Exp.44『裁判開始』
「今から、魔物の公開処刑と手助けを行った回復術士の魔女狩りを行いますぞ!」
――――パン! ―――――――パン!
勢いよく乾いた空砲が鳴った。
何か、祭りごとか……
俺は、疲労の溜まった体をゆっくり起こした。
まだ、ぼんやりしていて意識が乏しい。
「場所はここ、リーリー・ピアノ術式学校の特設グラウンドで取り仕切りるぞ!」
紳士服を着た太ったおっさんの大きな声!
――スッ!
―――――――――――――――――――――ダ~ン!
――――――――――――――トーン!
―――――――――――――――――――パァァァァァァァン!
チューバの低音、トロンボーン、ホルンの中音、トランペットの切れのある高音!
――スッ!
―――――――!
国家的な荘厳なクラシックが流れた。
開会宣言の後に、吹奏楽の演奏が始まり、俺は完全に目が覚めた。
いや、目が覚めたというよりは、この時間に起きるようセットされていた感じに思える。
ここは、どこだ!
国家のようなものが鳴っている間、俺は辺りを見回した。
陸上競技場のような作りで、楕円形のグラウンドと観客席が整備されている場所……。
人がたくさんいる。
―――――――ガチャリ。
――独房なのに野ざらし?
そうらしい。
しかし、壁は取っ払われ、俺の後ろに鉄柱が2本。俺を繋ぎとめていた。
独房ごとグラウンドに転送されたようだ。
体は完全に乾ききっていて、両手足の鎖はゆるゆる。
俺は、飲食の無いまま放置されていたようだ……。
しかし、生きている。経験値のおかげで、どうやら命は助かっている。
――!
―――――――曲が終わった……。
「おっと、魔物が起きましたね」
太ったおっさん司会者は、俺を指摘した。
俺が……魔物⁉
すると、グラウンドはざわめきだし、耳に入ってくるのは、負の感情ばかり。
「人を返せ、記憶を返せ、お前がいたからこの街は狂ってしまった。平和を返せ!」
俺がこの人たちに何をしたというんだ……。
体を捩って、ガタガタ言わせてみるが、気持ち悪がられていることが分かった。
「さて、気を取り直して、え~と次に――」
「フェローチェ学長からあいさつです」
……⁉
フェローチェは、気持ちよさそうに登場し、全体が見渡せる俺の目の前に立った。
そして、手を挙げて大衆の目を引き付ける。
静まり返るグラウンド、すると丁寧にしゃべり始めた。
「数日前から続いていた呪いの音の件ですが……犯人はこの男であることを、我々は突き止めました……」
――!
「今まで被害に遭われた人の心を思うと胸が痛いです……発見が遅くなり申し訳ありませんでした……」
「しかし、安心してください。今日限りで呪いの音は消えるのです……」
「みなさん! 復讐に燃えて処刑を実行し、勝利の声をあげようではありませんか」
……。
「同時に、残念ながら……本校から魔物の手助けをしてしまった生徒がいたことを認めます……。謝罪をいたします……」
「よって、生徒の正体を暴くために魔女裁判を行います」
―――――――!
退場間際フェローチェは、さわやかに笑って俺を見た。
――!
その勝ち誇った表情は、悪魔そのもの。
俺に罰を受けろと、そう訴えてくる。
まったくの冤罪である。
フェローチェ! お前……。
……! なぜだろうか、暴れても無駄な気がした。
どうにかして、打開策を取らなければ、そうしなければ、ピアノは魔境とかする。
高みの見物だろうか。
フェローチェは、観客席の一部に設けられているVIP席に着いた。
「さて、魔女狩りの方法。それは簡単ぞ」
司会者はまた、活き活きとしゃべりだした。
どのような裁判を行うのだろうか……。
逃げれるものなら、逃げたかった。
「――この魔物の男に、攻撃魔法を与えることができなかった者が容疑者であるぞ」
―――――――予想通りだった。
「しかし、ちょっと違うルールがあるぞ」
「容疑を掛けられている生徒は、回復術士の10人ぞ!」
「1番から10番までの人が順番に攻撃魔法を与える」
「それも、攻撃魔法の威力を前番号の人よりも強くしないといけませんぞ」
「だから! 自分が犯人でないと証明したいのならば、自分の前の人よりも、強い攻撃魔法を与えてくださいぞ……」
―――――――!
酷すぎる。
というか、回復術士が攻撃魔法……普通は、あり得ない。
弱い攻撃魔法を何回も俺にぶち当てて、じわじわと痛める魔女狩り⁉
観客は大喝采!
フェローチェはその様子を満足そうに見ていた。
「さて、被疑者、入場!」
司会者の声と共に、吹奏楽。
――!
暗い顔。悲しんでいる顔。怯えている顔。不満そうな顔の生徒がぞろぞろと入ってきた。
フェローチェ! お前! 生徒の気持ちが分からないのか……。
俺は、生徒にいち早く、真相を伝えたかった。
しかし、その言葉は声にする前に意味のないものだと思い知った。
「恥を搔かせやがって、この化け物が」
「私の信頼はガタ落ちよ、死ね!」
「フェローチェ学長、私は、絶対に違いますからね!」
――!
生徒は、フェローチェを尊敬しきっているのだ。
何を言ったとしても、たぶん怒りの矛先は、俺。
戦闘喪失と無力感。
――!
そして10番目に登場したのは、アンシアだった!
――!
アンシアは俺を見ると驚愕していた。
「10番目のやつ怪しくね~か」
観客席から聞こえてきた声と、ソワソワ感……。
アンシアは、立ち止まっていたのだ。
「さて、さて、生徒……いや被疑者のみなさんは定位置についてぞ」
アンシアは、俯いたままでしぶしぶと歩いて行った。
アンシア……。
―――――助けたい!
だけど、俺は言葉が出ない。
どうせ無理だと、無意識に心がそうさせたのだった。
「この間、練習した通りに魔術をぶっ放してくださぁ~いぞ!」
「それでは、始めぞ!」
――――――LEVEL SERVICE――――――




