Exp.3『レベル上げ代行サービス(復讐・断罪)』
俺がドゥゲール王国の城を出たのは、非常に早かった。
いつもは、城の敷地や内部を模索するのだが、もうそんな場合ではない。
――兵士から食事や酒類を勧められたが断った。
重税で飯を食うなんて、俺には考えられなかったのだ。
それに一番は、殺意という贅沢な感情で動悸が止まらない!
俺は、王国を出て、草原と荒れた大地をまっすぐ歩き、アルフェ村にたどり着いた。
その村は、セレーネの故郷である。
建物は未だに焼け落ちたままで、腐っているそんな村だ……。
アルフェ村の丘からは海が見える。
広い海と広い星空が見える。どこまでも深く遠い……。
そして丘には、木で作らた白い十字架が一つある。
キョウヤはそれに手を合わせた後、そっと水色の小さな花をそえた。
「セレーネ」
「今からドゥゲール王国を滅ぼし、俺は、死んでしまおうと思っている」
「これでいいよな」
「待っていて欲しい」
一つの風は、俺の頬をより冷たくさせ、乾いた波音は、心の底を突き抜けて寂しい音を立てた。
失うものは、もう何もない――。
――――――LEVEL SERVICE――――――
俺は、薄暗闇から現れ、門番兵の前に突っ立った。
そして――。
「レベル70!」
俺は、浅い呼吸を吐き出すと同時に唱えた。
城全体に、ドーム状の空気結界を敷いたのだ。
空気にレベルを与えることで、空気は厚壁を形成する。
レベル70を超える技や魔術を使う者はいないだろう。きっと。
「は? 何言ってんだ。こいつ?」
当然、空気であるため他者には見えない。
俺だけが見える壁である。いや、感じる壁である。
……復讐に住民は無関係だから……。
「ちょっとお前……ってかフード小僧、よく見るとレベル上げ代行人じゃねーか。どうしたこんな夜中によっハハハハハ」
「忘れ物がありまして……」
「じゃー手を挙げて! チェックするかっ!」
――バサリッ!
俺は勢いよくフードを取った!
―――――――――!
「お、お、お前は!」
兵士の気は、動転。
「今日は、特別な用事がありまして!」
俺は嗜虐的に笑う。
「指名手配犯! 悪魔、悪魔だ!」
「こんばんは、指名手配犯の参上ですよ」
「逃げっ逃げっ」
「まて、奴はレベル1だっ……!」
横腹にナイフを一突き。兵士はその場で蹲った。
「驚きすぎですよ」
――――ブシャリ!
さらに血が舞った。
「敵前逃亡、おつかれ」
――!
キュユーーン!
ドガン!
唐突な爆風と爆音と鋭利な石の破片。
橋に爆弾が放り込まれたか……。
橋は爆破され、城の内部でビジリリリリリリリリリリとベルが悲鳴を上げる。
「殺ったか? 所詮レベル1だ! 跡形もない!」
……すでに俺は門の前に到着しているのだけどな。
――ズババ!
門をナイフで切り崩した。
「レベル配りの時間だよ!」
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオン!
城の玄関は瓦礫と鉄くずの山となった。
分厚い金属を、一本のナイフで破壊したのだ。
「ナイフ……レベル60」
「うそだろ……」と兵士からは動揺が聞こえている。
「ビビっているんですか? え?」
俺は全ての言葉に不気味を浮かべ、ナイフをくるくる回して挑発。
「俺は、たったレベル1だ。お前らなら簡単に殺せるんじゃない?」
「殺ってみなよ」
兵士はイライラして興奮が抑えきれなくなっている。
大群がグワッと押し寄せてきた!
連携の無い集団など、道端の石ころを蹴とばすのと同じ感覚であしらえる!
剣を斧を、次々に振り回す兵士をズバズバと切り捨てる。
返り血を浴びると、殺意と混じり興奮してきた!
――――!
今度は数人の兵士が槍を突き立てる。レベルは20~30程度か……。
連携が強すぎる集団など、間違った行動を取りやすいだけだ!
「空気に与える、レベル50、カウンター!」
兵士27人の体それぞれに大量の穴が開いた!
蜂の巣のようだ!
そして、精霊のような光――――。
経験値(Exp)の獲得だ。
俺は、ますます強くなった。
空気やナイフで使った経験値の、もとを取る勢いである。
「簡単に殺せるわけないだろ……バカだな……」
キョウヤの体内に吸収されてゆく。
再利用、再利用。
――――へへッと気持ち悪く笑う俺。
「怯むな、俺たちの方がレベルは高いのだ」
「そうだね、レベルは高い! けど、経験値はゼロだ!」
――――――つまり。
「楽して、強くなれると! レベルを上げれると! 思うなぁあああああああ」
俺は怒り狂ってもいた。
――ブシャ!
押し寄せる無駄な命。
俺は、カウンターを繰り出し、なぎ倒す。
「俺には、指一本も触れれない!」
――――――――。
――――――。
――――――――――――――――――。
バタリ、バタリ……向かってきたものを、瞬殺した。
カウンターはもちろん、一本のナイフだけでも大量である。
「次は、誰かな?」
「奴は、不死身の化け物か!」
「それ、いいね」
「たくさんの無駄死にをありがとうね。経験値となってありがとう」
――ブシャリ!
――――ドスン!
殺った後は、血だけではなくて、それ以上に経験値があふれ出ている。
俺は、経験値を体に吸収した。
「お~、配った経験値より、回収する経験値の方が多い。やった!」
「良く育ちましたね、家畜たち!」
「どうです。レベル上げ代行サービスのオプション! 復讐のお味は?」
「え?」
……?
「感動のあまり、声が出ない。そうですかそうですか」
ただ歯を食いしばり、悔しがるだけの兵士たち。
ますます破壊衝動と殺意が湧いてくる。
中には泣き出す者もいる。
――――――!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
ズドガン! ズドン! ズカーン!
光がチカチカと点滅して――――――マシンガンの連射!
そして――――――手榴弾の爆撃!
昼間と変わらない明るさ!
必要以上の砲火を俺は、浴びる。
「静かになったと思ったらこれが狙いでしたか……」
「タイミングを指示、レベル50、カウンター!」
――――――ギューン!
攻撃で発生していた音や光、火花、この空間から跡形もなく消えた。
ただ煙がもくもくと立ち込めるだけ。
――――――パーン!
最後に銃声が一発……。
――――――ギュン!
――グハッ……。
――――――。
「俺には、効果がないみたいですね」
煙の中を平然と進み始めた。
――――――!
「何をやっている、奴はレベル1だぞ」
「撃て、撃て、撃て」
さらに追撃がくるが、全く効かない。
――――――!
「な、なにをやっている!」
「もう、玉ぎれだぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
「カウンター。発射……」
俺の指示で銃弾のカウンター!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
俺が食らう予定だった銃弾が、飛び出してゆく。
俺を中心に四方八方に飛んでゆく。
バリバリとガラスが割れている。
――――スパッ!
さらには、豪勢で巨大なシャンデリアが斬り落ちた!
……。
――――――――――――!
――――――ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!
――ボワッアアアアア。
シュウウウウウウウウウウウウウウウ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
――――――――――――――――――。
1階は、炎に包まれた……。
壁が少しずつ溶けてはがれ、階段が焼け落ちてゆく。
銃撃戦で死んだ者からは、経験値が運ばれてくる……。
……。
――――――――――――。
――――――フフッ。
俺は、その光景を見回し、声を出して笑わずにはいられなかった。
残虐な笑みを浮かべて高笑い。
ペチャリ、ペチャリと音を立てながら悠々と歩き、上の階を目指す。
――!
「お、一人生きてた、おめでとう」
「レベル1なのになぜだぁ……きさま」
「お前らは、与えられた経験値でノコノコとレベル上げをしている。だから俺に適わないんだよ」
……。
「楽して強くなれるはずがないだろ。クズが!」
――ナイフで体を切断した。
さて、次は……。奴隷の部屋に行くか……。
いや、行かなければ!
セレーネとの約束の場所だから。
――――――LEVEL SERVICE――――――