表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/57

Exp.17『二歩目』



 亜人収容所1?


 俺はこの部屋で寝たのか……と、(あた)りを見渡した。

 コンクリートで塗り固められた室内。

 床は(かろ)うじて、木材。


 ちょっと狭いけど、良い狭さだ。

 俺は好きだ。


 昨晩は、眠りについた人を起こさないために、明かりを()けず寝床についた。


 やはり、知らない場所だとすぐに目が覚めてしまうな。


 むにゅ。


 右手が温かい?


 ……。


「え?」


 むにゅ。 


 ……なにこれ?


 あぁああああああ……


 一瞬にして青ざめた。


 俺は、口を両手で押さえて、壁側に転がった。


 ――ドガッ!


 横には、ローリエがいて、スーと寝音を立てて寝ていたのだ。


 白い肌を露出させ、なんとも目のやり場に困る。


 いや、別に目をやる必要はないのだけれど……。


 ――!


 とにかく、俺は何も知らない、知らない。


 誰かにこの状況を見られてたらおしまいだよ。


 そろり……。

 俺は心を強く持ち、部屋を出た。


 ローリエの自室だったらしく……。

 これ以上は言及するまい。

 


 大広間。

 窓から新鮮な朝の光が差し込んでいる。

 亜人が密集していて分からなかったが、こうしてみると広い気がする……。


 いや、心の余裕が、空間を広く認識しているのだろう。

 ……余裕はまったくないか。


 俺は、腰の短剣の鞘を、締め直した。


 ――?


 『close……閉める』のはずが開いている。


 確か、ケーシーの兄の……。


 扉を進むと小さな部屋、それと地下階段が1つ。


 地下階段への入り口も不用心に開いていた。


 外からは開けられないとか、そんな仕組みなのかもしれないな。


 俺は、ギシギシとなる階段を慎重に踏んでゆく。


 中は暗くひんやりしていた。


 ――ギシッ!


「誰にゃ?」


 ――!


 ……ケーシーか。


「勝手に済まない。俺だ。キョウヤだ」


 すると、ハッとして様子で、顔を見せたケーシー。


 手には、ランプが握られてある。


「キョウヤ殿、おはようございます!」


 朝から非常に明るい声である。


「おはよう」


「アンシアちゃんは、まだ寝ているにゃ」


「そっか、ローリエもまだ寝ているみたぁ」


「にゃれ?」


「あっぶな……やっぱり何でもないぞ」


 ゴホンッと咳払いで取り(つくろ)う。


「ところで、ここは、ケーシーの兄さんの」


「そうにゃ、ディレンに殺されて、これが兄貴の木棺(ひつぎ)にゃ」


「毎朝、私はここに来て、昨日のことや、今日も見守っていてとか、話すにゃ」


「今日は、4時には目が覚めて、ずっとお話してたにゃ」


「そうか」


 ケーシーの服には、ぽつりぽつりと水の染みが残り、顔には涙の通った跡が残っていた。


 いつもは、明るく振舞っていて、ここで涙を……。


「ケーシーは偉いな」


「にゃ?」


「俺さ、アンシアに泣いているところ見られたことがある」


「キョウヤ殿がにゃ?」


「大事な人を失って、復讐して、死にたい、とか言って泣いていたよ。だからケーシーは、すごいな。俺より強い。自信持っていいよ」


「そんなことないにゃ」


「いや、尊敬するよ」


「でもな、あまりため込まなくていい。泣きたいときには思いっきり泣いて叫べ、わがままだってときには、言えばいいさ」


「誰も迷惑だとか思わないからさ」


「キョウヤ殿……」


 俺は、手をゆっくり合わせて目をつぶった。


「きっと、幸せの未来にして見せます。ケーシーの兄さん、安心してください」


「キョウヤ殿……」


 ……?


「アンシアちゃんに怒られますにゃ」


「何がだ?」


「やっぱり、何もないにゃ」


「さっ、今日から、また忙しくなるにゃ」





 ――――――LEVEL SERVICE――――――





「おはようございます。キョウヤさん」


「アンシアおはよう、顔洗ったか?」


「はいです」


 アンシアは本日も通常通りの運転。

 昨日の疲れを今日に持ち越していないようだった。


「おはようございますわ……キョウヤ」


 ――!


「おはよう……」


 何も考えない考えない。


「考え事ですか?」


 ローリエは、嬉しそうに笑っている。


 無心って難しいな。



 ―――――――。



「てか、心を読むなよ」




 朝食を済ませて、次の段階に入ろうとしていた。

 読心術で得た、情報の整理である。


「分かったかことはあるか?」


「はい。トリアトン帝国には、影の王がいるそうです」


「影?」


「兵士によると、毎日ユグルドは、カーテンの向こう側にいる誰かとブツブツと話しているみたいで」


「奇妙だにゃ」


 俺たちは、木のテーブルを囲って、座る。


 ……カーテンの向こう。いるかいないのか分からない支配者。


「いつ頃とかは?」


「2ヶ月前から、王を見る者はいないと……」


 ……。


「まぁ~それでも、昔からの名残(なごり)なのか、亜人居住区と人間居住区は分かれていましたけど……」


「ちょうど、こちら側に、ユグルドやディレンが誘拐や虐殺を仕掛けてきたときも2ヶ月前ですね」


 確か、ティレンテ市街のゴブリン汚染……。2か月経っても返答が来ない。


 本当の王は、監禁されたのちに、死んでしまった、のかもしれないな。


「キョウヤさん、そうなんですか」


「死んだというのは憶測(おくそく)だ……」


「あ、そういえば、ラテーラ火山について、知っていることはあるか?」


 俺は、突然思い出した。


「そうだったですね。キョウヤさん」


 当初の目的はラテーラ火山だ。


「火山が原因で、ティレンテ市街が被害にあっていた。その真相を突き止めに、ここに来た」


「そうだったのですか……。残念ながら私には分かりませんし、特に兵士からも」


「いや! 私は、さらわれてしまった仲間がラテーラ火山にいると思うにゃ」


 ケーシーは、強い眼差しを俺に向けた。


「分かった、調査してみる」



 ―――――――――――――――バタンッ。



「その通りだ!」


 そこには、ディレンの十字架にかけられて、一時期は瀕死(ひんし)の状態だった男性亜人の姿。


「俺は、知っておる」


「お前は、幸せだ。これだけで死ねるのだから……。他の者は、死ぬまで地下労働、ディレンのやつが小言を漏らしておった」


「そうか……。伝えてくれてありがとう」


「どうやら、俺は、兵士の区域に行くべきだな」


 ……。


「街にいくのですか?」


 アンシアが、尋ねてきた。


「そうだな、情報を集めるとするかな」


 すると、アンシアはキャハッと笑った。


「私に任せてです。街の人と打ち解けるのは得意です」


「そ、そうだな。ティレンテ市街の人ともすっかり打ち解けてたもんな……」


 こいつ、遊びに行く気じゃないだろうな……。


「私も、行ってよろしいでしょうか。キョウヤ」


 ローリエは、机の角をぐっと握っていた。


「お、おう」


 意外だった。


「しかし、ローリエ様、もしもあなたに何かあったら」


「問題ないわ、亜人が初めて街に行くのよ。私は、この分離した状況を変えたいの」


「ローリエ様……にゃ」


「大丈夫よ。キョウヤがいるもの」


 途端(とたん)に、む~、とアンシアは口をへの字に曲げた。


「なに? アンシア?」

 

 ローリエは静かに、アンシアに反応した。


 

 ――まったく。

 2人とも、これは、観光じゃない。






――――――LEVEL SERVICE――――――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ