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Exp.50『妹騎士』


 遠巻きに様子を見ているのは、術式学校の生徒たち。


 俺は校門に駆けだして、割って入った。


「フェローチェ学長、俺は大丈夫だから」


「キョウヤ君――」


 俺の姿を見たとたんに、フェローチェは、(うつむ)いた。


「なんだ、ひょろひょろのお前がレベル1の男か」


「あぁーそうだよ」


 サグラの前に堂々と立った。

 俺よりも体がデカく、筋骨隆々な男である。


「俺は、フォーリオス帝国の騎士、サグラだ」


「俺は、」


「お前の名前など、どうでもいい。それよりも危ないぜ。凶悪犯、いや凶悪死刑囚の目はよぉ~」


「そっちこそ、朝からどうどうと、危ない武器を振りかざしてるだろ」


「いや。俺は正義のためにだ! お前とは違う」


「……」


「何も言い返せない。ようだな」


 サグラは、得意げに言った。


「違う。キョウヤ君は!」


「いいんだ。フェローチェ学長」


 フェローチェは、真実を言おうとしたが止めた。


 言い返したところで、こいつの誤解は解けない。

 そんな気がした。


 しかし、1つ疑問点があった。

 サグラ率いる騎士隊が、フォーリオス帝国王の直属であるからだ。


「フェローチェ学長、フォーリオス帝国は中立国ではないのか……?」


 俺は、落ち着いた声でフェローチェに聞いた。


「……それは、違うよ。キョウヤ君」


 この世界の情報は、いったいどうなっているんだ。

 誰だよフィルターを掛けているやつは。


 フェローチェは唇を嚙みしめた。


 ピアノ街での大騒ぎが、帝国本体に届かないわけがないということか。

 呪いの音に釘付けにされ、外部からの視線を考慮しておけば。


 呪いの音の勃発(ぼっぱつ)から終息までを、帝国はずっとずっと、ふかんしていたらしい。

 だったら、なぜ。

 すぐに、本部が助けにくればいいはずだ。

 自治は独立していても、ピアノ街は、フォーリオス帝国の管轄内であるはず。


「ピアノ街――! フォーリオス帝国の帝王と肩を並ぶくらいの統治者が存在し、任せられていた地域。しかしだ。ここ最近、魔物か犯罪者か、はたまたレベル1の男のせいで統治が(にぶ)っていると……違いないか?」


 サグラは紙をもって音読。

 帝王の言葉なのか……。どうか。


「そ、それは」


 フェローチェ学長の拳が震えていた。


「よってピアノ街は、フォーリオス帝国の帝王が直々(じきじき)に統治する!」


「帝国の統治だと!」


 不穏な空気が流れ、俺には、独裁という言葉が頭に(よぎ)った――!


 フェローチェ学長の呼吸は、荒くなっている。

 そうして、


「調査団を送り込み、話し合うというルールはどこに消えたのですか!」


 苦虫を嚙み潰したような顔をして、フェローチェは言った。


「帝王は緊急事態と重く見た。だから騎士隊が派遣された、普通のことでは?」


 ……。


「確かに、そうだが。緊急事態は回避した! 魔物はもういない! 帰ってもらおうか。犯罪者として、差し出す人物などはいない!」


「くどいぞ。いいか、これは決まりだ」


 ――!


「そんなことは、ありえない!」


「帝国に逆らうなよ。これは忠告だ」


 ――――!


「……フォーリオス帝国はおかしい! 国家の統治(とうち)は気に食わない!」


「これ以上言うなよ……」


「いや、言わせてもらう。フォーリオス帝国には従わ――――!」


「国家反逆罪だぞフェローチェ!」


 ――――!


「いいか、よく聞け! 帝国の指令はこうだ。レベル1の男を引き取って、処刑にかける。もしくは、リーリーピアノ術式学校をぶち壊す!」


「黙れ! サグラ!」


 ――――――!

 

 フェローチェ学長の右肩から、血がポトリ、ポトリと垂れる。

 血は、大剣をつたって落ちる。


 サグラの刃先は、フェローチェの右肩を刺していた。 


「次は、腕が吹き飛ぶからなぁ。フェローチェ」

 

 だが、フェローチェ学長はギロリと睨み、素早くサグラの首を掴んだ。


「死刑囚よりも、先に死にたいようだな。あぁああ!」


「黙れ! サグラ! 逆行回復魔法(ミイラヒール)! きさまの、体力を全て吸収してやる!」


 フェローチェは、ものすごい勢いでサグラの体力を吸収し始めた。


「う、ううう!」


 苦しい声を上げたサグラ……。


「グハハハハハ!」


「何がおかしい、サグラ!」


「かゆい、かゆい」


 サグラの後ろ、騎士隊の中には回復術士(ヒーラー)がいた。


 フェローチェは、それに気づいていない。

 荒い呼吸をしながら、右肩を抑え、攻撃と治癒魔法を二重でかけている。


 このままでは!


 血は、フェローチェ学長の右肩から浮き出て、他の血管も破裂寸前(すんぜん)――――!


 俺は、フェローチェの腕を取り(とな)えた。


「レベル降下!」


 ――――ファァァアアアアアアアーン……。


 するとフェローチェのレベルは降下、逆行回復魔法(ミイラヒール)の効力は消えた。


「キョウヤ君!」


 フェローチェ学長はその場に倒れ、近くに生徒が集まった。


「風! レベル21」


 静かに唱えて、目の前の騎士隊を吹き飛ばした。


「お前らの相手は、俺だよな」


「俺の騎士隊に手を出しやがって――――。ここで殺す!」



 ――――――――――――――――――――――!



「――空砲魔法(エアー)!」


 空気の塊がサグラの足元に落ちた。


 アンシアが、建物の中から放ったのだと、俺はすぐに分かった。


 しかしだ!


「やろうども! 叩ききれ!」


 騎士たちは、アンシアの空砲を開戦の合図と勘違いしたのか?


 多くの者が剣を引き抜き、走り出そうとしている。


 学校側も警備隊がぞろぞろと集まってきた。


 すると、


「時間がかかり過ぎだぞ。サグラ!」


 一声(ひとこえ)あがった‼


 その声は、団子状態になった騎士隊の後ろ、遠くから聞こえてきた。


 ハキハキとした女性の声。


「レベル1の男がいたのなら、後は連れ出すだけ、どうして乱闘になる。全く困りものだ!」



 ――――――――。



 黒馬(こくば)に乗った、赤髪のポニーテールの女騎士が俺を見つめていた。

 まるでルビーのような気高さを感じさせる女性。


 ……。




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




「まさか、キョウヤ兄さん……」


 ――――確かに見知った顔だった。


 同時に――アンシアは、ズッこけた。



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