第100話 ショナの苦悩
重苦しい空気の中、ギルドへ戻る。
ギルドの中には私達を心配してくれていたのか普段は居ないマスタージャスミンが待って居てくれていた。
とりあえず、何があったのかをショナが伝える。
もちろん他の人達に聞かれてパニックになるのを防ぐために別室で……。
何1つとして包み隠さず話し終える――ジャスミンは一呼吸置くようにため息を付いた。
「はぁ……そんなことが……エキナに任せるべきだったわね」
「でもエキナさんは王都へ向かったんですよね?」
「あぁ……今頃はアルストロメリアに着いている頃ね」
エキナはお昼にジャスミンの街を出て、今は夕暮れ時、2つの街がとても近いからこそそんなに早く着ける。
ジャスミン曰く、エキナならアルストロメリアをすぐにでも出て王都へ向かうだろうという。
そうなると帰って来てもらうわけにはいかない。
せっかく平和になったと思ったジャスミンの街だけど、新たな問題が出てきた。
心霊現象が起きると思われていた森……その地下には魔導騎士がいた。しかも人攫いをしているような悪い奴だ。
「そのレオとかいう奴は殺したのか?」
「た、多分……地下で炎の中に放置してきたので……炎に耐性があっても窒息死するかと」
「……あなたはたまにえぐい事をしますね」
「どちらかというと、大体の炎はレオのモノですけど……」
地下なんかで炎の魔法を使うからそうなる。
人を殺すというのは前世の倫理感から一歩引いてしまうが、今後は会いたくないので倒れていて欲しい……じゃないとあの牢屋で死んでいった人達が報われない。
「地下牢の者達の事は残念だったわ。だけどあなた達が気にする事じゃない……状況を聞く限り、どう頑張っても後数日の命だったんだから」
「はい……」
元気のないショナの返事を聞いてジャスミンは気を使ってくれる。
ジャスミンも申し訳ないというそんな表情が見える事から、私達へ行かせた事への負い目を感じているみたい。
「辛い依頼を任せてしまった。そんな気分ではないだろうが報酬を受け取ってから今日は帰りなさい」
「はい……ありがとうございます」
受付嬢から今回の依頼分のお金を貰って家へ帰った。
ショナはずっと落ち込んだまま、家に戻るとすぐに部屋に閉じこもってしまった。
牢屋に閉じ込められていた人を見捨てたから怒ってるのかな。だけど私だって仲間を死なせないようにしなきゃいけなかった。
あの場はショナに嫌われてでもあの選択肢しかない。少なくとも私は今でもそう思っている。
だけど当然私だって辛くないわけじゃない。
それでもあの様子を見ると後悔が先に出る。
「やっぱり嫌ね……人に嫌われるというのは」
「ショナの事?大丈夫よ。嫌っているというよりはあれは――」
「何?」
「……なんでもない!」
フーリアは何か思うところがあるのか、それとも何かに気づいているのか……。
私じゃ分からない事がショナに起きているのは確かみたいね。
「てかそんなに嫌われるのが嫌なの?」
「それは誰だって嫌だよ」
「まあルークはあの義母さんと一緒に居たんだもんね。分からなくもないか」
「いや……どちらかというとフーリア……」
「私が何?」
「いえ……なんでもないです」
精神的には歳を取っていても幼い頃、仲良くしていた人に嫌われたというあの時の衝撃はトラウマ物だった。
それ以来、フーリアに嫌われないように気を付けていたせいですごく気にするようになっている。
何故かフーリア本人は私には関係ない事みたいな感じで接してくる。
今では仲間だけど、再会した時の事を忘れているのかな……?
「……とりあえず今日は疲れたし寝よ」
「それもそうね」
夕食はギルドで食べたし、すっかり日も落ちていたので今日は眠ることにした。
明日になればショナの気持ちも整理できている……はず。
そんな翌朝――
「おはよう……」
私の部屋にショナがボサボサの頭でだらしなくパジャマを着こなしてやってきた。16の少女にしては褒められた装いじゃない。いつもは朝からハイテンションなため、朝に弱い……とはまた違うだろう。朝にめっぽう強い彼女がこんな暗い顔をするわけがない。
やっぱり昨日の事を気にしているんだろう。
「昨日はごめんなさい……」
「え……どうしたの?」
「私、態度が悪かったと思う」
「態度が悪いというよりは辛そうだったというか……」
「そう……ね。人の命が奪われる瞬間はもう見たくないって思ってたから」
「そうだね」
私のその返答に一瞬考える仕草をするショナ。
目を閉じて両手を強く握りしめ、まるで何か覚悟を決めたかのようにこちらを見つめてくる。
「……エキナさんに言われていたし、そろそろ話してもいいとそう思ってここに来たの」
朝から重い話になりそうだけど、こういうのを聞くのも私の役目なのかもしれない。覚悟を決めて私は、ショナの話を聞くことにした。
だけど1つ気になる事がある。
「フーリアはどうするの?」
「あの子は他人の過去なんてどうでも良さそうだし、興味も無さそうだし……」
「そんなことは無いと思うけど」
「フーリアを信用してないわけじゃないんだよ!何というかこういう話は、ルークにならしやすいかなって」
「な、なるほど」
精神的な年齢が高いのに気づいているのか、それとも女の勘って奴なのか。
頼られてたのならそれに応えたい。私だって色々経験してきたわけだし大丈夫なはず……!!
ショナをベッドに座らせて安心できるように私もその隣に座る。
そしてショナはエステリア学校へ来る前の過去に何があったのか語る。




