Exp.31『王位』
黒煙だったものは、どす黒い雲に形を変えてしまい空を覆ってしまった
各人が散らばり始めたのを、俺はじっと眺めていた。
薄暗い中をランプ片手に多くの者が歩く、そんな光景である。
――――――――――――――――――――――。
「女王補佐の俺が、ここからは作戦を説明する」
「兵士は、このスタジアムの防衛」
「先ほどからの地震の影響で予想されるゴブリンの再度発生を防いでくれ」
「そして亜人たちは、結界を探索してくれ」
「それから、商人や街人は、祝宴会の準備だ!」
俺は、声を大にしての勝利宣言。
民衆を勢いのまま、もう一度再熱させたのだ。
――――――――――――――――――――――。
まぁ~そうは、言ったが、民衆も限界なはず。
カラ元気、そんな気だってする。
「どうかしたのですか、キョウヤさん?」
アンシアが心配の眼差しを送る。
――――――――!
俺が不安になってどうする。
顔をパンパンと両手で叩き気合を入れ直した。
……人助け、まったく、昔の俺らしくもない。
あの頃が懐かしい。
「心配はいらないよ」
そろそろ終止符を打たなければ、腰に力を入れて背伸びをした。
城にある鏡が、全ての鍵を握っている。
鏡をどうにかする……が正解だろうな。
「俺は、城に向かう! みんなはどうする?」
「よし、行きましょうにゃ」
「任せてください。キョウヤさん」
アンシアとケーシーは、握りこぶしを作り気合たっぷりなのだが、ローリエは意外そうな顔をしていたのだった。
俺の心を覗き見るしぐさ、とでも言えようか。
「ローリエ?」
「なんでもないわ、行きましょう!」
――――――LEVEL SERVICE――――――
重い扉を押し開き、俺は空間の1点に目をやった。
そして、初めて出会ったかのような妙な緊張をしながら、前に進んだ。
無心で何もしゃべらない鏡。
しかし、鏡の表面は、グツグツと煮え滾り、すぐにでも中身が噴き出しそうな勢いである。
実は、鏡は生き物であって、波長の合わないコミュニケーションを、俺と取っているのだ。
そんな風にしか思えない錯覚。
引き込まれる……。
俺は、答えるかのように、鏡の表面を片手で……!
中に入れる?!
――熱っ!
俺は手を引っ込めた。
手は真っ赤に燃えて、ジワジワと広がる痛み。
「キョウヤさん大丈夫ですか」
「あ、ああ」
俺は、冷や汗を流し、ぶっきらぼうに言葉を返した。
……時間がないかもしれない。
そろそろ、マグマがどこかに噴出してしまう。
「どうかしたのかにゃ」
今なら火山の中に降りられる。
鏡の中に真実が……。
「ところで、キョウヤさん、アンシアは?」
……。
「アンシアは何をすれば……?」
飼い主を静かに待つ子猫のように、利口なアンシア。
それと対極する形でローリエは、焦りを交えながら喉の奥から言葉を吐き出した。
「キョウヤは……今からどうするの」
「……」
ローリエの真剣な眼差しと、どこか俺を信頼しきっていない表情。
心に迫ってくる気がした。
「ねぇ、キョウヤ! あなたも祝宴会に参加できるのよね」
――――――!
「すまない、ローリエ。考え事をしていた……」
――――――。
俺は、無意識にディレンとの戦闘を思い返していたのだ。
火山内でも同じことが起きえるのだろうか?
祝宴会とディレンは、全く正反対の言葉である。
そうなってくると――。
「今から、私は何をすればいいかしら」
「そうだな、ローリエも結界を探してくれ……」
――!
「やっぱりだわ」
ローリエにとっては、安直な答えだったのだろうか。
悔しそうな表情がそこにはあった。
「ど、どうした」
「私も、キョウヤと一緒のところに連れて行ってほしい!」
「……それは、困る」
「どうしてなのかしら」
――俺は、言い訳を考えたが上手くまとまらず、一言。
「危ないからだ」
「危ない? だったらキョウヤも同じじゃない」
――――――。
「だが、俺は自分を守るすべを持っている」
「私が……弱いから連れていけないってこと」
「そうではないが……」
――!
「私は、キョウヤの役に立ちたい!」
――!
ローリエは、身体がよろけるほど叫び、城の中で声は反響した――!
涙を浮かべて、口を強く締めて抗議したローリエ。
「民衆への演説や、兵士や亜人への動きの指示も! キョウヤなしでは上手くいかなかったわ」
「私は、まだ一人で頑張れていないわ」
――!
「……前に保障の話をしたわよね。やっぱり私には、キョウヤが上手くいっているように見えてしょうがないの」
「キョウヤに頼り続けている。そんな私はもう……嫌」
ローリエは、俺の手をぐっと握り、じっと俺の瞳の中に映り続けた。
――――――。
……それでも俺は、ローリエを連れて行くわけにはいかない。
真面目に向き合わざる負えないな。
――まったく。
「色々と考えていたんだな。ローリエ。俺は、嬉しい」
「笑顔で誤魔化すつもりなのかしら」
ローリエは、プイッっとそっぽを向いた。
「そうじゃないんだ。ローリエが俺と共にここまで行動してくれたことを心強く思っている。だから嬉しいんだ」
「ラテーラ火山から煙が立ち込めて民衆が混乱した時、一番最初に飛び出したのはローリエ。君だったろ」
「あのとき、ローリエを探してどうにかしてもらおうと俺は考えていた。民衆を動かすことは、俺にはできないから……。だけどローリエは、一人で行動を起こせた」
「でも、キョウヤ!」
「――ローリエ、この国を守りたいか」
――!
「当たり前じゃない……。 いまさらよ」
「俺と一緒の気持ちだな」
「どういうこと?」
「だからさ、俺の役に立つことではなくて、国のために役立つことを考えて欲しい」
「俺のことは、陰の立役者と思ってくれていいし、前にも言ったけど。俺は、君のことをサポートできて誇らしいんだ」
――!
……私は甘えていたのかもしれない。
この戦いが終わると、キョウヤはこの国を去ってしまう。
そればかりが先行して、キョウヤのためになることばかり考えていたわ。
キョウヤの役に立つことは、必ずしも国の役に立つことではない。
王女になる者として分けなければならない個人的感情と王女の自覚。
それが――。
「……少しだけ、分かったわ」
「だったら、約束をして欲しい! 絶対に帰ってきて!」
――!
「きっとだ……きっと戻ってくる」
俺は、深く頷いた。
そして、鏡の中に足を延ばし、
「空気結界レベル72!」
――――――トゥ~ン……。
「私も行きます。キョウヤさん!」
――!
アンシアも、鏡の中に入っていった。
「ローリエ様!」
ケーシーはローリエの手を掴んだ。
「……ですわね」
アンシアは、本当に要領よくキョウヤの隣にいるのね……。
ローリエは、心の中で思ったのだった。
「さて、私も動きましょうか。ケーシー」
「はいにゃ!」
――――――LEVEL SERVICE――――――




