Exp.45『正義への咆哮』
「くらえ、超打撃魔法!」
―――――――ぐふぁっ!
「3連射炎弓魔法! 死ね!」
―――――――うがっ!
「冷凍魔法!」
―――――――一瞬のうちに凍り付き、バンッっと弾けた!
――うっ!
ハイペースで3連発……。
回復術士は、中程度の攻撃魔法すら使うことができないはず……なのに!
フェローチェの小細工か。
「やった、フェローチェ学長! 当たったよ。初めて攻撃魔法ができたよ」
「練習では、一回も成功しなかったのに!」
―――――――どういうことだ⁉
フェローチェは、生徒の言葉に拍手で答え、喜劇を見ているかのように満足そうな顔をしている。
「やめろ! 君たちが手にしている魔道具にはギミックが仕込まれている!」
「無茶な攻撃魔法を使うと! 回復術士への体の負担は大きい!」
「うるさいですね。死ね魔物! 鉄の処女!」
上級魔法!
―――――――グサリ!
四方から巨大な針が現れて、俺の体を貫いた!
全身が串刺しになり意識が……。
仕掛けた生徒もばたりと倒れているのが見えた。
――まだだ!
俺はどうにか持ちこたえた。
経験値がレベルにすり替わり体力を補填するのだ。
「君たちが持っている杖には、ギミックが仕込まれている……」
「フェローチェの魔術が、呪いが刻まれている!」
「まだ死なないんですか……」
生徒の顔は、常に嫌悪。
ゴミを見る目である。
さらには「もっとやってやれ」と攻撃魔法の気持ちよさに、喜々を感じているようだ。
道を踏み外している――。
「電磁波魔法!」
―――――――グギャ!
……。
攻撃魔法を食らい続け、俺は地面に膝を付けて立つのが精一杯の状況。
服は焦げて、全身から煙が出ている。
……アン……シア。
俺は、潰れかけた目で姿を確認。
ついに、彼女の番が回ってきたのだ。
……アンシアは文字どおり止まった。
すると観客席はざわつき、
「おいおい、まさかあいつがか?」
観客は落胆――。
「ふざけるな、恥を知れ! 悪魔が!」
さらには罵声を飛ばす。
――! するとフェローチェは立ち上がった!
「アンシアさんは、そんな生徒じゃありません」
「私はあなたに期待していますよ!」
フェローチェは、肯定的な態度を取った。
アンシアは動揺を隠せていない……。
俺と同様に全てがフェローチェの罠であると、知っているからだろう。
俺は、止めることができない。
戦意喪失に苛まれて、動けない。
一生死なず、経験値が尽きるまでサンドバックになるのだろうか。
「みなさん、アンシアさんを応援するぞぉぉおおおおおおおおおお!」
司会者は、集団圧力を高めるために掛け声をあげた!
タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!
そして――手拍子が打たれ始めたのだ。
タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!
テンポも速くなって―――――――「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!」物騒なコール!
ピアノは美しい音楽の都だったはずなのに……!
響く音は、狂気と憤怒にまみれ、汚れていく。
タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!
―――――――……。
「私には……」
タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!
心臓をドクドクさせて息を詰まらせる手拍子。
もしも、多数派の意見に従わなければ、孤立する悲しい世界……。
怖くて、最悪な雰囲気。
アンシアに、耐えられるはずがない!
俺に魔法を撃って、楽なってくれ!
俺は祈った。
「……アン……シ……ア」
「できません!」
――――――――!
威圧してくる集団を跳ね除けるように必死な声がグラウンドに広がった。
―――――――!
「私には、できない……」
「どうしてですか? あなたは私とピアノの住人を騙し、苦しめたというのですか?」
フェローチェは、アンシアを追い込んだ。
アンシアは、怖くなっているのだろう。
涙目で体は震えてる。
「どうなんだ、ハッキリしろ! 裏切ったのかおい!」
観客も一斉に、問い詰めた。
「ちが、ちがくて、私たちは、呪いの音とは関係なくて……」
アンシアは抵抗を見せるが……数の暴力である。
「うじうじするな。堂々と言え~」
観客は、暴言やヤジを飛ばしたりのオンパレード。
―――――――! ―――――――!
「絶対に魔物を殺せないですか、アンシアさん!」
……。
――!
「あ~そうですか」
フェローチェは、被害者面で、アンシアを鋭く睨んだ。
「ならば、仕方あるまい……」
フェローチェは、手を突き出した。
「植物怪獣魔法!」
フェローチェの呪文によって放たれた深緑の光点は、アンシアの持つ杖に付着。
「何をするきだっ!」
――ぐにゃぐにゃり、ぐにゃり!
――――!
アンシアの持つ杖から、植物のツルが発現した。
そして、アンシアの手に絡みついた!
「キャッ!」
――ギュルン!
ツルは、アンシアの腕の関節をきつく縛った!
「魔法を、早くあの魔物に当てなさい。さぁ!」
フェローチェは、強く押している!
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
アンシアの甲高い声が響いた。
植物のツルは、アンシアの腕に巻き付いて、引きちぎろうとしている!
魔法をかけたのか!
――!
「さぁさぁ。やつに魔法をぶつけなさい。殺しなさい」
アンシアには手を出すなっ!
しかし――その言葉は、俺の口からは出せないと瞬時に判断した。
アンシアが苦しみに耐えられなくなって、俺を殺せば……アンシアは助かるからだ⁉
杖を必死に手放そうとしているアンシア。
しかし、ツルは、ガッチリと手や腕を縛り上げて、離れない!
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
―――――――アンシア! 撃て魔法を早く! 撃て!
―――――――しかし、アンシアは口を左手で押さえて魔法を唱えまいとしている。
アンシアもう頑張らなくてもいい!
だからだから!
――!
「早く、魔法を、あの魔物に、キョウヤに撃ちなさい!」
「絶対に……イヤです」
「どうしましたかアンシアさん! 早く殺しなさい!」
「イヤ……絶対に……絶対に」
「殺せ!」
―――――――!
「絶対に、絶対に! 私が! キョウヤさんを守るんだから! キョウヤさんは! 冤罪だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
アンシアは最後まで諦めていない!
だったら――俺は!
全身に力を溜めた。
目を覚ませ俺!
――バリバリ!
「サイコ・シンフォニーを壊す!」
――――――――――――――――!
「アンシア!」
――戦意喪失する呪いが! ……溶けた!
「キョウヤ……さん……」
――!
「アンシア待ってろ。俺が何とかする!」
――!
絶対に外すわけにはいかない……。
―――――――ふぅっ……。
俺は、小さく息を吹いた。
「風、レベル30」
――――――――――――――――ピュンッ!
――ふぅっと吹いた息には、レベルが与えられた。
息は弾丸となり――まっすぐ突き進んだ!
―――――――。
ギュンと光の速さで……。迷いなくまっすぐ!
――――――――――――――。
「いけ!」
―――――――ピュン!
―――――――パンッ!
クリティカルヒットした!
―――――――アンシアの手から離れた杖は、クルクルと舞って、ツルは引きちぎられ空中に弾けた!
……――――――ブビンッ!
そして杖は、ダーツのように地面に突き刺さった!
白熱した公開処刑に閃光が走った!
一同驚愕……。
―――――――魔法が消えた……。
「アンシア!」
「キョウヤさん!」
―――――――アンシアを抱き留めた。
ギュシャ、鎖はこれから外さなければ……。
そこまで気は回っていなかった。
「どういうことだ。何が起こっている?」
「え~、どうしたんだぁ」
観客や何も知らない者は、動揺してざわついた。
「いかがいたしますか……フェローチェ学ちょのご尊顔! おおおおおおおお~怖いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
司会者は頭を隠した。
フェローチェは、口を噛みしめて、不服そうな顔もちであったのだ。
――――――LEVEL SERVICE――――――
俺は、拳を握り、フェローチェを睨んだ。




