3人は驚かない。
「身体に収納できる聖剣……。なるほど良い剣だ」
「そ、そうですか?」
「ふむ……ただ――」
サジタリオンは私のことをじっと見つめてくる。
な、なんだろう変なことを言っちゃった……?
警戒させちゃったかな……でもこの人達と敵対するつもりが無いのは事実……私はどっしりと構える事にする。
「君は下がっていて貰えるかい?」
「戦ってはダメですか?」
「君の強さが分からない以上、足でまといになる可能性がある。万が一の事を考えて最低限でお願いするよ」
魔導騎士は悪い話しか聞かないんだけど、まともな人がいるのは知っている。
この人が校長先生のようなタイプなら信用出来る。
校長先生の事は全く知らないんだけどね……ただ見た感じ良い人そうだった。
それにサジタリオンは本当に私のことを心配してくれているみたい。心配しているのにここまで連れてきてくれたのにはなにか理由があるのかな?
どちらにしろ連れてきてもらったのは助かったし、足を引っ張らないようにしよう。
4人でバレンタインの街へ慎重に入っていく。
1度、フーリアとバレンタインの街を歩き回った時、無駄に歩き回ったのが今回は役に立つ。
景色は夏と変わらず簡単に案内ができそう。
「あ、ここから先はバレンタインの街です」
「うん、やっぱり地理に詳しい人がいるのは助かるね。ここからバレンタイン邸へ安全に入れる場所はある?」
バレンタインの家の中へ続く通路なんてものは無い。
それに街の様子がまだ分からない以上どこまで行けるのかも分からない。
「あ、もう少し中の様子を見たいのですが」
「ふむ、状況が分からないと対処のしょうがないか。もう少し近づこう!」
やっぱりすんなり意見を聞いてくれる。まともな人に会えたことに感動してしまう。
それだけ自分の中の魔導騎士への印象が悪すぎた。
そんな感動と同時になんだか罪悪感を感じる。全然知らない人とこんなところまで来てしまったことでフーリア達に申し訳ない気持ちになる。
皆を巻き込まない方がいいと思って黙って来たのに後悔してる……?
そんなことを考えていると服の中からルミナが顔を出す。
何も声を発することはないけど、私に何かを訴えるように語りかけてくるようだ。
まさかこうなることが分かって私を1人で行かせたくなかったのかな。ルミナのうるうるとした瞳が私の目を見つめて来て胸が苦しくなる。
仲間とかこの世界で出来たのが初めてでまさかこんな気持ちになるとは思わなかったから。
「ちょ……っ!!どこにペットを隠して……!」
サツキは顔を赤くして目を逸らす。
そういえば私の服の間からルミナが出てくる時はだいたい女性陣が周りにいる時だけだった。
というか男と行動することこそほとんどないからそんなこと意識してなかった。
服と胸の間からルミナが出てくるのを見られるのちょっと恥ずかしい……かもしれない。この世界へ来て初めてこんな恥じらいを感じる。
中身が一応男なわけで、別にそんなのは気にしない……気にしないんだけど……!
「てかその子、魔物?狐っぽいけど天使のような輪っか付いてるし」
あまり会話に参加しないマツバがルミナを見てそんなことを言う。
魔物と間違えられてもおかしくないけど、一応仲間だ。
ここはペットと言い張っておこう……本当は仲間だと思ってます!!
「魔物をペットに……君面白いね」
「あはは……それより今は……」
「そうだね。街の様子を……あ、ちょうどいい所に覗ける場所がある。見てみよう」
茂みの中を指差してサジタリオンは足音を立てずに忍び込む。街の様子を見ると私はその光景を見て驚愕する。
あれほど綺麗だった街並みは見る影もなく、舗装された道は割れ、立ち並ぶ家は崩壊……一部凍り付いていた。
そして辺りには酷い血溜まりがそこら中に見受けられた。
そんな光景に私は――。
「酷い……!」
ただただそんな言葉しか出てこなかった。




