表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の落第生が異世界でレベル上げ代行サービス  作者: りっきー局長
第4章 フォーリオス帝国(ピアノ街)編
40/57

Exp.37『術式学校』



 本日の予定は、回復術士の学校に出かけること。

 すでに役所でアポは取ってある。


 『リーリー・ピアノ術式学校』


 術士・魔法使い、多くの回復術士や術医師を輩出している有名校。

 学校は、街を見下ろす高い丘の上にあって、城のような建築物である。


 そして、丘のてっぺんには、大聖堂と大きなパイプオルガン。

 リーリ―・ピアノ術式学校の備品だ。


 学校の門をくぐり、緑の葉が芽吹いている道を玄関まで歩く。

 術式を使う生徒と何度も行違(いきちが)い、とても楽しそうな校風であることが伝わってくる。


 一方で、アンシアは、歩きながら手のひらを上にして小さく唱える。

 ……やっぱり発動はしない。


「大丈夫だ。きっと元に戻る。それよりか、レベルアップすると俺は思うぞ」


「そうですね。ありがとうございます」


 ――――――。


 玄関に入ると、そこには男? の姿があり、スラッと立っていた。

 

「待ってました、アンシアさん……」


 薄だいだい色の長髪に青い目。

 西洋の顔つきの男だった。

 

「私は、リーリー・ピアノ術式学校、学長のフェローチェです……」


 とても静かな低い声であった。


「どうも、急な申し出をすみません。俺は、キョウヤだ」


「回復術士(認定)のアンシアです。よろしくお願いします」


「よろしく……」


 ポーカーフェイスを崩さない、非常に静かでクールな印象。


 ……!


 つまりはフェローチェが、フォーリオス帝国の帝王と対等にやりあい、ピアノを主導する人物か。




 その後、俺たちは、学長室に招かれた。


 到着するまでの廊下は非常に静かであった。

 ときおり回復魔法の発動音が聞こえるくらいで、防音室に閉じ込められている感覚である。


 スタスタと前を歩くフェローチェは、左右を振り向きせずひたすら歩き、一方で俺達は、後れを取らないように必死についていく。


 アンシアは、壁に掛けられた絵を一つ一つ見ているために、いなくなってはちょこちょこと早歩きしている。


 ――――ガチャリ!


「重要な部屋に入れてもらって、本当に良かったのか。フェローチェさん」


「ああ……構わないよ……」


 フェローチェは、(ささや)くように答え、室内へ誘導してくれた。

 学長室には、歴代の学長の写真や数々の賞状が飾ってあった。

 

 中でも印象的なのはショーケースの中。

 木でできた杖や金属の指輪、丸くて透明な宝石、ブレスレットやネックレス。


 高級そうで、見た目から威力のでそうな魔道具ばかり、中には、図鑑で見知ったものも、ちらほらである。


「これは、魔力関係のものですか」


 アンシアは興味津々(しんしん)であり、座りもせずに真っ先に質問した。


「そうですよ……」


「それら、1つ1つに魔力が宿っていて、私たち術士に力添えをしてくれるもの……」


「そうなのですね」


 アンシアはショーケースの中をまじまじと見つめ、楽しそうであった。

 

 斜めに立てかけてある杖。

 貝殻の容器に入れられている、指輪。

 上品な布に乗っかているネックレス。

 ガラスの箱に入れられた、結晶。

 様々である。


「確か、アンシアさんは、魔法が使えなくなったと、主訴にありますね……」


 そう言って、フェローチェは、ショーケースから銅の杖を一本取って、アンシアに手渡した。


銅の杖(ブロンドスケール)……。これは、防御の強化魔法によく使われる魔道具……」


 ほー。

 アンシアは、目を丸くさせ、まじまじと細部まで探索している。

 そして杖を上に掲げて見たり、振ってみたりして、初めての魔道具をきらきらな目で扱っていた。


回復魔法(ヒール)をやってみせてください……」


「でも私、今は……」


「大丈夫、ゆっくりやってみて……」


「はい」


回復魔法(ヒール)


 すると、アンシアの手元と杖は輝き、魔法は発動した。


 ――!


「やはり、そうですか……」


 フェローチェは、呼吸もせず、口をいっさい曲げずに、事実だけを真剣に見つめていた。


「アンシア自身の秘めている魔力が強くて、アンシアの体がこれ以上耐え切れない……だから、生理的に術式や魔法の発動が止められた……」


 フェローチェは、淡々と独り言をつぶやいた。


「アンシアさん、杖なしで魔法をやってみせて……」


回復魔法(ヒール)


 ……発動しない。


「杖を持っていれば、アンシア自身の魔力耐久と杖の魔力耐久が重なって、魔法は発動する……アンシアさんが頑張って魔法を出そうとしても、身体に限界を感じて、無意識のうちに魔力が止められている……」


 手元の資料に筆ペンで書き、その後、カチャリとペンを置いた。


「自身の体が、自身の魔力に……ついていけていないことが原因……」



 魔法を使えるかどうかは、才能がいる。それと同時に魔力耐久が求められる。

 よって、アンシアには、魔道具が必要であるとの結論が出た。


「そうだったんですね。フェローチェ学長」


 アンシアはいつの間にか、学長をつけて呼んでいる。

 よっぽど、勉強になったのだろう。


「私、学士の受験を希望しているんですけど」


「ああ、それもなんか書いてあったな……」


 フェローチェは、再度、手元の資料を読み直した。


「学士ですか……」


「考えたところ、アンシアさんは、修士中級を試験されても問題ないかと思います……」


「?」


「この銅の杖(ブロンドスケール)、学士の最高レベル向けに作ってあるのですが、これでギリギリ魔法耐久が足りるくらいでしたので、筆記の学力があれば、修士中級をオススメするのですが……」


「アンシアどうする?」


 俺がアンシアを見たときには、すでにアンシアは俺の顔を見ていた。


 ……。


「私……早く、キョウヤさんの役に立ちたいです! なので、修士中級を受験させてください。私が強くなれば、キョウヤさんの負担だって減りますし、もっと多くの人を救えます!」


「ですよね。キョウヤさん!」


 ――!


「うん、立派な考えだと思う」


「分かりました……受験は……3週間後……」


「あ、え~と、その銅の杖(ブロンドスケール)は、持って帰っていいです……」


「いいのですか?」


「魔道具について勉強してください……」


「ありがとうございます。私、頑張ります」


「何から何まで、すまないな。ありがとう。本当に助かった」


「いいんです……。私は、強い術士を育てることが使命ですから……」


「さっそく、勉強です!」


 かなり気合いを入れられたみたいで、これもフェローチェの力なのか?

 アンシアは、生命力にあふれていた。


「それと、アンシアさん……」


「昨日、寝不足だったんじゃありませんか……」


「――⁉」


「私は、術医師もしているので、分かるのです……」


「メシア・シンフォニー……」


 フェローチェは、そっと目を閉じ、まるでゆりかごのような声で魔法を唱えた。

 メシア・シンフォニーは、きれい旋律と共に、アンシアを包んだ。

 すると、アンシアから黒色(こくしょく)が抜けていきフェローチェに吸い込まれていく。


 ……。


「はい、終わりです……どうです。少しは楽になりましたか……」


「す、すごいです。ありがとうございます」


「それは、どうも……」


「めしあ・しんふぉにーでしたか?回復魔法(ヒール)の何倍の効果があるのでしょうか!」


「そう……。回復魔法(ヒール)のバージョンアップとだけ覚えておいてください……」



 ――バン!



「フェローチェ様、急患です」


「ドアは、ノックしてください……」


 慌てた男性が、学長室に入ってきたのだ。


「すみません。しかし今回も似ている症状で、意識なしに暴れています」


「そうですか……また……」


 フェローチェは、静かに立って、白衣をたなびかせた。


「呪いの音ですか?」


「そう言われる人もいますね……。その急患が最近多くて多くて大変なんです!」


 男性は、焦りながら答えてくれた。


「では、私は、これで……」


 口角を少し上げたようにも見えたが、気のせい?

 フェローチェは、最後までポーカーフェイスを崩さず、静かな人だった。





 ――――――LEVEL SERVICE――――――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ