Exp.22『ときには、心にコメディーを』
アンシアを探すのには、骨が折れた。
それで、アンシアは、草むらの中からブスーとした顔で現れたのだ。
「アンシア、大丈夫か?」
「うぐぐぅ~」
不機嫌なモンスターかと思った。
「街に行くけど、連いてくるか?」
「ム~」
ダメだ、ボールから飛び出てしまった。
「……一緒に遊びに行こうか、アンシア」
……。
――――――――――――。
「行くです」
――――――――――。
「あ~。やれやれ」
――――――LEVEL SERVICE――――――
二度目となるトリアトン帝国への視察。
「仲良くしようぜ」
右手をアンシアがギュッと握りしめ、左腕にはローリエが……絡んでいる……といった表現が正しかろう。
「さて、どうするか」
「……」
どっちを向いても、俺は、じっと見つめられた。
はっきりしなさい、デートするならどっちなの?
目は口ほどにものを言うとはこのことか。
はぁ〜。
「まずは、掲示板を見に行こうか……」
俺は、中心部に向けてトボトボ歩き始めた。
――――――。
ざわざわざわと、多くの人が掲示板の前にいた。
掲示板、大人気じゃないか!
きっと情報が活き活きしているんだろうな。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「なに、なに! キョウヤさん。ひゃう」
「キョウヤ、これはどういうことなのかしら?」
俺たちを見つけるや否や歓喜が巻き起こった。
「ローリエ様じゃないかしら」
「ローリエ様だ」
「横にいるのは、革命家のキョウヤ」
絶大な人気であった。
「亜人たちの自由を求めた革命、解放宣言」
「ティレンテ市街を助けた。英雄キョウヤ」
「これが、ドゥゲール王国の真実だったのか」
懐かしい言葉もちらほらと聞こえた。
「カラフルな芸術魔法を放つ、かわいい少女」
「亜人、猫又族の女王が、トリアトン帝国の王政に名乗りをあげた」
「推薦人は、革命家キョウヤ、それにギブロスだって、上官兵士じゃんか」
「ローリエ様、バンザーイ」
俺たちは、圧倒されて、思考が停止。
「どうしましょう……キョウヤさん……」
「出直そうか」
「ですわね、キョウヤ」
「アンシア、網膜が崩壊しない程度のフラッシュ魔法」
「了解です!」
――――――――!
「はい!」
「どうですか?」
すっごく得意げに職人の技を見せてくれた。
……。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「アンシア、それ違ぁう。花火じゃんそれ!」
「逃げるぞ!」
俺は、二人を肩に担いでダッシュした。
「何してるの!」
「だって、嬉しかったんだも~ん」
「……でなんで、ローリエの方は顔を赤らめて、嬉しそうなんだ」
「だって、今ね」
「お……おう」
「結婚式場で、ちょっと待ったで攫われるお嫁さんみたいだもの」
……。
「なんだ、そのクソ比喩表現!」
――――――LEVEL SERVICE――――――
さてと、俺は建物の陰に身を隠した。
「普通にお姫様だっこで観光したいですわ。キャッ」
「視察だから視察」
「あと、お姫様だっこで観光は、普通を通り越す」
「あと、今さら、キャッとか言うな」
意外過ぎてこっちが、恥かしくなるから……。
「でも……やっぱり、情報ってすごいですねキョウヤさん」
「お、そうだな……って」
「急にまともなことを言うな。びっくりする」
すごくないって、否定しそうになったぜ。
俺は、フッと一息。
大変な一日になりそうだ。
こうも人が追いかけてくると、視察もできない。
「一度、公の場で演説するのはどうかしらキョウヤ」
「なるほどな。それは名案だ」
俺はポンッと手を打った。
「さっそく、ルポールとギブロスに伝えに行くか……」
「そうしましょう……にしてもどうやって外に出ますか」
「だよな」
頭がバグってるよ俺。
何が名案だ、だよ!
「よ~し、行ってくるです。だから見るのです。我が秘技!」
……え?
アンシアは、立ち上がり、太陽をバックにオーラを放った。
「ど、どこ行くの?」
俺は良からぬことを察知。
「それは、できてからの、ナイショです。キョウヤさん」
「お、おう」
……死ぬ……なよ。絶対に。コメディーになりそうだから。
――――――――――。
「来た」
「なにが?」
――――――――――トトトトトトト!
子リスのように、タイルの地面を駆ける!
――――――バッ!
建物の陰から飛び出て、道を通せんぼ。
アリクイのように、両足両手を広げた。
「ちょっと待たんかぁあああああああああああああああああああああ」
風圧と音圧がビッグバーン!
「ヤ、ヤバい。ヤバさがエグイって」
ちっちゃな体から、江戸っ子特有の「てやんでー」の勢い。
俺は思わず、何語か分からないものを発してた。
「お、おっとお嬢ちゃん危ないよぉ~」
――――アンシアの前で馬車が止まった。
アンシアは、大きく深呼吸。
キラッキラッな汗を輝かして、
「どうですか?」
コングラチュレーション! 満面の笑み。
「大活躍だな……」
俺は、顔を痙攣させ、苦笑いでグーサインを出した。
「あら、あら、あら、あら」
ローリエは感心していらっしゃるよ。
――――――――――。
……なんだよ、そのスキル。大胆過ぎる。
「ごめんね、私たちを乗せてくれないですか」
「あ、ええ~え?」
「すまん、住民が俺たちを探していて、街の視察が十分にできないんだ」
せっかくのアンシアの頑張りを無下にはできない。
「どうも、お世話になります」
「うぉおお」
ローリエの丁寧なお辞儀は効果バツグン!
「分かりました。城に行きましょう」
「助かる。それとちょっと寄り道をしてくれ、店を見て回りたい」
「分っかりました。頑張ってみます」
「ありがとうございますわ」
そういって馬車での視察が始まるのであった。
「ケーシーが行商の仕事で早く帰りたいとき、こうするんだって」
「すごいな、あいつ」
あと、なに余計なこと、教えちゃっているんだよ。助かったけど。
――――――LEVEL SERVICE――――――
気になる店があったら、一回一回停車してもらい、風のうわさによって人が集まりそうになれば、退避。
別に悪いことはしていないのに、なんでコソコソやっているんだよ。
「スパイみたいで楽しいですわ」
「ここのパン美味しいですねキョウヤさん」
「それは、良かったな」
俺は、二人が夢中になっているから、逆に気が抜けずSP的な役割に徹しているのだ。
「うっ」
「なに、これ」
ローリエが俺の口に何かを突っ込んだ。
「クッキーですわ」
ローリエの手には茶色の紙袋が握られており、フフッと嬉しそうな表情。
「あ、ありがとよ」
それをアンシアは、羨ましそうに見ており、モキュ。
「私もです」
「え? ふがぁ」
力強く大物を放り込まれた。
「はぁっこぉっれ」
「甘いパンです」
……確かに。
いちご味の砂糖?
「そっか、甘いパンか」
そしてまた、嬉しそうにパンをちぎり、口に放り込んできた。
そうなるとローリエも黙ってはいない。
「お前らちょっと待て。 ふがぁ」
せめて、飲み物もよこせよ……。
「ふがぁ」
「次は、こっちですよ」
ガタガタコトコト揺れる馬車の中を、うるさくも満喫していたのだった……。
主に二人が……。
――――――Level Services――――――
「ありがとうございました」
「ありがとう、すごく助かった」
「こちらこそ、ローリエ様を乗せることができて光栄でしたよ。応援していますよ」
そう言って颯爽と立ち去った馬車。
「どうされましたか! ローリエ様、キョウヤ様」
すると秒で、こちらに気づいた門番の兵士がこちらに寄ってきた。
仕事やってるなぁ〜。 関心しつつ、
「実は……」
話を始めた。
それからは、ルポールも呼んでもらい『ローリエ様演説会』というものが、トリアトン帝国のスタジアムで行われることが決まった。
「スタジアムをこの城から眺めれますよ」
城の3階、円形上のベランダから外を眺めた。
「あれがスタジアムか……」
スタジアムはコロッセオのようで、とても大きかった。
「どうだ、大丈夫そうか?」
「はい、キョウヤがいてくれるなら」
灰色の美しい髪は風でなびき。灰色の瞳は俺を映し出し、にこやかに笑っていた。
ドキッとし、思わず惚れそうになった。
「さて、ポスター作るか」
「そうですわね」
――――――LEVEL SERVICE――――――
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