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Exp.29『民衆』





 ……終わったのか。


 肩を上げて、何度も何度も呼吸をした。

 体がシーソーのように、グワン――グワンと揺れてフラフラ感。

 ……気を失いそう。マジで。


 血が足りない。


 それにしても、いつから響いているのだろうか?

 俺はどれだけの時間立ちっぱなしなのか?


 耳の中は、喝采(かっさい)の嵐。

 手を取り合う者、抱き合う者、涙する者、叫ぶ者。


 国を救えることが、できた……。


 そう思えると、ゆっくりと重力に身を任せ、泥のように眠りたくなった。


 ――――――!


 ――バタッ!


 ちょっと休憩……させてくれ。

 俺の顔に前髪が掛かり……ついに全身から力が抜けてその場にフラッと倒れこんだ。


 ――――――――――――――。


「キョウヤさん……キョウヤさん」


 ――――水の中は、静かだ。このまま深海まで落ちてゆく。


「キョウヤさん。キョウヤさん」


 胸に重量を感じた。

 物理的にもそうだし、物体にない気持ちというやつだ。


「私を置いていかないで。この先もずっと!」


「私は、キョウヤさんがいないとぉ~……ぐすっ……」


 汗でびっしょりの俺の体に、涙が落ちた。


 痙攣(けいれん)した手を、天空に伸ばし……。


 ―――――――――パチッ。


 やがて、俺の手は、強く握られた。


 小さくて、ひんやりしていて気持ちがいい。

 握り返したくなるその手。


「アン……シア……」


 俺の声は、吐息を漏らす程度だった。


 しかし、あの子にはハッキリ聞こえていた。

 私は、ここにいるよ、と証明してくれる。


 あの時のように……。


「キョウヤさん……」

 

「あ~、アンシアか」


 ……俺は静かに目を開け、現実世界に魂と体があることを理解した。


「そう、そうでしゅ……うう……ううう。うわぁあああああああああああああああああああああああああん」


 アンシアは泣き出した。


 「大げさだな……」


 ついほほ笑んでしまった。


「キョウヤ殿」


「ケーシーも、来てくれたのか」


 ケーシーも涙目であった。

 心配してくれたんだな。


 ――! ――! ――!


「——キョウヤ!」


 ドン! ドンドン。


「キョウヤ! キョウヤ!」


 ――!


「いつまで、私はここに居ればいいのかしら」


 門を叩く、籠ったような音。


 あっ!


「私のことをお忘れになって?」


 俺は、2人を支えながら、腰をあげ、ローリエに近づいた。


「まったくだわ……」


「ごめん、レベル回収」


 レベルは分解。

 光の結晶となり、俺の手に経験値が戻った。


「キョウヤァ!」


 ――――――――!


 ローリエは俺の首元に抱き着いてくる。


 俺は、体のバランスを崩しそうになるが、ギュッと抱き留めた。


「やっぱりあなたは、戻ってきました。やり遂げてくれましたね」


 ローリエは、静かに呼吸をし、目から大粒の涙をこぼした。

 涙は、俺の頬をつたって、胸元にスッと流れる。


「良かった。本当に良かった……」


 俺は、太陽に目を向けたが、しばらくして閉じた。

 ゆっくりと、胸の中で脱力しきったローリエの髪を撫でながら。



「――もう、いいか」



「ダメですわ。私がどれだけあなたの苦しい所を見たか」


 そういって、ローリエはもっと強く抱きしめた。


 …………。


 な、長い。


「あの、ローリエさん? みんな見てるから……」


 ……!


 ――ローリエは顔を赤らめ、パッと俺の肩を押した。


「悪かったわ」


 そして(うつむ)いた。


「……ただいま、ローリエ」


 改まって帰還を伝えるた。


 するとローリエは、ごにょごにょと何か呟いた。


「どうした」


 ……と、聞かざるおえない。


「聞かなくていいのですわ」


 獣耳を逆立てて、顔を隠すローリエ。


 そっか? と俺は首を傾げた。


「キョウヤ!」


「ん?」


「私……あの」


「良いところすみません。ちょっと失礼しまぁす。回復魔法のサブスク、です!」


 サイドアップテールで()われた金茶髪(きんちゃぱつ)をパサリと手で揺らし、二人の間をアンシアは()いた。


 ―――――――――……。


 真っ赤に染まったローリエの手は、(ほの)かな光の中で、白く美しく戻った。


 ――。


 アンシアは、たくらみ笑い?


 なんだこいつらは?


 なんとも言えない気まずさが、俺を挟んで抱かれていた……。


「いちおう……あ、りがとう」


 ――――!


「はい! どういたしまして」


 ローリエとアンシアは、強く手を握り合ったのだった。



 ぐぉをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!



 俺たちを(たた)えるように手を挙げ、声を出し、勝どきを贈る民衆。


 一人一人の表情が、生きている人間!



 一件落着か……!




 ――――――――――――――――!




 ――――――バギュン! ズドン。


 雷鳴!?


 晴天……であるはず。




 グワンッ!


 ――――――ドンッ!


 ――――――――ゴゴゴゴゴゴゴ!



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




 地鳴り! 今度は、なんだ。


「はて、何でしょうかにゃ?」


 何かの演出か?

 民衆は、騒ぎ、期待している⁉




 ――――――――――――――グバン!




 期待は、大きく外れた。


 首からガクッと地面に押し付けれ、体がバウンド!


 全員の体が宙に浮いて、叩きつけられた!

 ただ事ではない!



 その後、左右上下の揺れに襲われ、大きな音を立てて柱がバタバタと崩れ落ち……!



「レベル12! 空気結界!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!



「に、逃げろ」


 土煙の中に俺たちは消えた。





――――――LEVEL SERVICE――――――





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