Exp.48『武器選び』
「ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした」
戦いが終わって数日。
俺たちは、学長室に通された。
もちろん顔を出した理由は、初めて来校したときと1ミリも変わらない。
アンシアの魔法が発動しない原因調査と回復魔法学科(修士)の受験である。
……扉を開けるまでは、そう思っていたのだが。
「本当に、本当に、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
どこぞの謝罪会見だった。
低く透明感のある声。勢いよく頭を下げてきた人物。
学長のフェローチェである。
「頭をあげてくれ、フェローチェ学長」
予想外の展開で俺は少々慌て気味に手を前に出し、アンシアも隣でビクついている。
「俺は大丈夫だから、それより体の調子は?」
「えぇ、だいぶ整いました」
フェローチェ学長の青色の瞳からは、今にも涙がこぼれ出そうであった。
さすが一流の回復術士ということか。自己治癒力も高い。
「……あんな魔物に、どうして心を支配されたのか……私の落ち度。すみません」
「そ、そっか。それより頭を上げてくれ。気まずいからさ」
そうして、三者面談のような形で、俺たちはソファーに寄りかかった。
――以前と変わらず、白を基調とした清潔な部屋と美しい魔道具の数々。
たった今、気づいたのだが、ソファーも弾力性のある良いものである。
「アンシアさんには、魔道具が必要でしたね」
フェローチェは、机に資料を出しページをめくった。
「装備に希望はありますか? 杖が良かったり、ブレスレッドが良かったり、はたまた帽子や服が良かったり? どうでしょうか?」
アンシアは小首を傾げた。
「フェローチェ学長、試験はやらないのか?」
俺は、率直に聞いた。
「とんでもないですよ。アンシアさんは、あの戦いと街の復興に貢献し、十分な成績と実践を見せてくれましたから。それに他の者と協議した結果も同様でしたから」
そういうものだろうか……。
俺は、アンシアに確認しようと隣を向いたのだが、
「私的には、ちょっと困り……ます」
アンシアは、俺に答えを委ねることなく、丁寧に答え、その場に立った。
「フェローチェ学長、気持ちは嬉しい……ですが、試験をお願いしたいです」
……アンシアの言葉にフェローチェは、目くばせ。
「えっと、私は、自分の力で、実践できていないですよ。キョウヤさん、リトミコさん、レイリックさん、そして、友達が一緒にいてくれたから、私は乗り越えることができたんです」
「私、勉強もしましたし、実践の練習もしました。私の頑張りを成績に残したい……というのは、おこがましいかもしれません。ですけど……私は自分の力の証明をしてみたいです」
「それに、キョウヤさんには、このアンシアが一人でも大丈夫だってところを見てもらって、これからも一緒に旅をしてほしい」
「だから全ての試験を頑張りたいです。受験させてください」
「そうみたいだ。フェローチェ学長」
「アンシアさんは、優秀ですね。では、試験を受けてもらいましょうか」
アンシアはニコッと笑い、こっちも思わず頬が緩んだ。
「ぜひそうさせてください!」
そして――
アンシアは、銅の杖を使って魔法を繰り出し、スラスラと問題を解いたそうだ。
「簡単でした」
フゥと息を吹き、おでこの汗を拭っているアンシア。
自信に満ち溢れている。
「そうか、頑張ったな」
俺は、飲み物を渡したのだった。
――――――LEVEL SERVICE――――――
試験の合格通知が渡されて、アンシアの魔道具選びが始まったことは、言うまでもないだろう。
グラウンドを貸し切って、魔道具を吟味しているアンシアの姿があった。非常に活き活きとしている。
回復魔法専門の工具職人とソムリエが次々に魔道具を出して、アンシアに試演させるという流れ。
俺は、詳細な知識を持っていないので「いいじゃないか」「合ってる合ってる」とエールすることしかやることがなく、暇になっては雲を数えた。
遠くの標的へ魔法を放つたびに100発100中のアンシア。
命中するごとに、俺に向かって手を振ってくる。
「アンシアさんは、命中率が高いですね」
フェローチェは、腕組みをして俺の隣にスッと現れた。
「何か、秘訣でもあるんですか」
「そうだな。パーティーを組んでいないと、回復魔法が届かないだろ。だから練習を重ねたってところだな」
「なるほどですね」
「キョウヤ君の話しを聞いてもいいかな」
「話せることなら、何でも答えるけど」
するとフェローチェは、フッと笑った。
「では、キョウヤ君は、この世界にあるレベルっていう概念、何だと思いますか?」
「かなり、哲学的で難しい問題が飛んできたな」
「私も、気になってまして、キョウヤ君の推測はどのようなものかと」
「レベル……ただただ人を分けるための、くだらない指標……といったところか」
「……キョウヤ君ならそう答えると思いました。私も同感ですよ」
「本当にやりたいこと……それを数字で決められたり、数字に見合った能力や武器しか与えてることができなかったり……人が数字に支配されているみたいだ」
「まったくですね」
俺は、久しぶりに昔を思い出し、言葉にした気がした――。
…………そうだ!
「でも、成長を感じることは、嫌いじゃない」
アンシアを指さして呟いた。
フェローチェは、目を丸くしたが、その後深く頷いてくれた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「ちょっと、来てくれ!」
工具職人が俺たちを呼んだ。




