Exp.19『表裏一体』
兵士たちが、俺たちの行為を嗅ぎつけてくれて助かった。
街中を堂々と歩く作戦は、俺の中では成功。
もし、兵士たちが動かないままだと、勲章を返すことはできなかったし、兵士に接触することもなかった。
一方で、アンシアには、怖い思いをさせて、すまなかった。
……俺も、まだまだ、だな。
――――――LEVEL SERVICE――――――
ここが、城……。
トリアトン帝国の政治の中心である、城に到着。
要塞というような感じではなくて、おとぎ話にでてくるような城である。
しかし、寂しいことに、噴水は枯れて、畑は荒れている。
「どうぞ」
門が開けられ、城の内部は特別豪華というわけではなかった。
旧ドゥゲール王国の同盟国だと聞いていたから、兵士がずらり並んでいたり、鉄球が4、5、6個あちこちにぶら下がっているかと思っていた。
殺伐としているかと思ったが、和平的な内装だな……。
ホテルに近い。
しばらく歩くも、隠しギミック的なものは見た感じなさそうである。
しかし、裾にくっ付いているアンシアは、警戒状態でいた。
「す、すごいですね。キョウヤさん」
いつものワクワクではなくて怯えていた。
「私も、初めてですわ。やっぱり広い」
ローリエは、関心をよせていた。
王女として住むには、どこか華やかさに欠ける城内……。
「ふへっ」
ローリエは顔を赤らめて、その顔を隠した。
「お姫様……とか……」
「なんか言ったか?」
「別に……にゃにも、ないですわ」
ケーシーの喋りが、移った?
――!
数人の兵士が回れ右し、剣を抜き出した。
本番はここかららしいな。
殺気だった空気感。
「何の真似だ!」
アンシアが俺の腰に顔を埋め、ローリエは、俺から一歩下がり、背中についた。
――――!
「遊びはおしまいだ!」
くへへ。くへへ。
数人の兵士は怪しげな笑顔を浮かべた。
そして、のそりのそりと俺たちを取り囲んだ。
「逃げられない⁉」
城の中心部、王の部屋の前。
「どうする、キョウヤ」
ローリエは兵士の殺気を、いともたやすく読心術で読み取ったみたいだ。
これだけ血の気があれば、俺でも分かる。
「非常に物騒だな」
「ここから先は、王室、お前らみたいな異端児を通すわけには、いかない」
数人の兵士は、まだ、ユグルド側についているらしい。
ユグルドが敗北した事実を受け入れられない、といったところか。
俺たちを排除しようとしている。
さてどうするか。
考える手段は2つ。交戦か非交戦。
……交戦をし、城内から安全に脱出することは保障できる。
しかし、将来を考えると適切ではない。
ここに、トリアトン帝国の次期女王様がいるからだ。
反乱分子は、排除するのではなく、取り込みたい。
「俺は、そっちから仕掛けなければ、何もしない」
「ウソだ。絶対に城内で俺たちを殺すだろ、犯罪者!」
「大丈夫だ、約束する」
「お前は、復讐をしにきた、絶対そうだ。俺たちは殺される……だから」
「殺られる前に、一矢報いてやる!」
――――――――――!
「死ね、犯罪者!」
この状況に耐えきれない、兵士がいてもおかしくはない!
しかたがないか。
「空気に、レベ……」
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
鉄拳の巨漢の男が、俺の前に背を向けて、仁王立ちした。
――!
「攻撃を加えたら、反逆者として、俺が自ら死刑に処する」
「それが、分かったら剣を下ろせ!」
「こいつは、ユグルド様よりも強かった。俺たちが手を出だしても死ぬだけだ」
反響した、太い声。
殺気立った空気は冷えこみ、兵士は、剣を床に落とした。
情報がウソであって、こいつらの忠誠心は本物だ。
俺は、そう感じた。
正しいリーダーを選択できれば、こいつらの忠誠心は活かせる。
「私たちを信頼してくれると嬉しいわ」
――!
ローリエは、静かに、語りかけた。
「異端は、怖い者、そうですよね。私、あなたたちの気持ち分かりますわ」
「少し、気を楽にしては、いかがでしょうか」
すると、糸が切れたように兵士の力は抜け、その場にしゃがみ込んだ。
城内は、沈静化した。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「ありがとう助かった」
俺は、鉄拳使いの、巨漢の男に対して、話しを切り出した。
「あの少女は何者だ? あんな亜人は見たことがない」
「彼女、ローリエは特別なんだ」
「それにしても、どうしてお前は、俺たちを守った」
「俺は……お前に賭けたくなっただけだ」
「この王室の真実を、俺も知りたくなった。どうして我が国が変わってしまったのか、原点回帰させてくれ」
「ああ、――手伝ってくれると助かる」
「俺は、ギブロスだ。ユグルドの第2側近を前までしていた」
「キョウヤだ、よろしく頼む」
ギブロスは、ゆっくりと唇を閉め、喜びを出した。
「ローリエ様、ご無礼を失礼した」
すると、ギブロスとその他兵士は頭を下げた。
「いえいえ」
ローリエは、あのとき混乱して? 咄嗟に出た言葉だったらしい。
私、何かしましたか? って顔をしていた。
キュウィーっと、音を立てて王室の白い扉が開く。
いつも、ユグルドが、お告げを聞いているところである。
床は大理石、赤い絨毯は真っ直ぐ敷かれて、照明は豪華に彩られていた。
そして、王が座っているだろうと思われる椅子は、赤いカーテンの向こう側らしい。
アンシアも、だいぶ落ち着いて、ホッと胸を撫でおろしている。
「さっそくだが、カーテンを開けようか」
俺が、前に出ようとする。
「待てくれ、キョウヤ」
「どうした?」
「お前ら、カーテンを囲って戦いの陣を組め」
ギブロスの一声で、兵士たちは、カーテンの前にずらっと立った。
そして、その後ろに俺たちがいる。
そんな立ち位置。
「危ない気配がしたら、お前らは全力で逃げろ」
「俺たちが、食い止める」
――!
「……分かった」
ギブロスは、カーテンに手をかけた。
……。
全員に戦慄が走る。
――――――――――――!
ギブロスは、カーテンをひっぺがえした!
バサッと音を立てるカーテン!
全員の緊張が、意外性に包まれ、やがて怪奇となった。
青銅器で作られた。
古い大きな丸い鏡⁉
……。
そして、何も起こらない。
俺は、鏡に近づいて確かめてみた。
「キョウヤ!」
鏡のフレームには、ごちゃごちゃとした文様が施されていて、触れると黒い煤のようなものが手に付着した。
鉄臭い。
次に鏡をコンコンとノックするが、黙っている鏡。
普通過ぎて、気味が悪い。
「キョウヤ、どうだ?」
ギブロスは、恐る恐る尋ねる。
「この鏡のことを、ユグルドは知っていたと思うか?」
「それは、分からないな」
お告げをしてくるものが、鏡ということを知ったユグルドなら、蹴り倒していただろう。
一方で、知っていたから、そのまま放置した……。
謎である。
こうなると、ユグルドの行動が、全てのキーなのかもな……。
「ユグルドは早朝のお告げの時間だけに、この王室に来ていたのか?」
「……仕事終わりに、数人の兵士とともに、それと誘拐した……亜人と共に……」
亜人と兵士か……。
「本当に、すまなかった」
ギブロスは、ハッとして、ローリエに頭を下げた。
「もしかしたら、俺たちは騙されていたのかもしれない」
「その心は?」
「亜人を誘拐した件だが……」
「実は、その引き連れられた兵士も帰ってこない」
――!
「ユグルドだけが、この部屋から帰ってくるのだ」
「俺は、ユグルドに所在を聞いてみたのだが……」
……。
「それで」
「亜人に逆に攫われていると……」
――――――!
「よくよく、考えれば、そんなことは起こりえない」
「ユグルドのバカに付き合わされてしまった……。本当に、すまなかっぁた」
ギブロスの巨体は、膝から崩れ落ちて、その周りを兵士が囲い一緒に泣いている。
「そうだったんですか」
ローリエは、そう一言。
「あなた方も、苦しい思いをされたのですね」
ローリエは、優しく接していた。
やはり、ローリエこそが、次期女王としてふさわしいかもな。
「話して頂きありがとうございますわ」
どうやら、ウソとか騙しとか、そんな邪悪が無い世界がそこにはあっ――。
「キョウヤさん! 後ろ!」
「なに!」
――!
アンシアが、この世の終わりのような絶望した顔で叫んだ。
ボワッ!
鏡が丸枠に沿って燃え出した。
――!
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴオゴオゴゴオゴオオゴオゴオゴゴ!
微かに聞こえる、煮えたぎる音。
「何かが、来る! 下がれええええええええええええええええ!」
俺は、必死に叫んだ。
鏡の真ん中辺りは、沸騰したようにボコボコと波打つ!
間に合わない!
緊迫する状況。
俺は大声をあげた。
「空気結界レベル……」
――――――LEVEL SERVICE――――――




