Exp.32『第二戦線』
ラテーラ火山の謎。
本来の目的であったと、マグマが流動する鈍い音を聞きながら、強熱の中で思い出した。
地面に着くや否や、靴が燃えて、空気結界の中で自然鎮火……。
ドロドロのマグマが流れている横に、俺は平然と立っているのだから自分でも驚きだ。
――――――……。
着火しては、空気結界の中で鎮火。
しかし、そう何度も繰り返せるわけでもなくて、結論、物理的にも精神的にも時間がない。
俺は、拳を握りしめた。
「ところで、アンシア……?」
「大丈夫ですよ。キョウヤさんとなら、どこへでも」
マグマの光を浴びて、赤く顔が照らされていて、にこにこしている。
熱気にうなされて、のぼせているのか?
それとも、俺に拒否されず、鏡に入れてラッキーとでも思っているのだろうか?
無事でなによりだ――まったく。
「でも、服が燃えるよ」
「火だるまにだけは、なるなよ」
アンシアのヒーラー服は、地面につくほど長く、先が焦げ付いていたのだった。
淡々と呑気に燃えていることを知らせるアンシアをみて、時間がない! なんて言っている自分が馬鹿らしく思えて……きたりはしない!
「無いものはない」
「え?」
俺は、真顔になった。
――――――ズン。
――――――ズン。
「なんでしょうか?」
「なんだろうな」
アンシアは、音のする方を指さし、俺に警告。
俺は、短剣を構え、ゆっくりと後ろに下がった。
できるだけ交戦は避けたい……。
転移空間の場所を念のため探っておきたいのだ。
動く岩石……?
俺の重いとは裏腹に、
火山の奥深くから、生物の足音がどんどん迫ってきている。
俺は、正体を凝視し……隠れる場所は、なさそうだと、腹をくくった。
「どうする俺」
――――――ズン。
俺は、大きくごくりと唾を塗んだ。
本日2度目の戦闘。
できるだけ強敵は、避けたいものだ。
――――――ズン。
――――――ズン。
グポー……。グポー……。
おどろおどろしい呼吸音。
まるで、ガスマスクを着けて息をしている音。
――!
「あれはぁ」
「巨人……」
俺は、静かに口にした。
グポー……。グポー……。
グポー……。グポー……。
マグマをポタリポタリと垂らした、黒い岩石。
歪な形の岩で完成された顔と口。どんよりと燃える真っ赤な目。
岩石が連なってできた身体に、ゴツゴツの手腕と頑丈な短い足。
ゴリラのような体格である。
全身は、人間の血管のごとくマグマが循環し、
ポタリ……――よだれのように、ねっとりと落ちる。
見るからに、圧苦しい・暑苦しい・熱苦しいの三拍子。
「どうやら、こいつが原因かもな!」
「なるほどです。キョウヤさん」
久々の、初見狩りってことか。
そう思うと、少々体がうずいてきた俺。
徐々に調子を取り戻していく。
「アンシア」
「はい!」
「こいつをぶっ倒して、経験値を受け取ろうか」
「キタコレ!」
妙な返事のアンシアはさておき!
ギロリ、巨人は俺らを睨み、
グポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
まるで、領地に侵入するな、と威嚇しているようだ。
激しい奇声。
俺は、負けじと、巨人の剛声を合図に駆け出した。
短剣がどこまで通るのだろうか、分からないが!
――――――ビュッ!
胸を反らして、大きくジャンピング。
「一発!」
大きく振りかぶる。
ギュインッ――――――ギリリリ。
刃が、ゴツゴツした腕に絡まり、刃が先にいかない。
力技で押し切れない。
「熱っ」
俺は、即座に諦め、スッと離脱。
地面について汗を拭った。
巨人も、俺たちに、グワッと腕を振り被って一撃。
グーを簡単にかわす俺だが、巨人は同時にマグマを飛び散らかすため、空気結界がないと危険すぎる。
「キョウヤさん!」
俺の額へと飛び散るマグマを短剣で薙いで、距離を取る。
地面に食い込む巨人の打撃は、ズンと体に振動。
この状況が続くことは、厳しい。
――――――プシュ~。
確信に変わったのはこの瞬間。
空気結界の外側面は、白い煙をプシューと出したり、消火が上手くいっていない一部は燃え始めていたのだ。
いずれ崩壊するだろうな。
アンシアは、と言うと俺の指示を待っていない!
俺を見渡せるようにと、高い位置にいる。
さすがだ。
俺は、一呼吸置いた。
グポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。
あとは、ローリエの王位継承を待つだけ!
グポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。
俺は、横跳び。
――――――!
腕のリーチは長い巨人。
もう一度タイミングを見計らう。
「体力魔法!」
よし、俺は、もう一度走りこんだ。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「私に足りないもの。それは」
――――――私は、よく分からなかった。
気づけば周りの人達に、ちやほやされ、不自由なく過ごす。
みんなが私に会いに来る。
キラキラな宝石だけを見て育ち、不都合なことは知らされなかった。
私の仲間が、連れ去られたり、殺されたり、知らなかった。
部屋の一室で1人。誰のことも待っていない私。
「私は、何者なのでしょうか。どうして私が王女という立場なのでしょうか」
ローリエは、鏡の前でもう一度考えていた。
ケーシーはというと、他の亜人と連絡を取り合い忙しい。
「今後の私の役目は一体なにかしら」
「鏡よ、鏡……」
――――――――――――。
ねちょりとしたマグマを踏んづけて、熱い!
巨人の重い打撃を回避。
「足元が弱い巨人」
巨人の前、25mあたりで静止した俺。
「だから、払う!」
俺は思いっ切り短剣を空振りさせて空気の流れを作り出し、
「風、レベル24」
巨人は、足を取られ、前方にうつ伏せで倒れた。
これで、時間稼ぎになるといいが。
徐々にマグマは、上昇してくる。
このマグマは一体どこに噴出してしまうのだろか。
ローリエが、鏡に対して、王位継承を示すことができれば空間転移は可能であるが……。
ディレンの上書きは、まだ続いている!
――――――LEVEL SERVICE――――――




