Exp.24『DRESS』
第2章は、これにて終了です。
ゆっくりと目を覚ました。
そうは言っても、太陽はまだちょっとしか顔を出していない、城内の部屋は肌寒い。
亜人たちは、全員、城に招かれていて、ついでに俺も城の中で一晩過ごすことになったのだ。
……なんだろうなぁ~。
もちろん?
当然?
絶対におかしいだろ……。
アンシアとローリエが俺と同じベッドにいた。
同室はギリ問題ないとして、ベッドは分けるでしょう……。
アンシアは高校生だけど幼い感じ。
ローリアは女王候補。
「何やってんだよ」
二人ともスースーと寝息を立てて眠っている。
俺は、ギシリッとベッドから降りて、城の裏扉から外に出た。
城の正門は、今日の式典の準備がされ、立ち入り禁止である。
――――――。
茶色の花壇。
元気のない土が、トンッっと盛ってあった。
「レベル2、花壇に与える」
これでよし。
「何してるにゃ?」
――!
「ケーシーか。ちょっと花壇のお手入れ的な」
「そっかにゃ……花をいつか咲かせたいにゃ」
「そうだな……」
「おはよう」
「キョウヤ殿、おはようございますにゃ」
ケーシーは、丁寧に頭を下げた。
「兄さんのところに行くのか?」
「そうにゃ」
「俺も、一緒しても良かったか?」
「もちろんにゃ」
俺たちは、徒歩で、旧亜人居住区に向かった。
亜人たち全員が、城にいるので物寂しい場所へと風変わりしているここ。
「けっこう、広かったのにゃ」
「確かにな……」
「あの、キョウヤ殿」
「なんだ?」
「ここまで、ありがとうにゃ」
「別に俺は何もしてない、ケーシー達の力だと思うよ」
「いやいや、そんなことないにゃ」
「キョウヤ殿が力を貸してくれたからにゃ」
「そうか? でもさ、あのとき、ケーシーに会わなかったら俺はどうなっていただろうか?」
「……」
――⁉
「でもにゃ……。それでも! 何らかの形でキョウヤ殿は、助けてくれたんじゃないかにゃ」
兄の棺の前で、涙を目に一杯にして、笑って答えた。
――――――――――――。
ああ、きっと俺もそうしていたよ。
地下室の入り口から、太陽の光が差し込んだ。
今日は誇り高き日。
昔にずっと浸っているわけにもいかない。
「ローリエ様を頼むにゃ!」
「任せとけ!」
熱く強い握手をするのだった。
――――――LEVEL SERVICE――――――
ピアノの旋律が流れる城内。
一旦、自室に戻るか……とぉおおおおおおおおお。
パジャマから私服に着替えている最中の――!
アンシアとローリエ!
「すまん!」
俺は、勢いよくドアを閉めた。
そうだった、居たんだった。
「元気か?」
――!
「ギブロス!」
「どうした、キョウヤ。慌ててるぞ?」
「特に何もないぞ……とにかく今日は警備をよろしく頼む」
「任せとけ、優秀な兵で固める」
ギブロスはそう言って、兵士集会というものに行った。
はぁ~。
朝から落ち着かないぜ。
――――――LEVEL SERVICE――――――
無事に『ローリエ様演説会』の開会式が開かれた。
第一部は、街中で行われ、ローリエが馬車に乗って街を歩く。
第二部は、スタジアムで演説である。
正門からスタートしてスタジアムへと向かうルート。
俺は、同乗しないが、代わりにアンシアが乗ることになり、俺はスタジアムでアンシアとバトンタッチである。
それまでは、自由時間。
街中にパンッパンッっと空砲が鳴り響き、晴天での開催を祝った。
うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
祭りで街は大騒ぎ、それから2時間後……馬車が正門を抜ける。
旧亜人居住地区では、祈りも捧げられる予定だ。
俺は、街の様子を城から眺めていた。
どうやら緊張しているようで、早くこの空気感に慣れなければならない。
「ここまで、来たのか……どうだ、セレーネ」
俺は十字架を胸から出した。
笑ってくれているだろうか?
すごいって褒めてくれるだろうか?
今の俺は、ちょっと子どもっぽいか?
「ローリエ様の準備ができましたにゃ」
――――――LEVEL SERVICE――――――
俺の瞳孔は、大きく開いた。
それと、同時に、お~。
言葉がでないが、とにかく素晴らしかった。
純白のドレスに身を包んだ、女王ローリエの姿。
灰色の髪はクルリとまとめられて、三つ編みもされている。
髪質は、よりいっそう透き通り美しく、獣耳までも、手入れが行き届いていた。
さらに、灰色の瞳は、キラリと輝き……吸い込まれそうだった。
一生見ていたい、とも思った。
「ふぁ~すっごく、かわいいです」
口元を緩ませ、うっとりしているアンシア。
アンシアも女の子、憧れるのも理解できる。
「そうね、アンシアちゃんにも、今日は特別な服があるわよ」
「アンシアちゃん、行くにゃ」
「行ってきますね、キョウヤさん」
手を振って、送り出した。
――――――LEVEL SERVICE――――――
俺とローリエ、部屋に2人だけとなった。
なんだ、この空気感。
午前中は、ケーシー。
今は、ローリエ。
「どうかしら」
「似合っている……かしら?」
「似合っている? 今日も安心だな」
これでいいのだろうか、分からん。
……。
「そう……ちょっと嬉しいわ」
反応が薄い?
――――――。
なん……だろうな、この沈黙。
心の居心地が、こそばゆい。
――――――。
すると、ローリエは、自分の手を摩りながらこう言った。
「私……これで良かったのかしら」
重荷を感じているのだろうか。
……確かにそうだよな。
いきなり環境が変化してしまうから。
鬱っぽくなるのは、当たり前だ。
鬱になることこそが、正常なのかもしれないな。
「どうかしたのか、ローリエ」
「……やっぱり時々、怖くなるの」
「今は、上手くいっている。だけど、この先のこととか」
……そゆこと。
「先のことが怖くなるか……。ローリエ、お前なかなか面白いな」
「え?」
俺は、窓際にローリエを連れ出した。
窓からは、街人が仕事をしている様子が見える。
荷物を運んだり、声を出したり、飾りつけやポスター貼り、ビラ配り。
「まだ今日が終っていないのに、先のことを考えているからさ」
「普通は、今からのことで緊張したりするもんだろ」
「……」
「先のことまで考えて、今日を過ごす。良い感をしている。天才だ」
「ローリエは、女王が適職だな。本当にピッタリだ」
――!
「そんなことは、無くて。アンシア、ケーシー、他のみんな。そしてキョウヤ、あなたがいなければ私は、動けない」
「私が、今後上手くいくなんて、保障はない……もしも上手くいかなかったら、私」
「俺がいたとしても、今後の保障はできない」
「でも、キョウヤは、いつも上手くやっていて」
「俺が全て上手くいっているか……。良い面しか、俺は見せないからな基本」
「え?」
「だってさ、ここで俺が弱気なことを言って、誰が得する? 誰も得しない。だからマイナス面は誰にも見せない、見せてないつもりだ」
「俺だって、だいたいの計画や損得を考えて、ここまで来ているわけだけど、全てが作戦通りってことは、無かった」
「襲われたり、変な賭けを持ち込まれたり、吹き飛ばされたり。トリアトン帝国の愚王を潰して終わりかと思ったら、政権を立てる重要な仕事をするなんてな」
……。
「とっても、光栄だった」
――!
「面倒じゃなかったのですか?」
「ああ、そうだな……。誰かを救ったり、助けたり、面倒なことあるかよ。一緒に失敗したことも思い出、一緒に成功したこと、嬉しかったことは、今でも鮮明に覚えている」
「お前は、あの時、俺の推薦に驚いていたな」
「……はい」
「そのとき、やはり荷が重すぎて、悪いことをしたなと後から思った。言わなければ良かったと後悔した」
「だけど、同時にローリエしかありえないと思った。だから強く信じた」
「でさ、そんなとき、君は決断をしてくれた。女王をやるって」
「俺は、嬉しかった。それを今でも鮮明に覚えている」
「先のことが怖くなるって言ったな。それは当たり前だ。一人でいたって、誰かと一緒だって、見えない先は怖い。だけど、信じてみたらどうだ。実行するってことには勇気がいる。その勇気を信じてみたらどうだ、仲間を信じてみたらどうだ」
「そしてさ、失敗も良い思い出にしてしまえ」
「負けずに、先に行こう。俺はここを離れたとしても、ローリエ、このトリアトン帝国の姿を見守るから」
「……あなたって人は」
ローリエは泣き出した。
今、たくさん泣いておけ、これからの後悔の分まで泣いておけば、怖いものなしだ。
「よく頑張ったな。本当は今までだけでも上出来……なんだよ」
すると、ローリエは顔を上げた。
涙の跡があり、もう一回化粧直し……いらないな。
そのままの方が俺は好きかな。
「キョウヤ、私、もう負けません。もう一度信じてみたいです。頑張ります」
「それでこそ、女王だっ」
俺は笑顔を見せて、頭を撫でようとした。
んっ!
……顔が近い。
頬が温かくて柔らかい。
――――――――――――!
――ガチャ!
ドンッ!
「痛ったぁ~」
俺は、思いっきり突き飛ばされた。
「なに!」
ローリエが、後ろを振り向く!
「できたにゃ」
「アンシア、ドレスアップです」
オレンジ色のドレスを纏ったアンシアがポーズをきめて立っていた。
「キョウヤさんどうしたの?」
「躓いて、尻もちついた……」
「あら、大丈夫かしら」
こ、こいつ。
「それよりも……えへへへへ」
アンシアは、俺を見つめて感想を待っているようだった。
しょうがないかと、フッと息を吐いた。
「いいと思う」
「はいです」
「キョウヤ殿、感想が素直に出ましたにゃ」
「そうだな、出たな……」
「よし! 主役は出そろた、出陣ってところか」
「私だってやるときには、やるにゃ!」
「全力で護衛します」
「ほら、最後に何か言うにゃ。ローリエ様」
「分かってますわ」
「次の次の次、恐れずにもっと先を目指すわよ」
「みなさま、行くわよ」
「「「「おーーーーーー!」」」」
――――――LEVEL SERVICE――――――
「すごいね。関心の中の関心だ」
ブラッド・オーバー……。
ご覧いただき、ありがとうございました。
第2章は終了です。
「良かったよ♪」「面白かった」「続きが読みたい!」
そう思われた、あなたへ。
下にある☆☆☆☆☆から、ご評価していただけると嬉しいです。
また、ブックマーク をしていただけるとレベルが1上がりそうです。
それでは、第3章でお会いしましょう。ありがとうございました。




