Exp.54『逃亡』
追尾してくる兵士は、5人ほど。
この状況を回避する方法として、手っ取り早いのは、俺がおとりになって戦うこと。
だが、許してくれるだろうか……みんなは。
やっぱり、団体行動は向いてない。
「レイリック、お前の武器、フレイルで微風でもいい、後方、兵士に向けて、風を起こしてくれ!」
俺は、先頭を走りながら、後ろに叫んだ。
「微風とは、俺様も舐められたもんだ。台風を起こしたる!」
そう言うと、レイリックは、ズズッと足を引きずって立ち止まり、
「おらぁよ!」
愛用武器であるフレイルを力いっぱい、回した。
ビュン! っと鉛玉の風切り音!
「アンシア、リトミコは、そのまま前進してくれ」
俺は引き返して、レイリックの起こした風に手をかざした。
「風、レベル5、切れ!」
兵士たちの足元に風の刃を落とした。
「作戦変更か? 戦うのかキョウヤ?」
兵士たちは、地面に転がった。
「足元をすくっただけだ。先行しているアンシアたちと合流し――!」
「ちょっと、待ちなさい!」
――――!
空から黒馬が降ってきた。
日頃から鍛えている戦士らしい肉厚な太もも、脚線美。
炎のような赤髪のポニーテールが風になびいていた。
そして、金色のティアラと白い鎧が、太陽光に反射して輝く。
声主は、カレンだった。
「迎えに来たんだけど、兄さん」
――――――LEVEL SERVICE――――――
とても面倒なことになった。
リトミコとアンシアは、どこまで前進しているのか……。
いち早くどこかに隠れ、情報探しを始めているだろうか?
一先ず、兵士が2人を追うことはないだろう。
レイリックは、
「カレン様ぁあああああああああああああああああああああああああ。俺とランデブーをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおハネムーンをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
変態になっていた。
「なんだぁ。こいつやかましいな、誰か連れてけ」
「うわちょっと。待てよ、ちょっとカレン様ぁじゃなかった。キョウヤ、おい、キョウヤぁああああああああああああああああああああああああああ助けてぇえええええええ」
「カレン様はみんなのものだ。お前だけのものじゃない」
「そうだ、そうだ。いくぞ」
兵士たちは、言葉と腕力で、レイリックを治めた。
アホ、レイリック……。
しかし、やり方はどうあれ作戦通り。
俺たちが、集団で捕まることは避けたかったのだ。
監視の目が一ヶ所に集中してしまうと、行動の自由が制限される。
だから、勢力の分散。誰かが、情報を上手く聞き出せばいいのだ。
あとは、アンシアが電話魔法を3つずつ俺たちに掛けてくれた……それだけだ。
「キョウヤ、俺様が城内へ一番乗りだ。あとは頼んだ」
レイリックは、連れていかれる間際に、そう呟いた。
「あの変態金髪を助けないでいいの?」
変態金髪というあだ名が、カレンの中で生成されたらしい。
リトミコに教えたら、さぞ喜ぶだろう。
「あぁ。1対多数じゃ、勝ち目がないからな」
嘘だけどな。旧ドゥゲール王国で、俺がどれだけ暴れたと思ってる。
「カレン。俺を皇帝のところへ連れていってくれないか」
「兄さん……それは無理ね」
「なぜだ」
「兄さんを、連れていくには条件があるからよ」
「条件?」
「それは、戦争に付き合うことよ」
「せ、戦争……! 人殺しに力は貸せない! それだけは、絶対に!」
「待って兄さん」
――――!
「ここで詳しくは言えない。あとは、そうね、私の部屋で……ね」
俺は、『戦争』と聞いて取り乱してしまったらしい。
でも、繰り返すわけにはいかない。誰も傷つけるわけには。
「分かった。話しは聞こう」
「あと、サグラが言ったらしいけど、処刑っていうのは嘘よ。でも、下手したら殺される」
俺って、経験値が装填され続けるから、死ぬことはないけどな。
死とは、レベルの消失である。
レベル1さえあれば、寿命は100歳くらいまで安定している。
まぁ、レベルが高ければ、致命傷でも生き残る可能性がある、といったところだ。
カレンは、黒馬から降りた。
「そうだ兄さん! 殺されたくなければ、え~と、私の言う通りにして欲しい……かも」
そう言って、頬を赤らめ近づいてきたカレン。
だから、俺って、経験値が装填され続けるから、死ぬことはない。俺は静かに頷いた。
カレンのレベルは、63くらいか。
周りの兵士は、平均して、42あたりか。
「ちょっと昔話でもしたい……気もするかも」
カレンは、俺の手を握ってきた。
――!
大剣を振り回しているわりには、小さな手。
「俺は、たぶん殺されない。それに、少しならお前の個人的な要件も聞いてやらないこともない」
「ほんと!」
反応が速かった。
カレンの顔が、パッと明るくなった。
「だけど。俺の質問にも答えてくれ」
「うん! 絶対答えるか……ら」
カレンは口を開けたまま、固まって、
「できるだけ、善処する……かもね……」
舞い上がったことを恥じるように、カレンは下を向いた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
その後、俺は、カレンの買い物に付き合わされた。
これたぶん、レイリックには、羨ましがられて、リトミコは……分からんけど、敵と仲良くしてどうするの! とか言ってくるだろうか。
アンシアは……。泣かれたら困るな。
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追記:『知らない人』は、また失踪予定です。実は、新作に取りかかってます。




