Exp.35『音楽の都』
アンシアのレベルは、ジャスト30か……。
コトコトと煮込むハンバーグじゃなかった……コトコトと歩いている馬車の中で景色を見ながら呟いた。
無事に森を抜けて、平坦な道をずっと進んでいる。
そろそろ、国の入り口が見えてきても……。
アンシアは、お土産品のパンを頬張っている。
よく食べるなぁ~。成長期ってやつか。
欠伸が出る……。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「キョウヤさん、着きました? ですよ? キョウヤさん」
「キョウヤさん、馬車が止まりましたです」
俺は薄目を開けた。
「あ、ああ、そうか」
目の前には、馬車内の天井とともに、アンシアの微笑み。
よく見ると、整った顔立ちをしていて、優しい目をしている。
誰かを恨んだり、殺意が湧いたり、したことのない目。
……。
「大丈夫ですか?」
「アンシア、すまない、眠っていて⁉」
後頭部が、柔らかい。
「なにしてる。アンシア」
「膝枕ですが、なにか」
「落書きとかは、してないだろうな」
「なんです? それ?」
「ゴトゴト揺れて、頭を痛めるかと思って」
……。
「そ、そっか。ありがとうな」
「はいです!」
俺たちは、馬車から降りた。
――で、アンシアが硬直している。
「どうした……ってあれか」
俺は、アンシア視線を追った。
「柱ですか? 建設中?」
目に飛び込んできたものは、大聖堂から突き出たパイプオルガン。
ちょうど讃美歌が聴こえる。
「パイプオルガンだな」
「あんなに、大きなオルガンが、あるんですね。初めて見ました」
目をキラキラと輝かすアンシア。
サイドアップで結った金茶髪のツインがぴょこぴょこ跳ねている。
「驚いたか」
「はいです」
「ここが俺たちの目的地『音楽の都ピアノ』ってところ」
中立都市で、安全。 襲われる、ということはなさそうだな。
ちなみに、ピアノは、フォーリオス帝国の管轄だが、帝王と同等に肩を並べる人が、ピアノにはいるので、強い街としても有名だ。
「ピアノ……いい響きですね」
アンシアは、ときめきで溢れていて、白い服を靡かせて、駆け出す勢い。
分かる、分かる。
初めての場所に来たら、まずは走り出したいよな。
ここまで感動されると、俺も嬉しい。
『ピアノ』は、音楽の都と呼ばれるだけあって、街中には音楽が流れている。
ジャズ、ブルース、ロック、クラシック、カントリー。
楽器だって、バイオリン、ピアノ、フルート、ギター、サックス、トランペットなどなど。
路上奏者、店がそれぞれの曲を流しているため、ミックスして雑音になる?
そんなことはなく、自分の好みの曲が聴こえた店に入ればいい。
それだけだ。
様々な音楽に混じって、有名な序曲も、ひょっとしたら聴こえるかもしれない。
また、この街ならではなのが、楽器店。
武器屋、防具屋、楽器店といった他には決して無い商店の並びである。
「そういえば、どうしてこの街が、目的地なのです?」
「ちょっと回復魔法をかけてみてくれ」
「はい。……回復魔法」
……やはり、魔法は発動しなかった。
「すみません、キョウヤさん」
「いや、大丈夫だ」
「ここは、音楽の都だけでなく、回復術士を専門にする学校がある」
「私の魔法を見てもらうということですか?」
「それもあるな。……だが」
――――?
「今まで黙っていたけれど、アンシアは、回復術士と名乗っても、認定というクラスの回復術士に位置する」
「だからぜひ、回復術士の大学校で、学士を取ってもらいたいと思っているけど、どうだ」
「認定? 学士?」
「あ~そうだ」
「術士科だけでなく、魔法科・武闘科・剣士科・槍科・弓科など、それぞれにはランクがあって、修了・認定・学士・修士・博士、などとランクがあるんだ」
「それで、アンシアには、学士に挑んで欲しいと思っている」
「なるほどです」
「ちなみに、初級や中級、上級とかもあるけれど、それは科によって違う。術士科だと、修士に級の概念が発生するな」
アンシアは、頷き続け最後に、ポンっと手を叩いた。
「ちなみに学士を取ると、魔法の威力をあげる一部アイテムの使用が許可される。そして、修士試験の受験資格を得れるということだ」
「アイテム、ステッキ? ホウキ? 水晶?」
「認定までなら、ほぼ全ての国で実施される筆記で終わるのだが、学士から実技が入る」
――!
「実技、私できませんです。今は……」
「そうだな。だから学校で魔法が発動しない原因を探りつつ、ここで休息を取りつつって計画だ」
「博士の回復術士から学べるってことですかね」
「そういうこと」
アンシアは、いつも以上に活き活きとしているようだった。
誰かのための戦闘ばかりで、疲れただろうから、ときには、自分のために、自分のペースでゆっくりと……。
今日は、ひとまず早いけれど、休憩にするか。
俺も眠たいし……。
「その前に、ピアノの役所に用事を済ませてくる」
セレーネの街のことを伝えたり、トリアトン帝国の女王について、知らせないとな。
俺は、ルポールから頂いた、新聞記事を取り出して、アンシアに見せた。
「はいです」
「ところで、キョウヤさんは、何かお持ちですか?」
「レベルが足りなくて何も取れなかったよ」
俺はにっこりと答えた。
――――――LEVEL SERVICE――――――




