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Exp.5『崩壊』






 3階に着地すると、俺は引き返せなくなっていた。

 むろん最初から引き返すことなどないが!


 俺は、四方八方をギラリと睨んだ。


 押し寄せて武器を構える兵の群れは、()りがいのあるやつばかり。

 全員が(にく)たらしい顔をしていた。

 セレーネを殺した顔に似ている奴ばかり!



 ――――鏡が無くても分かった。



 きっと俺の顔は、狂気(きょうき)じみていて、この世にいてはならない怪物であると。



「だってお前ら……。」


「俺に殺されるのビビってんじゃね~の!」


 ぐわぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 怒りに満ち溢れた兵士が一気に襲ってきた!


「ここにいる無能! 全て駆逐してやる!」


 俺は、自分に喝を入れると、肩をバキバキと鳴らし、叫びながら突撃した。



 ――――ブシャリ!


 ――――――――グシャリ!



 俺に攻撃してくる兵士は皆同じ死に方――斬首である!


 胴体を切り離すよりも、首をはねてしまう方が簡単であると俺は気付いたのだ。



「うりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 俺はナイフにレベルを与え続け、どんなに斬っても――斬っても! 

 (するど)(とが)っている。

 (よろい)に強くぶつけても折れることなく逆に貫き通す。


 兵士の波に飲まれるが、俺は地面に足をドッシリとつけている。


 ナイフ一本で、斬撃(ざんげき)を何度も何度も、繰り出した。声を荒げ、舌を噛み、口の中が血の味になるぐらい、肺呼吸しながら……。



 「死ね、死ね、死ね!」



 叫んだ。



 自身にも、腕に切り傷を負ったり打撲した。

 しかし、殺している数は圧倒的に多い。


 ナイフは(するど)く光り(あざ)やか!踊り子のように舞う。

 3階の広場は、兵士が散らばって倒れた。

 あとは、火の手を待つのみ……。焼却すれば終わり。


 そして、王の間へと進む道に、待ち受けていた兵士をナイフ一本で切り裂いた。


 もう戻れない。やり直せない。それでいい……。


 一発で致命傷を負わせるナイフ。


「二度と後悔しないために、今日で! 今日で! おまえらも、俺も終わりにしてやる」


「死ね、死ねよ、死んでくれぇ!」


 ――バサッ!


 ――――ブシャリ!


 ――――――――ズバッ!


 来るもの拒まず、目の前に現れたものをなんでも、斬りつけた……。


 顔には、汗と返り血を浴びて、気持ちが悪い……。

 だけど、悲しみや涙を隠すにはちょうど良かった。


 そして最後は、錯乱していたのだろうか。

 それとも、人間の限界を超えたのだろうか?

 空気に大きく振りかぶっては、よろけ、また振りかぶっては、よろけ……ふらふらで前に進んだ。


 見えないものを、斬りつけていた……。


 グファァグファァ……ああああああああ……。


 不気味な呼吸音


 ああああああああ……。


 そして……くたびれ、床に腰を落とした。


 いつの間にか兵を殲滅(せんめつ)して……いた。


 血の海が広がり、死体が転がっていて、気持ちが悪い。

 両手にはべっとりと血がついて、どす黒い赤に変色。

 俺は、顔についた血痕を袖で拭い、よろよろと、王室にあがった。





 ――――――LEVEL SERVICE――――――





 ――――――――――グバッン!


 グファァグファァ……ああああああああ……あああああ。


 ドアをぶち倒した俺は、ギロリと部屋を見回して、ナイフの先を一点に集中させた。


「見ぃ~つけ……た」


 フヘッへへへ……。フヘへへへへ。


「や、やめろ! 何でもするから、頼む」


 シュ――――。


「レベル10」


 パキッ!


「知ってた……んだぜ」


 フヘッへへへ……。フヘへへへへ。


 俺は、毒矢を防いだ。


「ここに来て、一本の矢が頼りですか」


 小馬鹿にした笑いで、ゴミを見る目の俺だった。


 のっそりのっそりと歩き始め……。


「く、来るな、化け物、鬼畜、悪魔、怪物!」


「誰か、誰かいないのかぁ!」


「ぁあああああぁああああぁあああああああ助けて助けてぁああああああああ」



「愚かだな」




 ――――――フッ!




「死ね……」




 ――スパン!




 王の首を空中に飛ばした……。




 …………。



 ゴトリッ…………。


 ――――――床に首が転がり……。



 ――それから。もう。



 ……無い――――――――。



 終わったのだ。何もかもが……。



 そうして、俺は、ガクリッっと両足を折った。



 ――――――――――――。



 ――――――――――――――――――――――――。



 ――――次第に1階の炎は城中に広がり、建物と俺を包んだ。


「セレーネ…………終わったよ。終わったんだ」


「王国を滅ぼしたんだ」


 冷たい粒が、ヒタリヒタリと手の甲に落ちた。


 俺は、やっと、やっと……!


 泣くことが……許されたのだった。


 めくれ上がった壁。ずれ落ちる肖像画。

 燃える絨毯(じゅうたん)。ひっくり返ったテーブル。

 散らかった金属器。


 焼け落ちる城……。


 俺は、階段をゆっくりゆっくりヒタヒタと降りた。




 そして、レベルを与えた風の力で、崩れた橋を飛び越える。


 月を侵食する黒い影は俺。

 寒空に放物線を描いて、ドゥゲールの街に降り立った……。




 血まみれの俺を見て、住民は俺を殺すだろうか。


 もう、ほっといて欲しい……。自然に帰りたい。帰りたいよ。


「天使だ……天使様だ」



 ――――――!



「すげーよ」

「大勢の人が城から逃げていくから、何事かと思ったら、城が陥落(かんらく)してるじゃない」

「おじさん、驚いたよ」

「あの城のやつ重税ばっかでさ」

「そうだ、そうだ」



 あ〜そうか、良かった。俺は、ここでは殺されない。

 平和になる……。




「これからは、自由で、人に優しい国にしてくれ」



「これが、俺たちの、俺たちの……」



「永遠の願いです」



 …………。


 言い終わると、俺は前を向いた。

 指名手配犯と同じ顔を、月明かりが照らしていた。


 しかし、住民は(おび)えずに俺を拝んでいた……。










 ――――――LEVEL SERVICE――――――




 王国を出て、草原と荒れた大地をまっすぐ進み――。

 俺は、ある村にたどり着く。


 アルフェ村……。


「……セレーネ」


「月がとても……綺麗ですね」




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




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