Exp.6『終わりたい。だから進む』
王国を出て、荒れた大地をまっすぐ進んだ先にある村。
アルフェ村。
セレーネの故郷である。
アルフェ村の丘からは海が見える。広い海と広い星空が見える。
どこまでも深く遠い。
そして今宵は満月だった。
「戻ってきました……」
丘には一つの十字架があり、俺はしゃがみ込んだ。
汗と血まみれの体。
切り傷の跡や打痕……。
戦いには勝った。
復讐は果たしたのだ。
それなのに、それなのに……。
――――――――――――――――――!
うわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
俺は、震えながら冷たい手を合わせ、そのまま泣き崩れた。
瞳の奥底に溜まっていた涙が滝のように流れ落ちた。
「やっぱり、君にはあえないのかぁ……」
「俺は、あなたをセレーネを愛していた。愛していたのに」
「俺がもっと、強ければ、救えたはずだった……」
「それなのに、俺は、最期は殺しのために、この力を……ごめんな……」
俺は、銀色の十字架のネックレスを胸から取りだし、さらさらさらと手に乗っけて強く握った。
「セレーネ、君には助けてもらってばっかりで」
「俺は、俺は、十字架を引きちぎり、人を殺してしまった……」
「約束を守れなかった……」
「俺は今からそっちに向かう……」
「許してくれとは……言わない」
「俺を憎んでもかまわないから」
俺は、ナイフを取り出した。
「月がきれいな夜に、死を得られて、俺は幸せだ」
血の臭いが取れないナイフは、月光を何度も反射させ、まっすぐ首に。
「すまなかった……」
――――――!
「ちょっと、待ってくだぁっさぁああああああああああああああああああああああい!」
少女の声が響き、強風が吹いた。
震えた手からナイフは離れ、丘の下の海に沈んだ。
ナイフは暗い闇に溶けていく。
俺にとって、この状況が全く分からない、分からない、分からない!
そうして、俺の心は暗闇に落ちて、行き場を失い、
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
喉がちぎれるほど、叫ぶことしかできなくなっていた。
何度も何度も自分の頭を叩き、拳を打ちつけ、気が狂った。
分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。
――――フワッ。
ギュッ。
――!
優しく温かく俺は抱きしめられた。
「セレーネさんがどんな人だったのか私は、分かりません。ですが、きっとあなたにとって大事な人だったんですよね」
「きっとセレーネさんも同じ気持ちで、あなたのことが大事で、大好きで」
「だから、だから、天使様に死んでほしくないと思っていると思います」
ボロボロの服装で、裸足の少女の姿。
俺の顔もきっと同じだろう。
少女のくしゃくしゃの泣き顔が、俺の目にはっきりと映った。
誰なんだろう、俺のことなんて知らないはずなのに。
「やっぱり、覚えてないみたいですね」
「アンシアです」
「あなたに先ほど助けてもらいました。命をもらいました」
「みんな、あれから天使様のことを探しています」
「俺は、死ぬと決めたんだ、俺はセレーネのところに」
「セレーネさんのところにいって、どうするんですか」
「セレーネを探す」
「それでどうするのですか?」
「それで……それで……」
俺はその後どうするのか、言葉に詰まった。
満月は何も教えてくれない。
誰も教えてくれない。
分からない。
「俺は、どうすれば……」
「セレーネさんの言葉は何でしたか……教えてください」
――!
あの地獄のような苦しみの中でも温かいセレーネの胸の中、笑顔が思い浮かべられ、心からの温かい涙が流れた。
『あ、り、が、とう……キョウヤ……生、き、て……』
「俺は、俺は、正しかったのだろうか」
「それは、私が、私が! 証明できます」
「天使様は正しかった、私は嬉しかった」
「だけど、セレーネは、暴力を望まない人だった。それなのに俺は……、他人の賞賛など、当てになるもの……か……」
「もう、頑張らなくていいんですよ……」
「天使様は、十分に頑張りました。たくさんの辛い思いをしました」
「もう、ゆっくりしてください」
「天使様、ありがとう」
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!
俺は、たくさん泣いた。これでもかと言うほど泣いた。
それで心は、洗われたのかもしれない。
今まで辛かったことを全て吐きだした。
全てが終わった。
復讐とか破壊衝動とか殺意だとか。
全てが消えた。
眠っていたい。全てをほったらかしにして……。
……俺が、望んでよいのなら。
――静かな世界をください……神様。
――――――LEVEL SERVICE――――――