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婚約破棄

「シャンフレック、お前との婚約を破棄する!」


 声高らかに突きつけられた婚約破棄。

 第二王子のユリスは、十年以上も連れ添った婚約者を見捨てた。

 しかも大勢の貴族の眼前で。


 婚約破棄された令嬢は静かに佇む。

 彼女の名は、シャンフレック・フェアシュヴィンデ。

 花も恥じらう公爵令嬢である。

 ミルクチョコレート色の髪を長く伸ばし、エメラルドのような瞳で前を見据えている。

 その美貌は社交界でも有名だった。


「なるほど」


 シャンフレックは特に混乱していなかった。

 想定していた事態だ。


 そもそも、彼女とユリスはうわべだけの関係。

 互いの家の利益のために婚約を交わしただけだった。

 二人の間に愛はなく、絆もなかった。


 周囲の貴族や大臣は戸惑った表情を浮かべている。

 婚約破棄されることを想定していたシャンフレックに対して、いきなり婚約破棄を知った周囲は困惑せざるを得ない。

 シャンフレックのどこに不満があって破棄などするのか。

 彼女は公爵令嬢として完璧なのに。


「破棄の理由を知りたいだろう?

 俺は真実の愛を見つけた!」


 真実の愛、と宣言してユリスは少女を抱き寄せる。

 ユリスに抱かれているのはアマリス男爵令嬢。

 薄紫色の髪を伸ばし、露出度の高いドレスを着ている。


 アマリスの実家には大した権力もなければ、財力もない。

 シャンフレック公爵家の足元にも及ばない男爵家である。


(またこれ……貴族の間で流行っているのかしら?)


 シャンフレックは心中で困惑した。

 最近、貴族の間では「真実の愛」とか抜かして婚約破棄する事態が多いらしい。正直意味がわからない。


 とにかく、ユリスが破談してくれたのは僥倖だ。

 相手が王子という立場上、シャンフレックは否が応でも婚約を否定できなかった。相手方から申し出てくれて彼女は舞い上がりそうな思いだ。

 もっとも、表情には出さないが。


「アマリスとの真実の愛の前には、君との偽りの愛など霞む。これまで互いに興味もなく過ごしてきたが……その日々も終わりだ。君は適当な相手でも見つけて、好きに過ごすといいさ!」

「ええ、もちろんそのつもりです。あと、お仕事はもうしませんからね?」


 ユリスは驚くほど馬鹿だ。

 他の人間から簡単にそそのかされ、その度にシャンフレックが尻を拭ってきた。夜な夜な遊びに出かけては、王家の信用を落としていた。そして何より、国民からは信頼されていない。

 いつもシャンフレックに政務を押しつけてきて、かなりの時間を奪われていた日々。

 こんな男と婚約破棄できて、シャンフレックは本当に救われた心地だった。


「それにシャンフレックには愛嬌がない。アマリスは俺を一途に慕ってくれていて、とても愛らしいぞ?」


 慕っているというよりも、べったりと媚びているように見える。

 アマリスはユリスに抱えられて、勝ち誇ったように笑っていた。

 シャンフレックは婚約者として、淑女としてそれとなくユリスを支えてきた過去があった。しかし彼女の献身は相手に伝わらなかったらしい。


「ユリス殿下!? その婚約破棄、陛下はご存知なのですか!?」


 大臣が冷や汗を浮かべて尋ねる。


「こ、これは俺たちの愛だ! 父上は関係ない!」


 やはり国王は知らないようだ。

 常識的な価値観を持っていれば、この婚約破棄は認めないだろう。


 もっとも、復縁を国王から迫られてもシャンフレックは拒否するつもりでいた。

 にこりと微笑んで、彼女はカーテシーした。


「承知しました。ユリス……いえ、殿下。殿下がすばらしき愛を見つけることができ、私も幸甚の至りです。どうかお幸せに」

「あ、ああ……もうよりは戻さないからな!」


 復縁など、こちらから願い下げだ。

 シャンフレックは優雅な足取りでその場を去った。


 あっさりと婚約破棄を認めた彼女に、ユリスは少し戸惑っていた。

 しかし、すぐにアマリスと会話することでシャンフレックのことなど忘れたのだった。


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