Exp.4『終わりたい。だから来世で…』
1階と2階は火の海となった。
「奴は3階だ! 3階に行け! 炎ぐらい乗り越えろ!」
兵士は慌ただしく動いている。
どうやら非番の兵が、駆け付けたそうだ。
――!
……行くなら今か。
俺の決断は早く、すぐに城内から去った。
――窓から水堀へダイブしたのだ。
――――――LEVEL SERVICE――――――
コポッ……コポッ。
きっと奴隷として残っている者はいる。
水堀が奴隷の檻へと繋がっていることを、俺は知っている。
運命のあの日、下水道を通って水堀へと流れついたのだ……。
「……」
俺は、水底の石を叩いた。
古びて脆い……ここが良さそうだ。
一刻を争う今、丁寧に入り口から侵入するわけにはいかない!
ポケットから、石ころを取り出しレベル42!
――――ギュン! ゴポッ! ゴッゴボポポポポポポポポゴボッ!
――!
水堀の底に穴が開いた……。
――!
――――水が穴に流れる!
慎重に、まだ秒数はある。
――――――――――――。
空気レベル30
――――!
――――キュイ……。
入り口を空気で塞ぎ、準備は完了したのだった。
「よし」
――――――――――――――――――。
そのまま俺は、真っすぐ下に落ちた……。
―――――――――――――――――――……。
――――長い……長い時間。
――――スゥーーーーと落ちてゆく。
――――深い深い闇。
今の俺に言葉はなかった。
そろそろか。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ン。
――!
「やれやれ」
――――――――バサリッ!
檻の前に登場した俺は、真っ先に兵士5人を、無言のうちに、ナイフで切り裂いた。
「さようなら」
地面が真っ赤に染まる。
……。
俺は、ただそれを冷たく無言で見つめた。
人の最後は、はかない。
そして、俺は対面するのだった。
――――――――――――。
あの日の絶望と……。
全然変わっていない。
最低だよこの王国は、人間は……。
しかし、ここに来ると破壊衝動や殺意……そんなものは消えた。
理由は分からないが消えた。
悔しさが勝ったとかそんなんじゃない。
ただ、どうにかしなければ、という思い……。
――――――――――。
檻を見つめると、恐怖した顔でこっちを見てくる赤褐色の奴隷たち。
地下には切れかかったライトがあり、ジビビと音を立ていて――壁は手入れされておらず、ヌメヌメやゴツゴツで壁画なんて描けない。
臭いも公害問題。
――――――――――――――――――――。
……口元を抑えている者、手を合わせている者、警戒している者。
――――。
相変わらず、酷いありさまだよ……チクショウ!
俺は戸惑った。
どうしようかと。
え~と、ひとまず……
――――!
――ギュギィー!
音を立て、檻をへし折った。
しかし、檻の中は静まり返っている。
この後は、どうするべきか、俺でさえも考えてはいなかったのだ。
――――――――――――……。
――――――――――――……。
「あの、お母さんを助けて! お願い」
今にでも泣き出しそうな表情で、幼い子が駆け寄ってきて、俺の服をつかんだ。
――!
「ああ、分かった。すぐ見るよ」
焦りながら返答した。
他の奴隷たちは俺に恐怖して、すり足で道を開いた。
――!
酷くあざがある者。服がボロボロになっている者、病気の者、やせ細っている者。
やはり、檻の中の状況は最悪であった。
「レベル15を女性に与える」
女性の体を暖かな金色の粒子が包み込み、光り輝いた。
……もうすぐだ!
すると、女性は、整った呼吸をし始め、立ち上がることができた。
応急処置はこれで良し。
「他には、いないか!」
すると、パラパラと手が上がったのだった。
――――――――――――――――――。
その後、俺は50人に対してレベル15を与えた。
これで、だいぶ症状が軽くなるだろう……。
「よし、全員回復したな」
「お金だ。持っていけ……」
檻の雰囲気にも慣れて、俺の頭の中は破壊衝動と殺意にまた変わった。
「いいんですか」
「気にしなくていいぞ、みんなで分けろ」
「足りるか分からんが、心や体の治療、それぞれの故郷支援の足しにしてくれ」
――――――――――――――――――。
「あ、ありがと」
「ありがとうございました」
「ありがとう、本当にありがとう」
「助かったよ」
「ありがとう」
「生きることを諦めていたけど、良かった」
「本当に、本当に、本当にありがとうございました」
……。
50人のそれぞれの声が響いた。
そして俺は、一呼吸!
「レベル70」
――――――――――――――――――!
ブキャァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン――――――――――――――――――!
大きな石を真っすぐ飛ばして、壁をこじ開けたのだ。
「ここを進めば、外に出られる」
「さぁ、いけ!」
「兄ちゃん死ぬなよ!」
「この王国を変えてくれ!」
―――――――――。
……。
俺は黙って見送った……。
みんなすごく良い顔をしていた。
生きたいと命の声が聞こえのだ。
まったく素敵だよ……。
そうして、空になった檻を見つめた……。
「セレーネ、迎えに来たよ……」
「遅くなって、ごめんな……」
「でも、あと少しで、全てが終わる。終わるからさ……」
「すぐに逝くから待ていてくれないか」
――――――――――――。
「どうするのです……か……」
――!
一人の薄汚れた少女が声をかけてきた。
「まだいたのか、早く逃げろよ」
「だって、あなたがすごく……すごく悲しい顔をしていて……」
――――――――――――!
……面倒だ。
「よく聞け! 俺とは、二度と関わらない方がいい。どこかに行け」
俺は威圧したのだった。
「それじゃっ」
「あのね、あ、えーと、私の名前はアンシア」
「…………」
――――――――――――――――――……。
――――――――――――――――――……。
「……俺は…………ただの、レベル配りだ」
「ありがとう、天使様」
……。
「生きて戻ってきてください。絶対です!」
――!
――――――――――――――――――。
……。
そういって少女は走っていった。
「生きて戻ってきて、か……」
「俺は、死ぬのにな」
……。
俺は上を睨んだ。
「セレーネ……。俺は、最期を飾って、あなたのところに戻ります」
―――――――――。
――グワンッ!
空気を蹴りながら地下から駆け上がり、3階に飛び出したのだった。
――――――LEVEL SERVICE――――――