Exp.49『インフィニティ・ネクサス』
第4章、フォーリオス帝国(ピアノ街)編は、ここで終了です。
「どの魔道具も合わないというか、魔道具がアンシアちゃんの力に耐えきれてない!」
「これを見てくれよ!」
工具職人は証拠として毒の崩杖を差し出した。
あらゆる毒状態を吸収するという上級魔道具のはずだが……。
――ところどころ欠けていたり、ささくれたりしていた。
一方で、魔道具に触れてみるも、魔力は健在。
外は壊れ、内は大丈夫ということか。
杖からは、魔法の力が放出され、魔術師は、それをコントロールするという仕組みであるのだが……。
アンシアが杖を使うと、いつでも力が全開であり……違う、それだとアンシアが魔法をコントロールできてないことになる。
つまりは、そもそもアンシアの力が強すぎて、杖に魔法が逆流して飽和状態になる。よって、外が崩れる。
川の流れと一緒である。
魔術師と魔道具の力の落差が少ないと、適応状態。
今回は、回復術士アンシアの力が強すぎる。つまりは川は氾濫してしまう。
「でも、銅の杖は無事に使えたんだよ!」
アンシアは、真っ赤な顔で訴えてきた。
「大丈夫、大丈夫」
俺はゆっくりとした口調で、アンシアに微笑みかけた。
きっと、40ほどの魔道具を朝から試していて、どれも合わないことに焦りを感じているのだろう。
「銅の杖は、私の力を込めて精製したものですから、きっと耐えたのでしょうね」
フェローチェは、冷静な口調で、毒の崩杖に修繕魔法をかけた。
すると魔道具は薄橙色に輝き、新品さながらに変化した。
――! フェローチェの修繕魔法は、俺の使用する能力と類似している。
レベル上げで、耐久性を上昇させる原理と同じだろうか。
アンシアも、その効果の具合をじっと観察していた。
「何か、ビッグな武器があったらいいねぇ~」
ソムリエは髭を触りながら言う。
「命中率が高い、強い回復魔法……活かせる魔道具……」
フェローチェは考え込むように顎を撫でて、呟いた。
そして、
『すまない。……をグラウンドへ至急頼んでもいいか。……そう……その通りですよ』
空気に語りかけていた。
精霊か妖精か、何だろうか?
「伝言魔法ですね」
アンシアは、服の裾をクイッと引っ張ってきた。
「伝言……魔法……? ……テレパシーみたいなものか。」
「非常に近い感じですね」
「ごっほん! では、便利魔法の1つ伝言魔法を解説しますね」
アンシアはそう言って服のポケットから眼鏡を取り出して掛けた。
「わざわざ必要ないだろ」
「お決まりじゃないですか」
「そう、なのか?」
「伝言魔法。それは、術式者、呪式者が存在し、お互いに伝言魔法を習得することで、始めて成立する魔法」
「効果は3分程度、距離に制限はないですが、遠すぎるとノイズが酷いという欠点がありますね」
「そして、この魔法で一番大事なことは、届いてほしい人に大きな念を送ることです。相手のことを思わないと通じない精神系の魔法、と区分しても過言ではないですね」
「同時に受け取る側も、大きな念を受けとる余裕がないと成立しません」
「呪文、術式とかじゃなくて、念なのか」
「そう! 念ですね」
アンシアは人差し指を立てて、念押しして言う。
「難易度が高そうだな」
「そうですね。きっとフェローチェ学長は、愛人か奥さんに伝言魔法しているのだと思いますよ」
「この際にキョウヤさんも、習得してみてはどうですか! どうですか!」
「考えておくよ」
……勢いで押し切るセールスマンかよ。
俺は、えへへっと苦笑いをしておいた。
「みなさん、今からとっておきの魔道具がここに届きますよ」
フェローチェは丁寧に伝言魔法を折りたたんだ。
――折りたたんだ⁉
――――――LEVEL SERVICE――――――
場所は変わらずグラウンド。
俺たちの目の前に運ばれてきたのは、エレキベースほどの長方形の箱であった。
非常に茶色く古びていて、歴史を感じる一品でありそうだ。
「これは、なんですか」
「アンシアさん開けてみてください」
テンション高く指示をしているフェローチェ。
そんなフェローチェの様子は、非常にレアかもしれないな。
まぁ~それほど強力な魔道具なのであろう。
「それでは、失礼しま~! うっ!」
アンシアは、恐る恐る箱に手を掛け、金具をカチッと開けっ――。
中身がすぐに光り輝いた。
「こ、これは、すごくきれいでっ!」
箱の中身が、新鮮な空気を取り込んでいるように見える煌めき。
魔道具の言葉は分からないが、よほど外に出たかったのだろうと感じ取れた。
まるで地上の星。勢いが凄まじい!。
――――――。
「「ん? ロング銃⁉」」
俺とアンシアから声が漏れた。
白色を基調として、金の装飾が施されているもの。
――そこにあったのは、一丁のロング銃だった。
「これって、杖じゃなくて、ブレスレッドでもなくて!」
アンシアが、ビックリ。……俺だって驚きだった。
思わず銃を構えた少女を――イメージしてしまった。
回復術士、いや、少女が持つには少々というか、だいぶ物騒である。
スラッと伸びたロング銃は、アンシアの背丈を優に超えているだろう……。
――――! 回復術士の武器がロング銃。
……武器についての疑問は、イメージの後に到着した。
特徴的すぎて、本で見たら絶対に忘れないはずだが、全く記憶になかった。
「アンシア、重くないか?」
「ちょっと。えへへ」
そう言って、抱きつくような格好でロング銃を持った。
やはり、ロング銃の方が長い。
「インフィニティ・ネクサス」
フェローチェは、得意げに口に出した。
「これはその、あれですか、ひへぇ~」
ソムリエも腰を抜かし、工具職人も物珍しそうに眺めている。
俺はというと、どこの国の誉め言葉だろうか、と一瞬探ってしまった。
「魔法の威力を底上げするには抜群。そして一番の特長は、射程距離が魔道具の中で最長であるということです」
「短所は、かなり腕前の射撃手でないと、なかなか当たらないということ。でも命中率の高いアンシアさんならきっと」
フェローチェは、穏やかな眼差しをアンシアに向けた。
「アンシアさん、さっそく標的に魔法を放出してみてください」
「やってみます!」
そうしてアンシアは、おぼつかない手つきでインフィニティ・ネクサスを構えた。
そして――。
手に力が込められ、手元から銃口に向かって魔法陣が展開され!
パーン!
魔法は光の矢となって、正面から標的に激突。
その様子に一同は驚愕した。
100発100中という結果は分かっていたのだが、あまりにも綺麗なフォームでの射撃。それに力強かったのだ。
「どうでしたか?」
アンシアが、攻撃魔法の使い手だったり、猟師じゃなくて本当に良かったよ。
「感動したよ。アンシア」
心が震え、俺は、拳を握りしめていた。
すると、アンシアは胸に飛びついて、
「本当ですか、嬉しいです」
歓喜の声をあげた。
「無事に、決まりましたね!」
フェローチェは、静かに拍手をしている。
「「「おめでとう!」」」
それから、アンシアの長時間にも及ぶ射撃練習が続き、その練習に耐えきったインフィニティ・ネクサス。相性は抜群であった。
夕日がグラウンドを赤く染めた頃、リーリーピアノ術式学校のチャイムがジーンと鳴った。
――――――LEVEL SERVICE――――――
ヒヒッーーーーン!
翌朝のことだった。
俺は、馬のいななきで目が覚めた。
現在地はリーリーピアノ術式学校の一部屋。
昨日はここで一泊したのだ。
それにしても朝から外が騒がしい!
祭りだろうか?
そんな呑気な考えを巡らせながら、窓の外を見た。
集団で街を練り歩く騎士たち。
この街にはあまり似つかわしくない光景だった。
それに、
「何をしに来たんですか!」
――フェローチェ学長の声!
時計を見ると8時ちょうど。
「何をするつもりかを先にいってください。フォーリオス帝国の第一騎士サグラ!」
フェローチェと相対しているのは、第一騎士サグラ? 知らない名前だが、厄介な奴だと理解した。
「レベル1の男がこの地に来ていると、報告があった。さぁーその男を差し出しな!!」
――――!
……。
……平和な日は続かない。
俺はそう思い起こした。
首には銀の十字架がかかっている。
そう、俺は、ある世界では犯罪者なのだ。
だから……。
第4章、フォーリオス帝国(ピアノ街)は、これにて終了です。
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