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第1章 第4話 手を繋ぐ

「じゃあ戻ろうか」



 とりあえず仮面交際を始めることが決まり、お互いの家族が待つ1階に下りようとしたが、玲花さんは動こうとはしない。



「ちょっと待ってください。設定はちゃんと決めておかないと」

「設定? あぁ呼び方とかか。まぁ会ったばっかだし普通でいいんじゃないか?」


「普通が一番困るんです! 呼び方は当然ですが、2人の空気感、ここで何を話したか、お互いどう思っているか。そういった細かな設定を考えないと齟齬が生まれるでしょう!?」

「齟齬って……」



 まぁ普段猫を被ってるこいつからしてみればそういうところには気を遣うのだろう。



「全部任せるよ。俺何でもいいから」

「そうですか。ではせんぱいが元々わたしが大好きで、こうやって付き合えることになって感謝感激。もう何でも言うこと聞いちゃう! って感じで」

「ちょっと待てや」



 そうだ……忘れてはならないのは、こいつの性格が悪いということ。俺の都合なんて一切考えてないんだ。



「あのな、俺は羽衣と付き合ってたの。そしてそれは俺の家族もお前の兄貴も知ってる。それで前から好きとかなったら羽衣とは妥協だったのかって話になるだろ」

「いいじゃないですかそれで。わたし困ります?」

「俺が困るんだって言ってんだよ……」



 駄目だ、話すたびに嫌いになる。やっぱり設定は必要だ。俺が普通に話せない。



「とりあえず事実に基づこう。国定婚約者政策で付き合うことにはなったが、まだ出会ったばっかり。お互いまだ受け入れられていないが、でも実際に2人きりで話してみたら意外と気が合うことがわかった。こんなんでどうだ?」

「えー、まるで仲良しみたいじゃないですか」


「仲良しみたいにするために設定作るんだろ。文句あるならそっちで考えろ」

「んー、とりあえずそれでいいです。呼び方も今のままでいいですね」



 はぁ……。ただ話すだけで疲れる。しかもここから相手の家族ともちゃんと話さないといけないんだろ……。何より黒治がいるんだよな……憂鬱だ。



「……せんぱい。その手はなんですか?」

「? ああ……ごめん」



 付き合うという設定を入れたら自然と手を差し出していた。羽衣は手を繋ぐと喜ぶから。でも会ってそうそうこれはないよな。



「ちょっと待ってください。今わたしのこと馬鹿にしました? 付き合うって決めたのに手も繋げないだろうって!」

「そんなこと思ってないって……」


「馬鹿にしないでください! 男の人と手を繋ぐことくらいなんとも思ってませんから!」

「そりゃなんとも思わないだろ……手を繋ぐことくらい」



 俺の左手に玲花さんの右手が絡まる。だが握手みたいになったので手の形を変えさせ、カップル繋ぎになるようにした。すると玲花さんの手のひらがじんわりと湿ってきた。



「……やっぱやめるか。慣れないことは」

「ば、馬鹿にしないでくださいって言ってるでしょ!? これくらい! なんとも……ないんだから……」



 あくまでも強気な態度は崩さない玲花さん……だが。横のその顔は心配になるほど赤く、肌もびっくりするほど熱い。



「別に強がる必要ないだろ……。俺も初めて羽衣と手を繋いだときは緊張したし。普通のことだって」

「はぁっ!? わたしをせんぱいみたいな異性と付き合ったこともないクソ童貞野郎だって思ってるんですか!?」


「いやだから羽衣と付き合ってたって……童貞なのは確かだけどさ」

「舐めないでくださいっ! さぁいきますよ! ラブラブカップル作戦開始ですっ!」



 いつの間にラブラブカップルになったんだか。反論するのも面倒だから受け入れたが、不安な滑り出しにやはりため息をつくのだった。

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