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レベル1の落第生が異世界でレベル上げ代行サービス  作者: りっきー局長
第4章 フォーリオス帝国(ピアノ街)編
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Exp.40『夢分析』



 だんだん()げ臭くなってきているし、音楽の代わりに悲鳴が聞こえる。って、宿屋が燃えてる!


 ――!


 後ろ向きで、建物から遠ざかる一人の少女を見つけた。


「アンシア!」


俺は、勢い任せで名前を呼んだ。


「キョウヤさん!」


 俺が駆け寄ると、アンシアも同じように気付いて駆け寄り胸に飛び込んできた。

 右手には銅の杖(ブロンドスケール)がしっかり握られてある。

 

「怪我してないか」


「大丈夫です」


 アンシアの目線の高さに合わせて中腰、彼女(アンシア)の肩を押さえて体を簡単に確認。

 ――大丈夫そうだな。

 非常に元気そうだった。一方で戸惑って手をもじもじさせている。


 ――?


「宿屋にいた人たちは……」


「全員避難できてます」


 人の集団が建物を見上げていた。

 その中に、宿屋の店主も発見。


「それだけで、十分だ。誇らしいぞ!」


 アンシアと無事に再開を(はた)したのは良かったが、燃える建物の下で4人が暴れていた。

 外壁を壊したり窓ガラスを割ったり、最悪の状態だ……。


「で、デジャブ」


 俺は、頭を抱えた。

 今日は、厄災(やくさい)が多いな……。 


「どうかしましたか?」


「ちょっと、暴走を止めてくる」


「でもあの人たち!」


 アンシアが言葉を言い終わる前に俺は気づいた。

 それは、見知った人。


 ――!


「レイリック?」


 ……あのバンダナと愛用武器フレイル間違いない。

 宿屋を攻撃し暴走しているのは、レイリックたちだ。


「レイリック、何があった!」


 ……クゥゥ。


 すると、彼らはじんわりと振り向き、俺たちを真顔で黙視。


 ――――ん?


 意識はあるのか?

 武器を重そうに引きずりながら、ノソノソと俺たちに近づいてきたのだ。


 俺は短剣を引き抜く仕草をしてみるが、彼らに反応はない。


 やはり、意識はないと断定。

 しかし一つ疑問なのは、彼らの目線の先がアンシアであること⁉


「宿屋の1階が騒がしくて、(のぞ)いてみたらレイリックさんたちが暴れていて!」


「それでアンシアが魔法を使って、4人を引き付けている状態ってことか……」


「違います。ゆっくりですが。私に近づいてくるんです」


「マジでか……」


 無言のまま詰め寄ってくるレイリックたち。

 住民に被害が出ていないのは助かるのだが。

 磁石かよ!

 アンシアに磁力が発生しているのか?


 ――――――――――――。


 火災そっちのけで、レイリックたちはゾンビのように近づいてくる。


 アンシアが、心配そうな表情をしていることにも気付いた。

 

「キョウヤさん、戦いますか」


「大丈夫、()ることはないから」


 (さや)に収めた状態で短剣を構えた。そしてゆっくり4人に近づく。


 ――――――!


 さっきと一緒だ。意識がない無感情。

 目は(うつ)ろっている。

 呪いの音と、戦闘したことが原因だろう。


 ――シュタッ!

 

 まずは、3人の後ろ首に(さや)剣を叩きこんだ。


 ――――ガシャリ!


 ――!


 するとレイリックがフレイルを短剣に(から)みつかせた!

 弱弱しい力だが、グイグイと短剣を引っ張ってくる。

 攻撃するのか? 珍しいな!

 ――俺は、レイリックと向き合った。


 ――⁉


 口が動いている。


 ……ドコ。ドコニイル――?


 炎に照りつけられたレイリックの顔は真顔。


 口元をパクパクとさせて訴えかけている? ――真顔から涙がこぼれた!


 勇ましくクエストに向かった調子のよい性格のレイリックから悲しみの涙。

 いや、感情を消されて無念の涙か?


「レイリック。分かったよ……」


 俺が力を入れると簡単にレイリックは(くじ)けた。


 そして――ンッ!


 ――――首に一撃を加えて眠らせた。


「俺は物理攻撃が専門だから、すまないレイリック……」


 レイリックは、失神して静かになった。


「アンシア、回復魔法を頼む」


「任せてください」



 ――――――――――――――。



 事態は収まったが、カチカチとメトロノームの音だけが街に残った。

 緊急事態時には演奏が止められ、野次馬で溢れていたのだ。

 とても(むな)しい音である。


 アンシアは、焼け焦げた宿屋の前でぼんやりと立ち尽くしていた。

 状況がつかめていないらしい。

 それもそっか。


 しかし、これでほぼ理解できた。

 俺は、事件を総合的に判断できるかもしれない。


 アンシアの横に立って、俺の肩より低い位置にある頭を撫でた。


「……ネクスト コ〇ンズ ヒント」


「はい?」


「ギルド」 


 つまりは呪いの音と戦うと、他の者と違った異常のきたし方をするのではないか?


 

 フェローチェは、どう考えているのだろうか。



「キョウヤさん。それなんですか?」





 ――――――LEVEL SERVICE――――――





 カランコロンッ。


「あ、こんにちは、って昨日の! キョウヤさんとアンシアちゃんだっけ。どした?」


「緊急事態なんだ」


 ギルド施設入ると、昨日の受付嬢が爪の手入れをしていた。


 俺は、肩にレイリックを抱えて登場し、受付嬢は目をパチクリさせた。


 ここは病院じゃないよ。それは知ってるよ。

 心の会話が成立した。


「どうしたの?」


「死体! 殺しちゃたの! その処理はできないかな」


「違う、違う」


 埋葬を頼みたいわけでもないから。




 ――――――LEVEL SERVICE――――――




「大変でしたね」


 事情を話すと昨日の受付嬢『リトミコ』は文句一つ言わずに、俺たちと失神しているレイリックを受け入れてくれて、ギルド施設に泊めてくれるそうだ。


「それにしてもこの方、白目ですね。きまってますね」


「うそだろ……」


 アンシアの回復魔法(ヒール)のおかげで、一命(いちめい)は取り留めているはずだが……。


「がっつりですね」


 リトミコは、さらに続けた。

 がっつりって、がっつりってなんだよ。


 ――そうだ!


「すまないがリトミコ、呪いの音の討伐クエストについてだが、参加ギルドやパーティーの情報を俺に提供してくれ」


「いいですけど?」


 するとリトミコは、ゴソリと棚からファイルを引っこ抜き机に広げてくれた。

 非常に丁寧。書類整理を頑張ったことが伝わってくる。


 ――エース・ボーンフィッシュ・レイリック。


 全てが当てはまった。


「キョウヤさんどうしたのですか?」


 アンシアは、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「実は、レイリックだけじゃないんだ。今日は合計2つの事件があって、どれも呪いの音が原因。レイリックギルドの暴走とエースギルド、ボーンフィッシュギルドの闘争だ」


「そんなことがあったのね。私寝てたわ」


 リトミコはかなり呑気で……言ってる場合か!


「調べたところ、呪いの音と直接対決したギルドが、暴れ回っていたということだ」


「キョウヤさん。このことは、術式学校に連絡をしときますかね」


 リトミコは、すぐに手元の受話器を手にするが、


「ちょっと待ってくれ、リトミコ」


 俺は、止めた。


 ――?


 秘策があるのだ。



 ――――――――――――。



「そこにいるんだろ!」


「おい、鏡! ローリエそこにいるんだろ」


 俺は天井の隅を凝視して、大声を出した。


「キョウヤさん。どしたの。天井には(ほこり)しかないですけど」


 リトミコは、頭に疑問符を並べている。


「決して頭がおかしくなったんじゃない。確実にそこにいるんだ。数日前から」


「呪い?」


「鏡だ……」


「頼むから出てきてくれ!」


 すると、空間がぐにゃりと曲がり、自分の顔が映し出された、と思ったら城内の様子に変化。


「どうもにゃ。キョウヤ殿!」


 気さくな明るい声の持ち主、ケーシーが現れた。


「なにこれ妖精?」


 リトミコは、驚いたのか鏡をプルプル指さしながら説明を求めてくる。

 ありえない、そんな表情である。


「これは、転移鏡(てんいきょう)だ。鏡の持ち主が場所を設定することで繋がる」


「そんなものが、この世界に」


「ちなみに、現在の所有者はトリアトン帝国の女王」


「え、あの亜人ちゃんが!」


「アンシアちゃん。やっほーにゃ」


 アンシアは久しぶりの再会に喜んでいて、口角が上昇。

 手を胸元で振っている。


「ケーシーさん。ご無沙汰です」


「あの子は、側近だ。女王はもっとヤバい奴だ」


「へ?」


「ケーシーやっぱりいたか!」


「元気ですにゃ」


「相変わらずだな」


「ところでローリエは非番か?」


「そんなことないにゃ。キョウヤに呼ばれて少しびっくりしているだけにゃっ!」


 ――ドテッ!


「ローリエ様、痛いにゃ」


「キョウヤ、キョウヤ、お久しぶりですわ!」


「お里が恋しくなったのかしら?」


 そんなことはない。

 第一そこは俺の里ではない。


「ローリエも元気そうだな……」


「それはもう。さっそくセレーネの街やティレンテ市街と貿易してるし、ラテーラ火山の掃除をしているわ」


「頑張っているんだな、ちなみにあれが女王だ」


「どうも、ローリエですわ」


「あっそれより、いつでも遊びに来てくださいまして。そうだこの間ケーシーが……」


「それは、いいにゃ、黙るにゃ」


「え~だってですわ」


「かわいい亜人ちゃんですね」


「騒がしい奴らですよ」


 俺は、苦笑い。リトミコは、目を輝かして、空でフワフワと頭を撫でるしぐさをしている。

 

 その後は――――――……本題に行きたいのだが、お互いが質問攻めの嵐だった。

 

 会話に水を差すのは悪いなと思い、俺はスルーする。

 たまには、こんなこともあっていいか。


「この獣耳は本物にゃ。ヒト耳よりも優れていて小さくて遠くの音が聞こえるからにゃ」


「そうなんだ、すごっいなぁ」


「でも、お手入れは大変ですわ」


 ――なんだそりゃ。


「ちなみに、今はどこに繋がってますの」


「ギルド施設です」


 ……。




 ――――――LEVEL SERVICE――――




 それから数時間が経って、アンシアたちの女子トークは終わり、俺はコーヒーを一杯飲み干していた。

 レイリックの死体じゃなかった、失神した体は乾ききっているのではと心配したが、ベッドの上で安らかに眠っている。


 ――――――。


「そういえばキョウヤ殿、要件はなにかにゃ」


 やっときた。


「今、ピアノ街に来ているのだが、ここでも事件があってさ」


「一難去っては、また一難って感じですわね」


「まぁそんなところだ」


「ちなみに、相手にしているのは呪いの音。聞くと無感情になってしまうというものだ」


「なるほどですね。今度は音と戦っているのですかにゃ」


「正体はヒト型のモンスターらしいけど討伐はされていない」


「それで、ここに人が寝ているのだが……」


「キョウヤ、殺人?」


「違うよ、俺のことなんだと思っている」



 いや、半分は合っている?

 正当化するわけではないけど、考えるな俺!

 


「こいつは、レイリック。音と戦って敗れてしまった勇者だ……」


「感情は声に出せなくても、心の中に言葉はあると思う」


「だから、ローリエの読心術を使って心の中の言葉を解読してくれないか」


「読心術! それはまたすごいわね」


 リトミコは、関心してばかりで驚き疲れないのだろうか。

 話す気まんまんであったが、アンシアがなだめた。


「分かりましたわ、キョウヤ、やってみます」


「あ、でもキョウヤさん。レイリックさん眠ったままだよ」


「良い気づきだ。アンシア」


「眠っている間に人は夢を見たりするだろ。そこを読心してもらう」


「なるほどです! キョウヤさんは博識ですね!」


 ローリエ、よろしく頼む!


「任せてだわ!」


 読心術は、今日も最高に聞き取れるみたいだ。


「すみません。ローリエお嬢様! 私の心も読んでみてください」


 演芸会かよ。


「いいですわよ。あなたとは気が合いそうだわ!」




 ――――――LEVEL SERVICE――――――



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