第101話 雷のツルギ
ショナ=カロライナは何の変哲もない一般の家庭に生まれました。
当時12歳の頃にはまだ星の欠片なんて冒険者ギルドは無く、平和な街でした。
父は元冒険者で母は主婦、この頃のショナは剣術の修練場へ通っていました。
14歳で初めての修練だからひたすら木の剣を振っています。
「ふん!ふん!!」
「頑張ってるな!」
「はい!!」
10歳からとある理由でショナは剣士を目指していました……それはこの時まだ持っていない、雷の剣を受け継ぐというものでした。
「しかし、まだあの方の聖剣ラ……」
「あー!名前言わないでってば!!お父さんから貰って聖剣と契約して聞くんだから!」
「おっとそうだったね」
剣の名前というのは重要で本来の力を発揮するためには必要ですが、まだ聖剣に教えてもらってないのが今のショナの現状。
……ライコウという名前は最初の一文字と雷に関係する言葉を適当に叫んでいるだけ。それでも多少は力を貸してくれています。
剣というのは聖剣と魔剣だけ最初から名前がある。魔導士がいちいち魔法名を叫ぶのと同じように、詠唱とよく似た効果があります。
普通に使うよりもその剣に備わった力を最大限に活かせる。
ライコウという仮の名前でも強力な剣。
この頃のショナはそれを手にして名前を叫ぶ未来の自分を想像して木の剣を振っていました。
「そのためにはもっと修行をしないとね……剣は持ち主を選ぶから」
「剣が……?」
「そう、契約すると言っただろう?聖剣や魔剣は生きていて、持ち主を選ぶんだ」
「へぇ……」
「だからちゃんと名前を呼べるように強くなろうね」
「はーい!」
そんな何の変哲もない普通の日常――しかしそのすぐに最悪なことが起きてしまう。
特訓を終えて家に帰った時、家から大きな怒鳴り声が聞こえます。
「その聖剣を私に譲りなさい」
「馬鹿な……いくら魔導騎士様でも聖剣は譲れません。それは分かっていますよね?」
「平和主義の愚か者達が勝手に作ったルールでしょ!生憎私はあの馬鹿共とは違うのよ」
「ただ、ルールを定めただけじゃないんです!!……こういった力を持った剣は持つものによっては生きるために必要になってくる。それを魔導騎士様なら簡単に奪えてしまうという前例を作ってはいけないと……」
「あーうるさいよあんた……まさかこのアステリズム様の命令を聞けないの?」
そんな魔導騎士でも守らないと後々取り返しのつかないことをアステリズムと名乗る女性はやろうとしていた。
桃色の短い髪をなびかせて上からの態度を一切改めない。
「それにあんたは冒険者やめてんでしょ?」
「この剣は……娘が生きてくために今後受け継いで行くので」
「娘……?そんなのに上げるくらいなら私が使ってあげた方がいいに決まってるわ!!」
「だからそれは出来ないんです……!」
両親はアステリズムを説得するために何度も説明してくれていました。しかし相手もなかなか引いてくれません。
その日はもうすっかり夜も更けて来て、これ以上騒ぐとジャスミンの街の人達へ悪い印象を与えかねないと思ったのか。
「ふん、眠いからまた来るわ!いい?その剣は私のモノよ」
そんな捨て台詞を吐いてアステリズムは去って行った。
剣を奪うのはいいのに他の印象が悪くなるのは嫌という何とも身勝手な方でした。
この日は何事も無く済みましたが、事件が起こったのはその翌日。
「ショナ、今日は王都の貴族様が街へ来ているんだ」
「貴族様?」
「ああ、もしかしたらショナの剣術を見て惚れ込んでスカウトされちゃうかもなぁ!!」
「お父さんさすがにそれはないよ!!」
スカウトにはあまり興味が無さそうですが、褒められてとても嬉しそうにショナは跳ねています。
この日も当然のごとく特訓をして、夕方になれば終える。
帰りは両親が迎えに来てくれていました。
(今思えば昨日の魔導騎士を警戒してついてきてくれたんじゃないかな)
しかしその帰り支度をしていた時でした剣術教室の大きな施設の扉から爆発音が響く。
ショナの両親は彼女を庇うように両手を広げて守ってくれる。
そして爆発を起こした輩が施設の中へ入って……有無を言わさず施設にいた人たちを襲い始めた。
あっという間に施設は戦場と化す。
そんな戦いを誘発したのがアステリズム。彼女の狙いは当然、聖剣を奪うことです。
「ショナという娘を差し出せ!さもないとここに居る連中皆殺しにするわ!!」
そこへショナに剣を教えてくれた先生が話をするために出ていく。
「どうしてショナちゃんを?」
「その娘を殺せば聖剣が手に入るのよ」
「……聖剣は文字通り聖なる剣……そんな悪しき心を持った者には扱えません」
「私に魔剣なんていうおぞましい物は似合わないでしょ?聖なる剣……それも雷を操る最高の剣が欲しいのよ!!」
「そんな理由が通れば魔導騎士はどうなるか……!」
「は?まさか魔導騎士であるこの私を脅してるの?」
「私はただ……」
「邪魔するなら斬るわ!力を使いなさい魔剣バアル!!」
その次の瞬間、鼓膜が破れそうな大きな雷の音が施設に響いた。
施設の3分の2は破壊され、黒い雷に直撃した先生は声を発することなく、真っ黒になり動かなくなった。
「先生ぇぇぇぇええええええ!!!!」
「はぁ……この黒い雷、嫌いなのよね……汚いし、やっぱり聖剣よね〜」
自分の使う剣の雷の色が嫌いという理由だけで、こんなことをする――それが魔導騎士。
叫んだせいでアステリズムは気づいてしまった。
「あら、あんたは昨日の……ということはそれが娘?」
「くっ……お前、ショナを連れて逃げなさい!」
「あなたは!?」
「俺は戦う。だから――」
そんな言葉を遮るように無慈悲な黒い雷がショナの母を襲いました。あえてショナを避けるように――剣術の先生と同じく黒焦げになって……。
「な、なんてことを……!!」
「逃げようとするからでしょ?どいつもこいつも……エルフだけじゃなく、人間も私に逆らったらこうなるの。さぁ剣術勝負と行きましょう?勝ったらその剣を貰うわぁ!!」
「貴様ァ!!」
「魔導騎士をそんな呼び方してタダで済むと――」
ショナの父はアステリズムに聖剣を使って、最初は有利に戦闘していた。
剣術はショナの父の方が上、そして剣の性能も聖剣の方が上だった。上手く行かないそんな状況に痺れを切らしてアステリズムは叫ぶ。
「クソ、クソクソ!こんなことして許さないんだから!」
「……喋ってばかりだと舌を噛むぞ」
「まずい――ッ!!」
「斬り裂け聖剣ラ……」
聖剣はアステリズムを捉え、胴体を切り裂く勢いだった――。
しかし、聖剣は振り下ろされる前に止まる。攻撃を辞めたから?違う。
「フリーズボルト……魔導騎士は魔法を使えるのよ!!」
剣術勝負とか言っていながら魔法を使って勝利した。
動きを封じられ、黒雷を正面から受けてしまいます……ショナはその光景見ている事しかできなかった。
父の身体は氷と一緒に砕け……。
「嘘……どうして……あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ……!!」
「後はあんただけ」
目の前で3人も大切な人を同時に失って絶望していたその時、施設の音を聞いてギルド花園の冒険者がやってきた。
「これは何事ですか!?」
「また新手……?さすがにめんど――」
入ってきた冒険者へ剣を向けたアステリズムだけど、その手は震えていた。
施設へ入ってきたのはまだS級の冒険者で現在はハーベスト帝国四天種が1人。
「炎神剣のカンナ!?」