Exp.34『繁栄への道』
第3章、そしてトリアトン帝国 全編は、これにて終了です。
国の入り口には、焚き木の入った器があって、白くひょろひょろな煙が上がり、炎がチラチラ光っていた。
門の先にいる集団は、喜々たる表情や誇った様子、ガッツポーズをする者。
この景色が、当たり前の日常になるのだろう……。
そう思うと、俺はそろそろ、さよならかな。
俺は、はにかみ、焦げついた片手を挙げて帰還を伝えた。
アンシアも、隣で手を小さく振っている。
拍手と賞賛、明るく良い匂いがする街の通りを歩き、たどり着いた場所。
月に照らされ、空気は清い。
ローリエは、どんな顔をしているのだろうか、俺は、緊張していた。
「おかえり、キョウヤ」
ロミオとジュリエットを思いだせる光景。
3階のベランダには、長い灰色の髪を風でなびかせた、獣耳の女王。
いつもより大人びいていて、より背が高く見えた。
――ローリエ……。
俺は、もう一度、片腕を挙げ、勝利という概念を強いグーで握った。
すると、ふっと、背中を向け、部屋に戻ったローリエ?
そして――ポンポンと俺の肩を叩く……。
っ?
「おかえりなさいませ、キョウヤ殿」
ケーシーが満面の笑みで迎えてくれた。
手には、ジョウロが握られていて、花壇の手入れをしていたのか。
「ただいま」
「キョウヤァ!」
――裸足で駆け出したローリエ。
――――バフッ!
俺の胸に額を当て、そのまま動かなくなった。
――?
膝から崩れ落ちるローリエ。
俺は体を支え、ゆっくり地面に片膝をつけた。
――まったく。これが女王のお姿かよ?
ローリエは、俺から離れることなく泣いた。
白いドレスが台無しだ……まったくな。
俺は、ほほ笑みながら、ローリエの背中に手を回して、心地良いテンポで叩いた。
アンシアも来る予定?
手をソワソワさせ、戸惑っている。
「アンシアちゃんも無事だったのにゃ」
ケーシーがアンシアに抱き着いた。
「はにゃ?」
それには、アンシアもビックリ、短い声を出した。
俺は、その様子を見ながら、ローリエの頭と獣耳を撫でて、泣き止むのを待った。
――今まで大変だったな。
お疲れ様……。
「キョウヤ、キョウヤ」
……なんだ?
「良く戻ってくれましたわ」
……当たり前だ。
「私、私……」
……無事に女王になったのか?
心の中で呟いた。
「はい」
……そうか。
――きっと、これからが大変だと思う。
ローリエにとって、これからが本番である。
厳しいようであるが、伝えなければならない。
だけど、今はこのままでいい。
ローリエは、すでに一人でスタートを切れるのだから。
俺は、ローリエを起こし、俺の体から離した。
喉の回復をしなければならないのだが……。
「分かりましたわ。アンシア、キョウヤに回復魔法をかけてもらえるかしら」
「うんっ」
アンシアは、頷き、俺の喉元に目掛けて……。
「回復魔法!」
?
アンシアは、魔法の力を使い果たしているようで難しかった。
――!
「で、でないよ」
アンシアが慌てて、魔法を連呼する……ところを、OKサインを出して止めた。
「そうだ、秘伝の薬があるにゃ、治せるかもにゃ……」
ケーシーは、楽しそうに服のポケットをガサゴソさせながら、缶コーヒーサイズのガラスボトルを取り出した。
……すまない、ありが……。
まぁまぁデカいな。
「サイズが、思ってたより大きかったって顔してるにゃ」
俺は、受け取り、キュッとコルクを引っこ抜いた。
……ありがとうな。
「いいってことにゃ」
青色の液体を、飲む……。
――――!
自然と首元が楽になり、痰が絡まったような力んだ声から低い声に変化し、やがて通常の声が出せるまでになった。
ここまでで、数秒。
――――!
「す、すごいな」
俺は、無印のボトルを回し眺めた。
「薬の調合には自信があるにゃ!」
「そうか」
「す、すごいです」
アンシアは、強く感動している様子。
俺にボトルを見せてくれと頼み、余った雫を舐めた。
「素材やレシピを知りたいです」
「おお、いいにゃ、よく聞くにゃ」
「は、はい、ええと、ええっと……」
「このメモ帳をあげようかのぉ」
「ありが……」
「あなたは!」
掲示板記者のルポールだった。
「今まで、どこに」
「私ですか、ずっと遠くで取材をさせていただいて、そうだそうだ、これ号外だよ」
そういって見せてくれたのは、『トリアトン帝国の希望』と書かれた茶色の紙。
俺たちの戦いが、歴史の年表のようにまとめられていた。
「詳しくは、メモに取ってあるぞぉ」
「ルポールもお疲れ様だ」
「いやいや、これを、いつか本にするまでは、ははは」
ルポールは、眼鏡をクイッとあげて遠くを見つめた。
「ルポールさん、あなたにもたくさん助けてもらったわ、ありがとう」
「ほう。私だってのぉ~。この歳でな、活き活きと記事を書けるなんて思わなかった」
「こっちこそ、ありがとう。……だから、死ぬまで続けるつもりだよ」
しわが刻み込まれたルポールの顔、小さな瞳は、現実、そして広い未来を見通していた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
ケーシーの特技を知り、ルポールのたくましい戦場取材に幕が下りたころ。
――――――――パッ!
辺り一面、一斉に明るくなった。
街灯に、しっかりとしたライトが入り、建物の窓は、開かれた。
道の両サイドには、店が並ぶ。
祝宴会の準備は完璧。
「さて、楽しみましょ。そして明日は、新王女のお披露目会ですよ」
ローリエは俺の手を引っ張り先行した。
「ちょっと、待て待て」
俺は、ローリエの積極さに押されるのであった。
徹夜であることも忘れ、騒いで踊り、にぎやかな声は止まらなかった。
――――――――――――――――――。
時間の歯車に異常はない。
太陽は、当たり前のように昇り、新王女として迎えることができたローリエ。
ファンファーレが鳴り響き、華麗な花びらが舞う街をローリエは、歩き回って城に戻った。
城の休憩室で、ごろりと椅子に座り、
「疲れましたわ」
息を大きく吐ききったローリエ。
「おつかれにゃ」
誘導したのはケーシー。
ケーシーは、いつも商人として動き回っているので、足腰は鍛えられ、大したことはなかったみたいで、ピンピンしていた。
俺はその様子を、短剣の手入れをしながら、見ていた。
……。
俺は、カチッと短剣を鞘に直し、ローリエの前まで歩いた。
それから……。
「待って、私から言わせて」
「お、おう」
横には、アンシアが、そっと立っている。
……。
「どうした、ローリエ」
「一緒に、この国を見守らない! キョウヤ」
「……それは」
「ああああああ、やっぱり何もないわ」
「言わなきゃ良かった、あはは、なんちゃってぇ……」
ローリエは、自分の感情を押し殺して、おどけて見せたのか。
自分で自分の頭を叩いた。
「実は」
「ええっと……」
「お別れの時……ですか」
ローリエは、ゆっくりと口を開いた。
俺は、笑って頷いた。
「そうですわね……。分かりましたわ、キョウヤ」
泣かないのか?
「あ! 心読めましたわ、キョウヤ」
「私は、女王ですから、もうしっかりした女王ですから……」
「そっか、そうだな、ローリエ」
「はい、ですわ」
俺は、真っすぐローリエに向き合った。
「お別れだ」
「寂しくなるにゃ……」
アンシアも、泣きたくなるのを堪えているようだったが、
「また、戻ってきます」
アンシアは、面と向かって大きな声で言ってくれた。
俺は、その姿が嬉しかった。だから、
「その通りだ」
アンシアの言葉に乗っかった。
「約束だ!」
「はい!」
「ちなみに、次の行き先とかは、どちらにゃ?」
「そうだな」
そういって、アンシアを前に突き出した。
俺は、1つ疑問ができていたのだ。
「魔力の無限解禁だ」
「無限解禁ですか? キョウヤさん?」
「あ、ああ」
やっぱり、今朝もアンシアは、魔法をかけることができなかったのだ。
術式や呪文に、欠陥や間違いはない。
しかしMPが戻らないし、もしやすると、他に原因が……。
「いいわね。アンシア……キョウヤに信頼されてるのね」
「えっ! そうなのですか?」
「そうだにゃ、私にも分かるわ」
「そうなんです……か」
アンシアは、ホッとした表情、でも顔を赤らめていた。
「でも、でもですわね」
――?
「最終的にキョウヤは、私のですわ。今は貸すだけよ! 分かっていまして」
貸すって……。俺は苦笑い。
すると、ローリエは、不意に俺の両手を取り、自身の白い手で包み込んだ。
「いつでも、戻ってきてくださいな」
「そうだな!」
……。
「じゃっ、ローリエ、ケーシー、元気でな」
「さよならです」
俺たちは、城の外に飛び出て、新しい場所まで旅をする。
――――――――――――――――――。
トリアトン帝国を後にするのだった。
――――――LEVEL SERVICE――――――
その後、やっぱり私、ローリエは泣き崩れました。
今まで、一緒だった人が旅に出るなんて。
分かっていたことなんですけど。
でも、私は、絶対にキョウヤと出会います。
それまでは。
「鏡で我慢することにしますわ、ケーシー」
「ほどほどにするにゃ~」
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第3章、トリアトン帝国全編は、終了です。
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