Exp.46『形勢逆転』
「一体どうしましたぞ。フェローチェ学長」
――どわっ!
「黙れ!」
司会者を跳ね飛ばし、ズンズンと俺の方にやってくるフェローチェ。
額には血管が浮き出ている。
「つまらない。レベル1の化け物が!」
フェローチェの薄橙色の髪はひどく乱れ、青い瞳を潰すような怪訝な表情。
感情を滅多に出さないフェローチェ。クールな印象は消えていた。
リーリ―・ピアノ術式学校の生徒は特に動揺しており、全員がその場に尻もちをついていた。
――!
強い殺意……俺は分かった。
しかもその殺気はディレンと非常に似ている。
俺の前に立ったフェローチェは、今にも鈍器を振り下ろす勢い。
――鎖から脱出しなければ……。
――!
アンシアは俺をかばうように、両手を広げて立ちふさがった。
「そこをどけ!」
「どきません! あなたが呪いの音の正体ですね」
「証拠なんて、どこにもないだろうが!」
アンシアの小さな体に、フェローチェの影がかかる。
普通の女の子なら恐れてしまうだろう。
しかし――アンシアは、涙を堪え、奥歯を噛みしめ、震えながら立っている。
「アンシア……そこをどいてくれても、大丈夫だ」
「でも!」
「いいから、いいから」
俺は、アンシアをなだめた。
「――よぉし」
フェローチェは、低い声を出し、ギリリッ――と鎖を乱暴に握り、俺を持ち上げた。
ポーカーフェイスが消えて……凸凹になっている顔。
「今ならば、ポーカーで勝てそうだ、フェローチェ」
俺はヘラヘラと笑った。
「ふっ、危機的状態でもへらず口を叩けるのか」
フェローチェは冷たく笑止すると、
「危機的状況だからかもな」
俺は余裕の笑み。
あいつらの……足音が聞こえる。
――ギルド。
「がら空きだぜ、フェローチェ」
俺は呟いた。
「何がだ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――!
「食らえぇ! 俺の愛武器! フレイル! ――ふんっ」
とある男が叫ぶと――!
――ぐるぐると回る武器が、観客席の最上段から思いっきり投げ込まれた!
「フェローチェぇええええええええええええええええ! 見苦しいたらありゃしないぜ! 真のイケメンである、このレイリック様が成敗してやるぜ」
青いバンダナと汗が輝いた。
――!
「証拠はたっぷりありますよーー」
「レイリックさん! リトミコさん!」
アンシアは指さして歓喜の声をあげた。
――! フェローチェは、フレイルを簡単に交わす。
「ちぇ! 緯度と経度が数ミリズレたか!」
しかし、レイリックは、ガッツポーズ!
――パキン! ――パキン! ――パキン! ――パキン!
―――――――!
俺の両手足を繋いでいた鎖は――切断されたのだ!
そして、持ち主のもとに戻るフレイル!
レイリックは手に取り、持ち手にキスをした。
「おっと、キョウヤ、アンシアちゃん 恩を返しに来たぜ」
レイリックは、金髪を光らせ、「覚えているか」っと言わんばかりの勢い。
頭に巻いてある青色のヘアバンドを親指で指さした!
「覚えている! レイリック!」
――!
――俺は、フェローチェの隙をついて、高く大ジャンプ。
フェローチェと距離を取った。
「身体が少々訛ってる気がしたが、問題ない」
レベルは無くても、経験値は確かに胸の中にある。
短剣を引き抜いた。
「アンシアさん、忘れ物で~す」
「はい、リトミコさん!」
――今度は、銅の杖が空中に飛んだ!
パシッ――!
アンシアはそれを受け取り、俺の後ろについた。
―――――――!
「な、何が起きている!」
状況が追いついていない観客。
「これは、なんですぞ。公開処刑ですぞ! どへぇええええええええ⁉」
司会者にも、事態の収拾は難しくなっていた。
「フェローチェ! お前が呪いの音の犯人だ!」
観客にも分かるように、短剣でフェローチェを指した!
「何を言う!」
「俺たちが呪いの音について知ったのは、レイリックがお前を討伐しに行く夜のことだ!」
「そうだぜ、証拠人は、このレイリック様と俺様のギルドメンバー全員だ!」
――うっ!
フェローチェは言葉に詰まった。
「あっ、さらに証拠なんですがぁ~。来店した連れの警備部隊の2人を賄賂で口止めしたそうですねぇ~」
リトミコは、元気よく手を振って、気持ちよさそうに言う。
――ググッ!
フェローチェの顔は、さらに引きつった……。
「さて、形勢逆転ってところか!」
「くっくっく。そうですか……全てぇ~知っていそうですね……」
「ならば、お前らの息の音と記憶、全部消してやる!」
――!
ポーカーフェイスは、きれいさっぱり消えて、悪魔の形相だった!
「植物怪物魔法!」
植物がぎゅにゅにゅにゅ、と地面から生えた。
「行くぞ! アンシア」
「はい、キョウヤさん!」
――――――LEVEL SERVICE――――――




