第102話 成長の兆し
「カンナ……貴様がどうしてここに?」
「それはこちらのセリフですわ」
漆黒の黒い髪を靡かせて現れた八重歯が特徴的な女性カンナ。
「はぁ?魔導剣士でもない者がそんな口を聞いて良いのかしら?」
「神と自称しているだけのあなた方に継承など不要ですわ……それに私は真面目な方達を知っている。あなたのような野蛮人ではありませんわ」
「無礼者め!こうなったら……!」
アステリズムは地面に落ちているショナの父の剣を手に取り、不敵な笑みを浮かべます。
「ふふ、これがあれば……!」
聖剣を手に取ったアステリズムは水を得た魚のように生き生きしていた。
しかし、そんな様子を悲しげなまるで可哀想なものを見ているかの目でカンナはアステリズム……の握る剣を見つめていた。
それを見たアステリズムは先ほどまで喜んでいたのに急に怒り出す。
「何その顔……ムカつくんですけど」
「悲しいのよ」
「あーこの剣を取られたから?ざあーんねん!これは私の物よ小娘ぇ!」
その言葉はカンナではなく、まだ幼い頃のショナへ向けられたものだった。
ショナはこの時、あまりの悔しさに大粒の涙を沢山流しました。
「ごめんなさいね……私がもう少し早ければ……」
「うっうぅ……」
「本当にごめんね……せめてあなただけは死なせない!」
ショナは悲しいという感情とどこか安心感がある不安定な気持ちを抱きながらその戦いの様子を見ています。
カンナはショナの頭を撫でた後、剣を構え直して睨むようにアステリズムを凝視していた。絶対に許さないという意思をその瞳が訴えているように。
「剣が主を失って泣いていますわ……」
「剣が泣くわけないでしょ!」
「泣きますよ……だって生きているんですもの」
ショナは未だに剣の声というのは聞いたことがない。
炎神剣のカンナと呼ばれる彼女はこのハーベスト帝国でも最強の名に相応しい剣士。
「そう思うならその剣を使ってみなさい」
「生意気な……この魔剣バアルと聖剣…………………………」
「どうしたのですか?聖剣を手に取ったのならその真名を叫びなさい」
「なんで……なんで応答しないのよ!アイツが死んだら次の持ち主に力を貸すのが政権の役目でしょ!!」
聖剣は何も語らない。
聖剣はアステリズムを選ばなかった。
「それが応えよ」
「どうして!私は魔導騎士よ!神に選ばれた私に従いなさい!」
「もう……やめてください……」
「こんのっ!!」
アステリズムは力を解放できていない聖剣を振るおうとした時――その聖剣は宙を舞い、ショナの所まで降ってきた。
気づくとカンナは音を立てず、一瞬でアステリズムの所まで移動していた。
炎の剣を抜いたのか塚が少しだけ燃えていたがその刀身を見せることはありませんでした。
「い、いつの間に……!」
「四天種のお姉様の後を継ぐ私はこういった苦しんでいる市民を守る義務がありますから」
「くっ……このビッチ姉妹が……!」
「残念だけど、私にお姉様と同じ力はないんです……剣士ですので。後、お姉様だってそんなことはしませんわ」
「ふん、ハーベスト帝国は馬鹿しか居ないのかこんな異種族を……」
「それが人族であるハーベスト王の意向なのです」
「……」
「そして今回の件はそのハーベスト王へ報告しておきますわ」
「なっ……!!」
魔導騎士といえど、ハーベスト帝国では度の過ぎることをすれば立場が悪くなる。ルエリア程、魔導騎士を恐れていないのがこの国の特徴。
諦めたアステリズムは謝罪1つなく、去っていった。
敵が居なくなったことでカンナは安堵し、ショナへ駆け寄る。
「……立てますか?」
「……」
「そう……じゃあ……」
「な、何を!?」
カンナはショナを無理矢理立たせてた。
ショナが突然身体を触られて驚いていると、まるで心を覗き見るかのように綺麗で神秘的な黒い瞳で私の目を見つめる。
「辛い時は泣いていいけど、ずっとそれじゃあ天国のご両親は安心できないわ」
「わ、私は……」
「だから泣き止んだら笑いなさい、元気で明るくいれば安心してくれるから」
「でもこれから……うぅ……」
「……それなら少しの間、私が責任をもって面倒を見ますわ」
「……うん」
この時のショナはそう返事をしましたが、心の中ではもうどうなっても良いと考えていました。
ある少女にであるまでは……。
――
「まあ全部を話すと長くなるから、重要な部分だけ話したよ」
「……なるほど」
予想以上に重い話を聞いてなんて言ったらいいのか分からない。この子は私が経験した人生よりも遥かに辛いことを経験していた。
普段の元気な様子からは分からない1面……。
「よ、よく立ち直ったね」
「あの後、ユウリにあって寂しさを埋めてくれたからね……あの子と関わる事で忙しくなってそれどころじゃなくなったんだよ」
「凄いねショナは」
「どうだろ、当時は現実味が無くて感覚が麻痺してたのかも?なんかあの時の感情をよく思い出せないんだ」
「そっか……」
これでショナがどれだけ命を大事にしているのかが分かった。
もう目の前で人が死ぬ様子は見たくないのね……。
「だ、だけど……もし皆に危険が及ぶようなら私は……」
「分かってる!ルークはルークの思った通りにやって、私はそれに従うから……でも――」
「どうしたの?」
「もっと強くなっていつか、私の目の前で人が死なないようにするから!!」
「うん、きっとそうなるよ」
ショナはまだ聖剣の力を引き出していないのならまだまだ伸びしろがある。
その真名を呼べるようになった時、ショナは遥か高みを目指せるほどに強くなるはず。
フーリアも馴染まない魔剣アスタロトを使ってるわけだし、ホワイト家の剣を手に入れればパーティはもっと強くなる!
今回のハーベスト帝国への旅行は私達にとってとてもいい成長を得られた。