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Exp.2『レベル上げ代行サービス(仮面・誤解)』

 




 あれから2年の月日がたった。

 憎しみと共にここまで来たのだ。

 本を読み漁り、剣術を高めて、魔法学を学び――全て独学だ。


 そして……この力も。


 俺は拳を握りしめて、謎のエネルギーを放出させた。

 キラキラと黄金色に輝く光の粒子。

 その正体は、経験値(Exp)。


 ――俺は、経験値を変幻自在に操る能力を持っていたのだ。


 天高い太陽が茶色い地面を焼きつける頃、俺は、経験値操作を駆使して、中級ドラゴンの土竜(どりゅう)と戦闘している。


 土竜は、全身茶色の(うろこ)に包まれた四足歩行のドラゴンで、大型トラック1台分の大きさだ。


「レベルは25か……」


 一方で、俺が持っている力は、レベル1と低級武器のナイフこれだけだ。

 

 倒す数とレベルアップは比例しない。

 たとえモンスターを50体倒したとしても、レベル50にはならない。

 相手と自分の力の差、これが経験値の獲得量とレベルアップに直結する。


 俺は、ギャップを狙っての武器選択。


「力のギャップがあれば、そこそこの経験値が入りそうだな」


 ――!


 俺は、土を蹴りフィールド中心に向かって颯爽(さっそう)と駆け出した。


 土竜は炎を吐いたり、魔法陣を展開しない。

 頑丈な4本足を軸に、体重の乗った突進を仕掛けてくる。


「よし、いける」


 土竜は土煙をあげ、秒速で潜り、地中をうごめく。


「木の棒に、レベルを1を分け与える」


 戦闘フィールドの中心。


 ――――――シューン……。


 ごくごく普通の木の棒は、クリアなオレンジ色に輝きだした。


 経験値を介してレベルを与えているのだ。


 レベルがあることで、木の棒は生きているも同然。

 物に、仮の命を吹き込んだ。


 ――ブスリッ!


 それを地面に突き立て、すぐにその場から撤退。

 次に、毒ツボを割りナイフを毒にひたした。


 毒はナイフにスッと溶けていき、(あや)しく光る銀色のナイフのできあがり。


「よし、落ち着け」


 フッと息を入れた。


 風を感じ、地下の振動を感じ取る。

 地底でぐるぐると何度も旋回し、地上の目標(えもの)の品定めをする土竜。



 ――――――ズゴゴゴゴゴゴゴ!



「来る!」


 轟音ごうおんが地面の奥深(おくふか)くから、ズンズンと近づいている。


 そのたびに、地面は揺れ、バリバリと隆起(りゅうき)し始めた!


 ――――――今!



 ――ドギャガーン! 



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!



 俺の予想通り。


 土竜は、木の棒を目標(えもの)と誤認したようだ。


 レベル1の木の棒はグルグルと勢いよく宙に弾き飛ばされ、周りの土は盛り返されて、空気中に散乱。

 同時に地面奥底の土が押し上げられ、硫黄の臭いがする。


 ――ズボッ!


 木の棒は、割れて死んだ……。




 ――――――――ギャオォオオオオグガガガガガ!




 普通の人間は立っていられない地面の揺れ、耳をつんざく叫びが鼓膜を突き抜ける。



「――次の段階と行きますか!」


 俺は、足に力を溜めた。


「レベル10、加速!」


 ――ビュンッ! 

 ――――――風を切って駆ける!


 土や岩が地上にドカドカと降り注いでいるがお(かま)いなし。


「そいつは、レベル1のおとりだ!」


「風、レベル3!」

  

 追い風にレベルを分け与え土竜に攻撃をしかけた。

 経験値を自由自在に操れる俺は、無生物の物に対してもレベルを分け与えることができる。

 よって、砂にだって石にだって、風にだってレベルを与えることが可能。


 俺は、まだまだ加速に乗っかり、土竜の近くによっていく。



 ――ギュルン!



 ――ものすごい風圧と風音!




 ――――――バーン!




 ギュガガガガガガ!



 俺より先行した風は、土竜正面に激突。


 風の勢いで、土竜の2本の前足が浮く。


 ――今!


 その瞬間を見逃(みのが)さずナイフを強く握り、力を込めて高く飛んだ!


 ――――――ギュン!


「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああ」



 ――バサリ! ――バサリ!



 テンポよく切断!



 土竜の首、胸、心臓! 毒を流し込んだ!

 

 紫色に染まったナイフが太陽光をギラリ反射させ――!


「……終わりだ」

 


 ――――――――――バサリッ!

 


 切り裂いた……。



 ギュガガガガガガァアアアアアアアアアアアァァァァ……。



 ――ドゴォォォオオオオオン!



 土竜の大きな巨体が、盛大に倒れた。


 低級武器でも、頭を使って組み合わせれば……無双。

 


 経験さえ積んでおけば、皮膚を(つらぬ)くことも簡単であり、数秒でノックダウンさせることが可能1


 ――フッ。


 ……。




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




 戦闘後のフィールドには、大きなクレーターができてぼこぼこであった。


 俺は、ヒョイっと土竜に接近し、レベルの元である経験値を受け取る。


 光り輝く精霊のような経験値は、俺の体に吸収されていく。

 やはり、経験値がレベルに変わることはなかった。


「今回、得られた経験値は、レベル6を与えられる程度か……」


「ナイフと毒ツボだけで、狩るのだからな。まぁ~こんなものだろう」


 今日もいつも通り。


 俺は、大空に向かって背伸びをした。


「よしっ。セレーネ、今日も行ってくるよ」

 

 俺は、胸にさげた銀色の十字架に語り掛けた。





 ――――――LEVEL SERVICE――――――





 ドゥゲール王国に帰って来たのは夕方。


 今からが本当の商売だ。


 俺はスッと茶色のフードを(かぶ)った。


 なぜならば、指名手配として、俺の顔が掲示板に載っているからだ。


 王国は、重税で疲弊(ひへい)しきっており、住民は()せこけていた。

 奴隷狩りも毎日のように行われているようで、何人もの奴隷が見世物のように、兵士に運ばれていた。


 変わってはいない。


 それに加えて、ドゥゲール王国は戦争を仕掛ける準備をしていた。




 ドゥゲールに戻ってきた理由は言うまでもない復讐だ。皆殺しだ!


 その下準備として、レベル上げ代行サービスを始めた俺。


 最初は、(おおやけ)の場で来るもの拒まず、レベルを取引しており、それで悪評(あくひょう)が広まったら路地裏(ろじうら)で取り引きをしようと思っていた。


 しかしだ! 兵士からの評判は良く商売は継続。

 経営や商売、流通の知識が役に立ったわけである。


 さらには、タイミングも良かった。

 そう! 戦争準備だ。

 情報によると、宣戦布告せずに奇襲するらしい。


 よって俺は重宝(ちょうほう)され、城の中で売買を行う。



「どうも、レベル上げ代行サービスです」



 門番兵には、レベル1つまりは無能であることを証明。

 チェックが終わると、城につながる橋を渡り、3階の広場で商売を行う。


 匿名でないと取引きをしない……これは絶対条件。

 俺の顔を見て、反応したやつは抹殺……。


「素晴らしい」


「どうされましたかね、代行サービス」


「何もない……」

 


 さぁ! レベル上げ代行サービスの時間だ!



「どうぞ、いらっしゃい……」


「いつもいつも助かるぜ」


「もっと強くなった、ハハハハハ」


「これで、けんかに勝てっかなガハハハッ」


「……そうですね」


 全員バカ! 一刻も早く、殺したい――――――。 


 俺は、奥歯をギシギシと鳴らした。


 レベルを1上げるごとに金貨15枚の交換である。

 国からは大量の資金が振り込まれ、今日は50人の兵士に対してレベルを10づつ上げて大儲け。


 豪遊し放題だ……。


 ――――――――――――。


 しかし、心は満たされなかった。


 殺したい殺したい殺したい。

 全てを……。


 今もなお、奴隷制度は続いている。

 俺と同じような、冒険者ギルドに拉致された奴隷もいる。



 ――――――――――――。



「今回のレベル配布によって我が国の兵力は平均43となったぞぉおおお!」


「これで、十分に攻めに行けるぞ! 戦争開始は1週間後だ」


 ぐおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。



 気持ちが高まったのか歓喜の声を上げる国王と、それに答える兵士たち。



 殺したい、殺したい、殺したい。

 殺意の悪魔にもっと縛られて、憑りつかれた。





 ――――――LEVEL SERVICE――――――




「1週間後は、来ないよ……。」


 だって俺は今夜、王国を滅ぼすのだから……。








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