Exp.41『真実は残酷』
昼には隠れているが、夜には姿を現す星。
照明の器具が頼りのギルド施設。
ローリエは、転移鏡を通してレイリックの心を読み始めた。
彼女の灰色の瞳は、水晶のように煌めくと、まぶたはゆっくり降りた。
そして、意識的に呼吸をしているのだと分かる胸の動き。
普段なら、会話をしながら「今、いかがわしいことを考えましたね」と余計なことを言う能力なのだが、今日ばかりは違った。
睡眠時の人間の心を読むのは、かなり神経を使うのだろう。
獣耳ですらもピクリとさせない集中力。
ゾーンに入ったのか……。
まるで悟りである……。
隣でリトミコは拝んでいた。
ローリエは、神様ではないからご利益はない。
きっと上手くいくように願ってくれているのだろう。
――――――――――――――――――。
――――――――――――。
――――――。
「そう……だったのですね」
――数十分後ローリエは、そっと声を出した。
白い吐息を漏らし、体全身が汗で濡れている。
「……心はかなり複雑ね」
レイリックが、心に秘めているものは、よっぽど悪い状態だったのだろうか。
「ローリエ、話せそうか」
ローリエは、決心したかのように頷いた。
「レイリックによると、音のする方に行けば絶対にモンスターと遭遇できるそうね」
「そして、ヒト型であるのは間違いないそうだわ」
少なくともゴースト系とかではないということか……。
「しかし、数分で俺たちは戦意喪失させられた……らしいわ」
「戦意喪失?」
「手も足も出ずに終わった。その後は記憶にない。呪いの音を聞いていると戦意喪失して、意識が無くなるそうだわ」
「戦うことすらできない敵か」
これでは俺も、戦うことが難しいとなる……か。
「あと、呪いの音は……回復魔法らしいわ」
「回復魔法か!」
「ええ、呪いの音の発動音が、回復魔法と似ていた……ということらしいわ」
てっきり、闇魔法と思っていたので驚きだった。
……確かに、回復魔法には独特の発動音がついている。
しかし、それは使い慣れていないから鳴るのだ。
戦闘中に回復魔法の発動音がなったら、敵は回復を阻害してくるだろう。
つまりは、呪いの音を使い慣れていないということになる。
敵を叩くなら、今のうちだ。
「キョウヤ。全然、情報量が少ないわよね」
「もっと特徴を伝えたり、音の再現をしてあげたかったわ」
「いや、十分過ぎる。ありがとう」
だったら呪いの音は、かなり強い回復魔法だと思う。
そんな、高等魔法を使えるモンスターはいるのだろうか……。
謎は深まるばかりだった。
「それと、レイリックは、討伐を諦めていないわ!」
――!
俺は、横たわって寝ているレイリックに目をやった。
「分かった」
俺が、意思を引き継ぐ!
――――――。
読心で得た言葉を全て話してくれたようで、ローリエはふらっと倒れた。
だいぶ疲れが溜まったのだろう。
「大丈夫か、ローリエ」
「ええ問題ないわ。眠っている人だったし遠距離だし少し疲れただけよ」
「心に隙が無くて……大変でしたの」
「ありがとう、すごく助かったよ」
「いいえ、いいのですわ。恩返しですわ」
「ケーシー、後はよろしく頼んだ」
「はいにゃ」
――!
「待ってキョウヤ。注意してください」
「ん?」
「あなたを時々、いや、10分に1回監視しているのだけど」
「はい?」
「だから、待ってキョウヤって言ったのよ」
「その後だ」
「あなたを時々、いや、10分に1回監視しているのだけど」
俺はため息をついた。
「そうか、ありがとよ」
ストーカーじゃないか! って言いたかった。
しかしここで話に乗ってはいけない。
「そんな! ストーカーとは、違くてですわ」
……読まれてた。
俺は変なことをしていないだろうか、ここまでの道のりをフィードバック。
ん?
「って! 俺の心をわけの分からない時空の裂け目から読むな」
「ちょっとだわ! ちょっとだけ! あと転移鏡はそんなんじゃないわ」
「だったらお前のちょっとを教えてくれ」
「アンシアと食事をしたこと、ベットは違えど一緒に寝ていること……。私にとっては酷い放置プレイだわ。だけど処刑は許してあげる。安心して」
スラスラと答えやがった。
「がっつり見てるじゃないか! あと処刑って言葉どこで覚えた」
すると、横でアンシアが「クスリ」と笑った。
笑える要素あったか?
「でもね。キョウヤに下心はこれっぽっちもないわ。アンシア、安心していいですわ」
ローリエの勝ち誇ったような言葉づかい。
「そ、そうですか……」
なんで、アンシア。落ち込むんだよ……。
そこは、喜べよ。
読心術とは、会話の際中に余計なことを言う能力。
これが、証明されたのだった。
まったく……。
「で、注意することってなんだ?」
俺は、強引に話を進ませた。
「見えない周波というか空気の振動……。最近キョウヤに……違うわね。アンシアの周りに、異常がでているわ」
「私、ですか?」
「普通の環境には無いものだわ。転移鏡の力を妨害させる空気の振動であることは間違いないわ」
「だから、気を付けてほしい」
「分かりました。気を付けます」
アンシアは真剣に返事をした後、熟考しだした。
俺と同じように、過去をフィードバックしているのだろうか?
人からの指摘は恐ろしいもんな。
「これで以上だわ」
「本当に助かった。ありがとう」
……? ローリエは、「それで」と言わんばかりの顔もちであった。
しょうがない。
「え~……また、呼ぶかもしれない。その時はよろしく頼む」
「――! 毎日良いわよ!」
すると、ローリエの顔は一瞬で明るくなった。
夜の星や照明器具の数百倍である。
物理的に光ったわけではないけど……。
それは、……面倒かな。
俺の電球は、消えて苦笑い。
「何かあったらいつでも呼ぶにゃ!」
しっかりと側近をやっておる。
ケーシーが話をまとめてくれた。
「そうね、待ってるわ、キョウヤ」
ローリエも折れてくれたようだ。
「今日は休憩をしっかり取ってくれな……」
俺は、手を振って見送った。
すると、転移鏡は、徐々に小さくなり、ポンッと消失。
……。
――――――――。
「一気に静かになったな」
「凄かったですね」
リトミコは、鏡の出現した天井を不思議そうに見つめた。
そして、はたきを使ってトントンと叩たり突いたりしている。
そんなことをしたら割れる?
俺も今度やってみようと思った。
一方でアンシアは、気が気でない様子だった。
「私のせいで、レイリックさんたちは、暴れてしまったのかな」
――!
「どうして、そう思う」
俺は、アンシアと目を合わせた。
「……強力な回復魔法を使えるモンスターはいないと思います。たぶん呪いの音の正体は回復術士かもしれないです」
「なるほど、それで?」
「レイリックさんは、呪いの音に操られて、回復術士を見境なく攻撃して、痛い思いをしたのかもしれないです。呪いの音の効果に記憶喪失があるでしょ……」
「だから……私がいると街の人に迷惑がかかる。それに……キョウヤさんに戦いを仕向けてしまうかもしれないです! ここでは休憩する予定でしたよね……だから」
「そっか、そう思ったのか、アンシア」
俺は、アンシアの頭を撫でた。
「アンシアは、他人思いで良い子だな」
――。
「でもな、今回の一件、回復術士であることが原因ではないんだ」
「呪いの音の使用者は何者なのか。なぜ流されているのか。そして――」
「呪いの音で苦しんでいる人を救うことが大事?」
「アンシア、その通りだ」
「だから、自分を責めないでくれ」
「そうです。アンシアさんがへこむことは無いですし、回復術士は素敵な役職ですよ」
「リトミコさん!」
リトミコは、大きく頷いた。
「そ、そうですか……」
「ならば! 苦しんでいる人を治癒するために頑張らないとですね。 回復術士として!」
「素敵な答えだ。アンシア」
「それに、アンシアを守るためだったら、俺は喜んで戦う」
……。
「だから、その銅の杖を俺に見せてくれ」
アンシアはスッと手渡した。
「リトミコ、隠れた術式を暴く鑑定試液はあるか?」
「ありますけど?」
俺は、透明な液体を、銅の杖に垂らした。
すると、銅の杖は、クルクルとその場を回転し始めた。
「どう思う。アンシア」
――!
「私、これ勉強しました」
「鑑定試液を使えば、隠れた術式や呪文を発見できます。その確かめ方は、術式の影響を受けているものは……回転する!」
「つまり、銅の杖は!」
「ギミック!」
――トントン!
ドアを叩く音が部屋に響いた。
ギルド施設への来客である。
「たぶん見えるぜ。黒幕の尻尾が!」
――――!
「そうね。ギルドパーティーかしらぁ~」
リトミコも芝居に乗ってくれるようで、簡単にドアを開けてくれた。
――!
そこには巨漢の男2人が立っていた。
「警備部隊です。ちょっとお話が……」
リトミコは、驚いて後ずさりしていたが、こいつらは敵ではないと俺は判断した。
警備部隊の服を着こなしていて、勲章がついていたからだ。
まだまだ尻尾の先端だから捕まえてはいけない。
出方を見る。
「警備部隊がこんな夜にどうしたの?」
「キョウヤとアンシアを連れてこいと命令が出ております」
「俺がキョウヤだ!」
「あなたが、そうですか」
――!
1人の男の目が、一点に集中したところを俺は見逃さなかった。
それは、レイリックの寝ている姿……。
「ん? どうかしたか?」
「いえ、何も……」
警備部隊は、挙動が不審であった。
――――――LEVEL SERVICE――――――




