第107話 出会い
私に力を貸すことにどこか乗り気じゃないルミナを見て仕方なく他の方法を考える。
こんな状態の子に無理強いは良くないよね。ルミナを服の中へ仕舞うと先ほどの違和感の正体に気づく。それは尻尾の数が一本少なかった。胸に入って行った瞬間に見えた尻尾の数で分かったんだけど……どうしたんだろう?
魔物だし、尻尾の出し入れとかできるのか?あるいは……。
そんなことを考えて居ても仕方ないか、魔導騎士3人の居る馬車の待機場へ向かう。
ルミナは服の中から出てくる気配がない、この子の力さえ借りられればこんなことをしなくて済むんだけど……。
やってる……!!
「あ、あの……」
「ん?君は?」
「あ、あの……魔導騎士様ですよね……?」
「そうだけど、まさか魔導騎士の事を信仰している子?」
「あ……いやそう言うわけでは……お、おねが……い……が」
そう、私の最終手段はお願いだった……バレンタインという名前を使う事で成功率を上げる。しかし人と話すことに慣れていない私からすれば最後の一手と言っていい。
ただ……信仰してないって言う方がお願いする場合通りにくいかもしれない。
こういう人との会話は久しぶりでついつい会話慣れしていない部分が出てしまう。
私達を襲ってくるような敵なら何故かスラスラと話せるのに……。どうしてこういう普通の会話はできないのか。
私は自分のそんな所が本当に嫌いだ。
こういう場合はどうすればいんだろ……とりあえずまずは自己紹介?
「え……っと私は、ルーク=バレンタインと言います」
「バレンタイン……!?君が?ルーク……さん?」
「は、はい」
「確かバレンタインの娘さんはアーミアって子じゃ」
「あ、それは義理の姉です」
「義理?じゃあ君はバレンタインの血を引いていないのか?」
「い、いえ。むしろ私の方が……といかアーミアの事を知って……いえそれよりも……!!」
「……ゆっくりでいいから説明してもらっていいかな?」
会話が苦手だから少し長くなってしまうかもしれないけど私はなるべく完結に必要な部分を選定して説明した。
おそらく言葉足らずの部分はあったかもしれない。
それでも私がバレンタインの血を引くこと、義理の姉が暴走した真相を知りたい事、そして私達が今までどこに居たのかの説明はできたはずだ。
「その話を信じろと?」
「えっと……ギルドマスターなら……って赤ちゃんになってるんだった」
「じゃあ手紙を渡してくれたという受付嬢から聞けばいいのか?」
「は……はい……あっ……」
今ここでギルドへ行けばフーリア達に見つかる。
私が1人でバレンタインの街へ向かうために魔導騎士の人に話しかけたのにこれじゃあ意味がない!!
でもこれ以上、上手く説明できるとは思えない……。
こうなったら……一か八か私は怪しまれることを承知でギルドへ赴くことを拒絶する。
すると魔導騎士の青年は困ったように応える。
「それだと証明できないなぁ」
「し、信じてください……!せめてバレンタインの街へ行かせてください!!」
皆のため……私は覚悟を決めてこの人に話しかけているんだ。
ここで引くわけにはいかない!!
そんな私の想いを感じ取ってくれたのか魔導騎士の青年は優しく微笑む。
「分かった……君を信じよう」
「サジタリオン様!?正気ですか!?」
「正気だよサツキくん。この子は嘘を付いていない」
「理解できませんが……しかし急がないといけないのでいいですよ。だけど邪魔するなら……」
サツキと呼ばれた私と同じ位の少年は疑いの目を向けてくる。
怖い……。
納得はしていないみたいだけど、魔導騎士の少年二人は私が付いていくことに承認してくれた。
「ということでサツキくん、その子を君の馬に乗せて上げて」
「なんで俺が……ですか……?」
「だってこんな可憐な少女を超スピードの馬に一人で乗せて振り落とされたら危険だし」
「はぁ……時間が無いんでそれでいいですけど、途中で落ちても拾いませんよ?」
「僕の話聞いてた?……でもまあそこは大丈夫じゃないかな」
「……どういう意味ですか」
「さぁ、その子を乗せて上げれば分かるかもしれない。それより本当に時間が惜しいから行くよ」
「はぁ……」
サツキに睨まれている私は申し訳ない気持ちになりながら馬の背中に乗せてもらう。
馬が引く荷車には乗ったことあるけど、馬の背中なんて初めて乗った……。外に出ることが無かったせいで馬の操術を習わなかった。
サツキの背中が私の前にある。腰を掴んだ方が安全なんだろうけど、嫌われているはずだから、ここは馬にしがみつくしかないか……?
だとするとなんだか凄く間抜けな絵面になるわね。
「……ちゃんと掴んでいないと振り落とされるぞ」
「え……でも……」
「落ちたら本当に面倒くさいから、触っていいからちゃんと掴め」
「は、はい……!!」
嫌われているのかと思ったんだけど、意外にも私の心配をしてくれていた。
私はサツキの腰を掴んで落ちないようにする。
一応身体強化を掛けて掴む力を強くする。
「ん……これは……」
「どうしましたか?」
「いや……結構力が強いんだな」
「い、一応剣士なので……」
ルエリアでは剣士として活動している。そのため、魔導士とは言えない。
でも逆にそれでいいのかもね。力が強くても何も疑われないし。
しかしながら……何とか馬に乗せてもらったけど……これで本当に半日で着くのかな?
そんなことを考えているともう一人の魔導騎士の青年が魔法を発動する。
「それじゃあ行くよ!……強化魔法サジタリウス!!」
その強化魔法は馬に使う事で移動速度が上がるらしい。
こんな使い方は初めて見た。どれくらい早いんだろ……?
「ルークさんはしっかり掴まっててね!それじゃあ行くよっ!!」
サジタリオンがそう叫んだ時、馬はとてつもないスピードで走り出した。
あまりのスピードに唖然としていると前の方から声がする。
「振り落とされるなよ」
「だ、大丈夫です」
「ふん……」
心配してくれているのかイマイチ分からない。
気の難しい人なのね……どうせ関わるとしてもこれが最後だろうし、気にしないでおこう。
今は一刻も早くバレンタインの街へたどり着くことだけを考えよう!
私は強化された馬を使ってバレンタインの街へ向かう……フーリア達を置いて……。