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Exp.51『再出発』


「あ、兄と、い、いもうと!」


 敵も味方も関係なく仰天(ぎょうてん)した。


「どうなんですか」


 アンシアは、ガサゴソと立ち上がり、顔に付いた泥を(ぬぐ)った。


 ……確かに、妹は昔いた。しかし、その期間は短いもの。

 俺は家をたらい回しにされ、1年間しか共にしていない妹である。

 確か、俺が14歳で、妹は6歳くらいだったろうか。


「1年くらい一緒だった、ですよね。兄さん」


 微笑を向けられた。


 でも、どうして今まで忘れてしまっていたのだろうか。


 顔と声を聞いた途端(とたん)に、妹がいた、という記憶に書き換えられた感じ……。


「お久しぶりですね。私はフォーリオス帝国の騎士幹部カレン、と申します。覚えておりますか? 兄さん」


 非常に礼儀正しい口調。


 今までの()()とは違う気がした。

 しかし所詮(しょせん)は帝国の騎士、つまりは危険。


 ()り込まれている俺は警戒態勢に入った。


「俺は……キョウヤだ」


「やっぱりですか。相変わらず真剣な目です。懐かしいですね、兄さん」


 俺はこいつに処刑されるのだろうか。

 こいつの背景に隠れた大ボスを探らなければ。


「それにしても、昔は強かったのに……どうしてレベル1なんです? そんな体たらくになってしまわれて」


「俺には色々――」


「キョウヤさんは体たらくなんかじゃありません!」


 珍しく俺の前にアンシアが声を出した。


「キョウヤさんは、めちゃくちゃ強いんですけど!」


「あら、あなたは誰? 小さい子ね」


 カレンは、ふ~んっと聞いている。


「むぅっき~! キョウヤさん、なんかこの人、私を非常にバカにしている気がします。お高く止まってます」


 アンシアは指で差すが、カレンは、それを無視。


「兄さん! フォーリオス帝国の騎士養成校で訓練してはいかがですか。」


「無視しないでください! いいですか、私はキョウヤさんの付添い人、最高のパートナー、回復術士なんです。キョウヤさんとは、それはもうあちこちを旅してですね。親睦を深め――――」


 これでもかとしゃべり尽くすと、アンシアはドヤった。


「あ、あなたみたいなちんちくりんが――」


 カレンの目がピクリッとひくついた。


「はい、そうですよ」


 アンシアの魔法なのか? 空気が変わった? ――どうも様子がおかしい?


「キョウヤの付き添いに……に、にん? パートナーで……」


「……でも、ちんちくちゃんは、赤の他人には変わりないわ」


「ちんちくちゃん……! あ、赤の担任ってなんですか! 社会主義ですか!」


「違うぞアンシア、担任じゃない他人だ」


 学校に染まり過ぎだ。


「でもね。私、アンシアは、キョウヤさんと寝ましたんです!」


 ……。


 俺は額に手を当てた。

 大声で言わなくてもさ。


「それは、う、嘘わね、そんなことはないですよね。まったく……」


「そのまさかなのです!」


 さらなる一歩を踏み出したアンシア。

 で、でかく見える。


「うぐっ」


 それとは対照的に引き下がるカレン。


「どうされたんですか、カレン様」


 サグラは、その様子を不穏に感じたみたいで、たまらず声をかけた。


 しかし、


衛生兵(えいせいへい)、衛生兵はいるか!」


 サグラも動揺している。


「サグラ第一騎士! 衛生兵は連れてきてないですよ。だいたい乱闘とか、する予定なかったですから」


 若い男騎士の甲高(かんだか)い声が返ってきた。


「そうだった、このバカたちにつられてた。ちくしょー。衛生兵、衛生へ~い!」


 相手陣営は、ざわざわとし始めた。


 騎士たちのメンタル弱い。


「ああ、ああ、あああ、うろたえるな。うろたえるな」


 ――――?


 カレン、お前が一番うろたえているよ……。何だこれ?


「キョキョウヤ、いや、兄さん!」


 ……。


 カレンは、アンシアを見て一瞥(いちべつ)


「と、とにかくフォーリオス帝国の城まで、絶対に来なしゃい!」


 と、顔を赤くして、言い残した。


撤収(てっしゅう)するぞ、お前たち」


 ついでに号令もかけた。


「お、お~う?」


 騎士からは、今にも墜落(ついらく)しそうな、間の抜けた声がにじみ出た。


 ――――?


 そして……そのまま城のある方向に、騎士の軍団は引いていった。


 何これ?


 アンシアは、愉快(ゆかい)そうに手を振って見送っていた。


「もう、来ないでくださいね」




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




 ――――何だったのか?


「どうやら、一件落着みたいですね」


 フェローチェも、ポカーンとしていた。


「いったいあいつらは、何だったんですかね」


 この状況で図太(ずぶと)かったのがアンシアのみ。


「キョウヤさんも妹がいたなら教えてくださいよ」


「そ、そうだよな。忘れていたんだ妹の存在を。なぜだろうかな」


「きっと、つらい過去の経験とともに、妹の記憶を心の外へ追い出していたのかも、知れませんね」


「フェローチェは、俺に回復魔法(ヒール)をかけた」


「でも、どうしますか。フォーリオス帝国の城へ向かいますかキョウヤ君」


「どれくらいの距離あるのだ?」


「キョウヤさん、やっぱり行くのですか? あたしあの『おっぱい騎士』苦手です」


 アンシアは言った。

 ……確かに胸は大きかったのだが。

 だいぶ、ちんちくちゃんが効いたのだろう。


「でもさ、優勢だったぞアンシア」


「いえ、優勢とかではなくて、本能といたしまして、ですね。キョウヤさん」


「……?」


 よく分からなかった……。


「馬車を使って、2日ぐらいで到着しますね」


「ありがとう、フェローチェ学長」


「今から、行かれるのですか」


「そうしたい」


「どうしてですか? キョウヤさん」


 アンシアは、首を傾げた。


「俺を処刑する理由を知りたいからだ」


「処刑する理由ですか……」


「俺に強い(うら)みがあるのならば、聞いておきたい。もしも誤解が解けるのであれば、フォーリオス帝国を軸に、平和を作っていくのは、どうだろうかと思った次第ってところかな」


 ――――。


 ……。


「はい立派なことだと思います。キョウヤさんがおっしゃるのならば、このアンシア! どこまでも着いていきます」


「ありがとう。アンシア」


「分かりました。すぐに馬車をご提供しますね」


 フェローチェは、また例の伝言魔法(テレフォン)を使った。




 ――――それから、数分で馬車が用意され、


「お~い」


「お久しぶりですぅ」


 そこには見知った顔が二人いた。


 ――――!


「話しは、聞かせてもらったぜ。行先(いきさき)案内は、このレイリック様に任せな!」


 金髪に青のバンダナを巻いた青年、レイリックがそこにはいた。


 そして、


「私もギルド案件で行かなければならなかったので」


 リトミコも一緒だった。


 アンシアは、リトミコさんのところに駆けていった。


「また、ご一緒できるんですね。嬉しいです」


「アンシアちゃん。またお話しましょうね」


 楽しそうな空間ができあがり、


「アンシアちゃん。俺もいるんだけど……」


 レイリックは、自分のことを指で差しながら、ポツンと一人。


「レイリック、よろしく頼む」


 俺は、レイリックに手を差し出し、


「任せてくれよなっ!」


 握手を()わしたのだった。




「では、お気を付けて、無事を祈っております。私も後から追いかけますので」


「メシア・シンフォニー」


 聖なる光、回復魔法が俺たちを包んだ。


「さて、レイリックパーティー行くぞ!」


「お前の、ギルドパーティーではない!」


リトミコは、レイリックの頭を(はた)いた。




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




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