Exp.18『情報』
「亜人と指名手配犯が一緒に歩いてやがる」
そんな声が聞こえてきた。
なぜなら、俺らは、堂々と街に姿を現しているからだ。
いつ狙われて殺されてもおかしくない俺。
正直無謀であるかもしれないが……。
しかし様子がおかしい。
思っていたよりも街は騒いでおらず、兵士や人間の住居地区は、俺たちに敏感ではなかった。
もちろんときには、冷ややかな視線を向けられるが、暴動にはなっていない。
おかしい……。
「ここが、街の広場なんですね」
治安部隊に捕まることはなくて、中心に来ることができた。
「そうみたいだな」
ここには、掲示板があり、そこにはユグルド死去。消滅ティレンテ市街などと情報が張り出されていた。
ユグルド死去は新しい情報で、ティレンテ市街は、古い情報?
亜人との戦闘の末、力尽きた。亜人の反乱か革命か!?
指名手配犯の作戦か? 彼は革命家かテロリストか?
「キョウヤさん?」
「キョウヤ……って結構、謎が多いのね」
「いやいや、俺が一番驚いているよ」
どこから、情報が漏洩している……。
「おーい、君たち」
――⁉
―――――――――――――――。
ボロ臭いカバンを肩に掛け、丸眼鏡を掛けたおじさんが興味深そうに、こちらに近づいてきた。
「あなた方は、革命家と亜人さんではないですか」
「はいです?」
アンシアが返事をした。
「私は、掲示板記者です。よかったよかった」
汗をかき、息を切らしてやってきたおじさん記者。
何が良かったのだろうか?
「私たちに、良い意味で会いたかった、みたいですわ」
「そうみたいだな」
でないと、武装とかしてくるだろう。
……。
「キョウヤ、この方取材を申し込みますわ」
「なんで、私の心が分かったのですか?」
「色々な力ですわ」
すました顔で、ローリエは答えた。
「ぜひ、私たちマスコミに欲しい能力ですな」
「マスゴミですか?」
「アンシア、マスコミだ。報道して、情報を伝える人だ」
「マスコミとやら、どうした」
「いや~実は、あなた方に会いたくて会いたくて、取材いいかな」
「ねっ」
「いや~、亜人さんには一本取られました」
記者は、頭をポリポリかいている。
「昨日の真相を知りたいのだが……」
「それと……」
「私は、あなたがどうしても、テロリストや犯罪者とは思わなくてね。ここには、『指名手配犯』と注目してもらえるように、そう書いたのですが、早く訂正したい」
「あなたが、この掲示板書いたのか……」
「はいそうです」
「もし、取材を受けてくれるのでしたら、こちらも情報を、そうだ。トリアトン帝国の持っている全ての情報を差し上げます」
キラリッと眼鏡を輝かして、俺を試すような目をした。
「知ってるのか」
「多少は……」
「知りたい……ですか?」
「あ~。人命が掛かっている」
「そうか、そうかそれなら等価交換しよう」
「とうか? こうかん?」
アンシアは言葉をたどり読みした。
「そうじゃ。商品は貨幣や物々交換で売買するじゃろ」
「情報も同じ、情報をくれたら情報をやる。等価交換ってわけだ」
「分かった。そうしよう」
俺の答えはYESの一つしかなかっった。……とは言ったものの初対面の見知らぬ人。
正直、信用し難い。
しかし今は迷っている暇はない。命には代えがたいのだから。
「キョウヤ」
「どうした、ローリエ?」
「詐欺師ではなさそうよ」
ローリエは耳打ち際で囁いてくれた。
「……そうか」
「付いてきてくれてありがとうな」
――――――LEVEL SERVICE――――――
招待されたのは、書斎。
室内は、ロウソクの炎で、仄かに明るかった。
そして、広いテーブルに人数分のコーヒーが置かれ、アンシアは、一口舐めては、その後は一口もつけなかった。
俺は、ティレンテ市街、ユグルド、そしてディレンについて全ての情報を渡した。
すると掲示板記者のマスコミ、名前は『ルポール』というのだが、ホーと声を出し、古紙を束ねた自作のメモ帳にスラスラと言葉を書き写していた。
そして、こちらも情報をもらった。
隣には、ローリエがおり、読心術のおかげで情報は真?
とかく下心などはないようだ。
「旧ドゥゲール王国とトリアトン帝国は、同盟国であったこと」
「トリアトン帝国の王の所在は分からないが、年齢も90歳ぐらいであり、死んでいると予測する」
「前の王の時代から、ラテーラ火山の発掘作業をしていたが、とっくの昔に発掘作業は止めているはず」
「一度、ユグルドを取材したが、ラテーラ火山のことに関しては突っぱねられた」
つまりは、トリアトン帝国は、何者かによって操られている可能性が高く……。
ディレン。
俺の答えは一つだった。
それに、王がいなとなると……政治体制は……。
「簡単であるが、話しはまとまった。細かい今後の動きが立てれそうだ」
「ありがとう、助かったよ」
俺は、最後に書斎をぐるっと見渡した。
小さいころ、教会の図書館で、本を読み更けていたことを思い出した。
その空気感が似ていて、とても懐かしい。
「いえいえ、こちらこそ、真実がしれて良かったよ。精度の高い情報だ」
「ほら、アンシア行くぞ」
「終わったのですか、キョウヤさん」
アンシアは寝ていたようで、油断し、盛大なあくびをした。
昔のアンシアなら、緊張ピリピリで食いつくように、話を聞いたり、真面目な態度や行動をしていたのにな。
最近はリラックスしてくれているようで……何よりだ。
俺は、つい頬が緩む。
また、ローリエが、立ち会ってくれたことは大成果である。
「私、役に立つわ、キョウヤ!」
ローリエ、アンシアを一目した。
ムムム……。
アンシアもそれに対抗。
いやいや、どこで争っているんだよ。
「では、また」
―――――――――――――――!
鎖!
「探したぞ、指名手配犯。よくもユグルド様を殺してくれたな!」
――!
「みんな、伏せろ!」
「アンシア!」
「こいつを返して欲しかったら、ここで自害し!」
―――――――――――――――スパッ。
「は? あれ」
言葉を聞くよりも先に動き、短剣で、鎖をバラバラに断ち切った!
「アンシアに、触れるな」
そして、剣先を相手に見せつけて、戦闘の構え。
しかし、ここは街であり、威嚇で留める。
「お前ら……何も知らずに、被害者面すんじゃねーぞ」
「キョウヤさん」
「予想通りだ。まったく」
「亜人までいるぞ! 昨日の夜のことは本当だったのか!」
動揺しだしたり、敵意をむき出したりの10人ほどの兵。
「どうしよう、キョウヤさん」
「大丈夫だ」
俺の目は真剣で、絶対に自分のテンポを取り乱したりはしない。
うまくいっている。
落ち着け、ゆっくり呼吸をする。
ここで、打ち合いは絶対に避けなければならない。
ローリエの品位と信頼が落ちる。
すると、その中から、
「俺が、お前を鉄拳で制裁してやる!」
巨漢の男が、拳をボリボリ鳴らしながらやってきた。
俺は、短剣を収めた。
少々自信がないが……。上手くいくだろうか?
「何する気、キョウヤ」
「……」
「2人とも、下がってろ」
――!
相手の拳は、まっすぐ飛んでくる。
ふっ、俺は一呼吸おいて歯を食いしばり、腕をクロスさせ防ぐ。
ぐはっ。
「キョウヤさん!」
「キョウヤ!」
「いい手ごたえだ、腕の骨が折れただろうな」
――――――フッ。
「……絶賛だな。自分に惚れ過ぎだ」
俺は、クロスを解いて、脱力。
巨漢の男は拳を震わしている。
「どうだ、俺を殴った感想は?」
「……い、痛い」
ドカッとうずくまった男。
「えぇえええええええ」
兵士らは、間抜けな発声をし、そして俺は、スッとある物を差し出した。
「ほら」
「こ、これは、ユグルドの勲章!」
「お前、やっぱりころ……」
「城に案内しろ!」
俺は、その一言で押し切った。
「キョウヤ?」
「……お、おう」
巨漢の男は、低く鈍い声で答えた。
「助かるよ」
全員が「?」を浮かべていた。
――――――LEVEL SERVICE――――――




