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Exp.52『入城⁈』



 フォーリオス帝国に到着。

 馬車はピアノ街に戻る役人に渡して、俺たちは帝国内の繁華街(はんかがい)に入った。


「さて、何を食べよっか?」

 

 レイリックは、めいいっぱい体を伸ばし、ゴキゴキと骨を鳴らし聞いてきた。

 

 今はお昼時。街には、いい香りが(ただよ)っている。


「ちょっとちょっと、観光に来たんじゃないでしょ」

 

 リトミコはツッコミを入れた。


「いやーでもさ。せっかくだし。ねぇキョウヤ」

 

 うるうるした目で俺の顔を覗き込んでくるレイリック。


 ……近寄ってくるなよ。

 俺は、レイリックから引き下がって(あた)りを見回してみた――。


「まぁ~そうだな。少しならいいかもな」


 人々は談笑(だんしょう)しながら昼食を取ったり、店員は忙しそうだが活き活きと仕事をしていた。

 

それに、アンシアもウキウキしているようだし。


「キョウヤも、大変ね」

 

 リトミコはやれやれと首を振った。


「何か、オススメの店とかないか?」

 

 リトミコに尋ねると、


「あるある、肉、肉!」


 レイリックは、ここぞとばかりに俺とリトミコの間に()じり入ってきた。


 ――――べし!


「痛った! リトミコなんで俺様を叩く⁈」


「私が、キョウヤに聞かれたのだから、私がオススメを答えるの!」


「なんだと、こらっ。男同士の方が趣味合うって! ねぇ~キョウぐふぁ」


 リトミコの(ひじ)がレイリックのこめかみにヒットした。


「いてえええええ~、ひでえええええ」


 レイリックは、ぶっ倒れた。


「大丈夫ですか!」


 アンシアはしゃがみこんで尋ねた。


「う、きゃふ~ん」


 (うずくま)りながら、子犬のような声を出すレイリック。


 それに答えるように、アンシアは回復魔法(ヒール)をかけた。


 インフィニティ・ネクサスを背中にしょっているため、容易に魔法を使えるようになったのだ。


 パーティー、ギルドか……。俺も組んでみたい。

 一連の流れは、俺にとって非常に微笑ましいものであった。


「ここは、ここは、キョウヤ!」


 リトミコはハキハキとした様子で地図の一箇所を指で差した。


「パン&カフェか……いいな」


「本当に!」


 リトミコは、明るい表情を見せた。

 と思いながらも、レイリックを殴るときも、そういえば常ににこやかであった……。


「アンシアは、どうだ」


 当然のように俺は、アンシアに話をふる。


 すると、アンシアは立ち上がり、


「どこでもいいですよ」


 そう答えた。


「はぁ~、キョウヤは過保護ね」


 リトミコは、どうなの? という顔で俺を見た。


「そうか?」


 たぶんアンシアは、俺が行先(ゆくさき)を尋ねなくても黙ってついてくるだろう。

 しかし、一度聞くという行為は当たり前の習慣であった。


「絶対そう。……すごくうらやましいかも」


 リトミコは地図を丁寧にたたみ、はにかんだ。




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




 みんなで食事するというものは、とてもいいものだった。


 美味しいものを食べることはもちろん。談笑や雑談が楽しかった。

 アンシアの合格祝いをしたり、レイリックが武勇伝を永遠と語ったり、時間はあっという間だった。



「あははは。そういえば、なんでフォーリオス帝国に来たのでしたっけ?」



 アンシアが、言った。



「あっ――――!」


 本来の目的を全員が忘れていたのだ。


「確か、城に行くんじゃなかったっけ?」


 リトミコが答える。


「そうだな。そうだった。俺様が案内するんだったな」


 レイリックも頭を()きながら答えた。


「そろそろ行かないとな」


 俺が腰を上げようとすると、


「部外者が城の中へ通してもらえるのでしょうか? ピアノ街に来た騎士の人たち、時間や日にちとかを指定してなかったですよね?」


 アンシアは、肝心(かんじん)なことを言った。


 さすがあの時、(きも)が据わっていただけのことはある。


「それにしても、カレンだっけ。かわぇかったなぁ~」


 レイリックが何かを妄想しながら言った。


「世界一、気持ち悪いわよ」


 リトミコは、ズバリと言葉を突き刺した。


「でも、カレンって人、性格とか中身を知らないのよね」


「あの方は、フォーリオス帝国の幹部で、キョウヤさんの妹らしいですよ」


「私はあまり好きではありませんけど」


「「え?」」


 レイリックとリトミコは、目を見開いた。


 アンシアは、2人の声にびっくりして10㎝くらい腰が上がった。


「「どういうこと!」」


 2人の反応速度は、息ピッタし。

 机に体を乗り出し、俺の顔をじっと見てきた。


「キョウヤ、俺様に黙って、他の女を! 許せんぞ」


 そして、俺の首根っこを(つか)んできたレイリック。

 目がガチであった。


「何だよ……」


 恐る恐る声を出した。


「本当に、妹なのか」


「……確かに妹だけど、義理だから、俺もあんまり知らない」


 すると(くや)しそうに拳をギリリと握ったレイリック。


 ――――バン!


 そして机を叩いた。


 飲み物を取ろうとしたアンシアの手がブルッと(ふる)えた。

 そして、ビックリした顔でこっちを見ているアンシア。


「義理……。義理だと、キョウヤ!」


「な、なんだよ」


「だったら、結婚できるじゃないか、おい。呼び出しってそれじゃねーのか、おい~」


 レイリックは、結婚を妄想していたのか。

 眼球がキマッていて怖いんだが。


「いや、俺、結婚する気ないけど」


 アンシアは、ドキッと肩を上げた。


「カレンってやつ、苦手だし」


 アンシアは、肩を撫でおろした。


「そうか! なら絶対、取るなよ。あの体はエロい!」


 レイリックは、いかれた金髪野郎だった。

 やっぱり、いかがわしい妄想もしていたのか……。


「ちょっとキモイぞ……レイリック」


 苦々しく言った。


 するとレイリックは、


「男は、欲望に正直に! 恋に正直に、猪突猛進にぃいいいい。いざ、城に参ろう!」


 急に立ち上がり拳を突き上げ、豪快(ごうかい)に歩き始めた。


 ――――ドタバッ!


 レイリックの姿が俺の視界から消えた!


 リトミコがレイリックの足を引っかけたのだ。


「宇宙一、気色悪い。死んで(ちり)となれ! ふんっ!」


 ――ツパパパパッ!


 ダーツのごとく床に突き刺さるフォーク&ナイフ。


 綺麗にレイリックの頭を(ふち)取っている。


「つ、強い」


 俺とアンシアの開いた口が(ふさ)がらない。


 きっとリトミコは、レイリックの大声と下品な発言に耐え切れなくなったのだろう。


 確かに俺も周りの視線が気になっていたところだ。


「レイリック、分かったか反省したか」って、俺が助けようとしたときだった。


 さらに、リトミコはドガッっと頭を踏みつけた。


「ここは、店内。頭を冷やしなさい。恥かしい!」


 ――――ギリリ。


 レイリックの頭から首までが床にめり込んだ。


「す、すんません……死、死ぬかぁ……らぁ……」


 レイリックは虫の息だった。


 ……。


 いやぁ、頭を冷やすのは、お互いだと思うなぁ~。なんて俺には言えなかった。





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