Exp.37『術式学校』
本日の予定は、回復術士の学校に出かけること。
すでに役所でアポは取ってある。
『リーリー・ピアノ術式学校』
術士・魔法使い、多くの回復術士や術医師を輩出している有名校。
学校は、街を見下ろす高い丘の上にあって、城のような建築物である。
そして、丘のてっぺんには、大聖堂と大きなパイプオルガン。
リーリ―・ピアノ術式学校の備品だ。
学校の門をくぐり、緑の葉が芽吹いている道を玄関まで歩く。
術式を使う生徒と何度も行違い、とても楽しそうな校風であることが伝わってくる。
一方で、アンシアは、歩きながら手のひらを上にして小さく唱える。
……やっぱり発動はしない。
「大丈夫だ。きっと元に戻る。それよりか、レベルアップすると俺は思うぞ」
「そうですね。ありがとうございます」
――――――。
玄関に入ると、そこには男? の姿があり、スラッと立っていた。
「待ってました、アンシアさん……」
薄だいだい色の長髪に青い目。
西洋の顔つきの男だった。
「私は、リーリー・ピアノ術式学校、学長のフェローチェです……」
とても静かな低い声であった。
「どうも、急な申し出をすみません。俺は、キョウヤだ」
「回復術士(認定)のアンシアです。よろしくお願いします」
「よろしく……」
ポーカーフェイスを崩さない、非常に静かでクールな印象。
……!
つまりはフェローチェが、フォーリオス帝国の帝王と対等にやりあい、ピアノを主導する人物か。
その後、俺たちは、学長室に招かれた。
到着するまでの廊下は非常に静かであった。
ときおり回復魔法の発動音が聞こえるくらいで、防音室に閉じ込められている感覚である。
スタスタと前を歩くフェローチェは、左右を振り向きせずひたすら歩き、一方で俺達は、後れを取らないように必死についていく。
アンシアは、壁に掛けられた絵を一つ一つ見ているために、いなくなってはちょこちょこと早歩きしている。
――――ガチャリ!
「重要な部屋に入れてもらって、本当に良かったのか。フェローチェさん」
「ああ……構わないよ……」
フェローチェは、囁くように答え、室内へ誘導してくれた。
学長室には、歴代の学長の写真や数々の賞状が飾ってあった。
中でも印象的なのはショーケースの中。
木でできた杖や金属の指輪、丸くて透明な宝石、ブレスレットやネックレス。
高級そうで、見た目から威力のでそうな魔道具ばかり、中には、図鑑で見知ったものも、ちらほらである。
「これは、魔力関係のものですか」
アンシアは興味津々であり、座りもせずに真っ先に質問した。
「そうですよ……」
「それら、1つ1つに魔力が宿っていて、私たち術士に力添えをしてくれるもの……」
「そうなのですね」
アンシアはショーケースの中をまじまじと見つめ、楽しそうであった。
斜めに立てかけてある杖。
貝殻の容器に入れられている、指輪。
上品な布に乗っかているネックレス。
ガラスの箱に入れられた、結晶。
様々である。
「確か、アンシアさんは、魔法が使えなくなったと、主訴にありますね……」
そう言って、フェローチェは、ショーケースから銅の杖を一本取って、アンシアに手渡した。
「銅の杖……。これは、防御の強化魔法によく使われる魔道具……」
ほー。
アンシアは、目を丸くさせ、まじまじと細部まで探索している。
そして杖を上に掲げて見たり、振ってみたりして、初めての魔道具をきらきらな目で扱っていた。
「回復魔法をやってみせてください……」
「でも私、今は……」
「大丈夫、ゆっくりやってみて……」
「はい」
「回復魔法」
すると、アンシアの手元と杖は輝き、魔法は発動した。
――!
「やはり、そうですか……」
フェローチェは、呼吸もせず、口をいっさい曲げずに、事実だけを真剣に見つめていた。
「アンシア自身の秘めている魔力が強くて、アンシアの体がこれ以上耐え切れない……だから、生理的に術式や魔法の発動が止められた……」
フェローチェは、淡々と独り言をつぶやいた。
「アンシアさん、杖なしで魔法をやってみせて……」
「回復魔法」
……発動しない。
「杖を持っていれば、アンシア自身の魔力耐久と杖の魔力耐久が重なって、魔法は発動する……アンシアさんが頑張って魔法を出そうとしても、身体に限界を感じて、無意識のうちに魔力が止められている……」
手元の資料に筆ペンで書き、その後、カチャリとペンを置いた。
「自身の体が、自身の魔力に……ついていけていないことが原因……」
魔法を使えるかどうかは、才能がいる。それと同時に魔力耐久が求められる。
よって、アンシアには、魔道具が必要であるとの結論が出た。
「そうだったんですね。フェローチェ学長」
アンシアはいつの間にか、学長をつけて呼んでいる。
よっぽど、勉強になったのだろう。
「私、学士の受験を希望しているんですけど」
「ああ、それもなんか書いてあったな……」
フェローチェは、再度、手元の資料を読み直した。
「学士ですか……」
「考えたところ、アンシアさんは、修士中級を試験されても問題ないかと思います……」
「?」
「この銅の杖、学士の最高レベル向けに作ってあるのですが、これでギリギリ魔法耐久が足りるくらいでしたので、筆記の学力があれば、修士中級をオススメするのですが……」
「アンシアどうする?」
俺がアンシアを見たときには、すでにアンシアは俺の顔を見ていた。
……。
「私……早く、キョウヤさんの役に立ちたいです! なので、修士中級を受験させてください。私が強くなれば、キョウヤさんの負担だって減りますし、もっと多くの人を救えます!」
「ですよね。キョウヤさん!」
――!
「うん、立派な考えだと思う」
「分かりました……受験は……3週間後……」
「あ、え~と、その銅の杖は、持って帰っていいです……」
「いいのですか?」
「魔道具について勉強してください……」
「ありがとうございます。私、頑張ります」
「何から何まで、すまないな。ありがとう。本当に助かった」
「いいんです……。私は、強い術士を育てることが使命ですから……」
「さっそく、勉強です!」
かなり気合いを入れられたみたいで、これもフェローチェの力なのか?
アンシアは、生命力にあふれていた。
「それと、アンシアさん……」
「昨日、寝不足だったんじゃありませんか……」
「――⁉」
「私は、術医師もしているので、分かるのです……」
「メシア・シンフォニー……」
フェローチェは、そっと目を閉じ、まるでゆりかごのような声で魔法を唱えた。
メシア・シンフォニーは、きれい旋律と共に、アンシアを包んだ。
すると、アンシアから黒色が抜けていきフェローチェに吸い込まれていく。
……。
「はい、終わりです……どうです。少しは楽になりましたか……」
「す、すごいです。ありがとうございます」
「それは、どうも……」
「めしあ・しんふぉにーでしたか?回復魔法の何倍の効果があるのでしょうか!」
「そう……。回復魔法のバージョンアップとだけ覚えておいてください……」
――バン!
「フェローチェ様、急患です」
「ドアは、ノックしてください……」
慌てた男性が、学長室に入ってきたのだ。
「すみません。しかし今回も似ている症状で、意識なしに暴れています」
「そうですか……また……」
フェローチェは、静かに立って、白衣をたなびかせた。
「呪いの音ですか?」
「そう言われる人もいますね……。その急患が最近多くて多くて大変なんです!」
男性は、焦りながら答えてくれた。
「では、私は、これで……」
口角を少し上げたようにも見えたが、気のせい?
フェローチェは、最後までポーカーフェイスを崩さず、静かな人だった。
――――――LEVEL SERVICE――――――




