Exp.16『夜襲激戦』
俺は、落ち着くことができなかった。
その場の勢いで立てた計画の脆さを知っているからだ。
これで良かったのか? と自問自答を繰り返し、もしこれで、亜人全滅となったら……。
ユグルドが夜襲を仕掛けてこなければ、それが一番いいのだが。
それに、集団を束ねて作戦をすることは始めてで……。
そんなのは、言い訳である。いけない、いけない。
俺は、深いため息をついた。
「大丈夫ですわよ、キョウヤ」
「私は、第1歩の革命の夜で、ワクワクですわ」
ローリエは、耳をピクリピクリと動かして、ほほ笑んだ。
「……あ~あのさ。そう頻繫に読心をしてくれるなよ」
「ごめんなさいね。でもキョウヤがすごく心細い表情をしていらしたので、ね」
「すまない、顔に出ていたか」
俺は、自分の腑抜けた顔をパシリっと叩いた。
「でも、それだけじゃないんですけど……」
――――!
すると、アンシアの肩がビクリッと動いた。
「……?」
そして、俺とローリエの顔を交互に見た。
「それにしても、急に、ローリエ様、元気になりましたにゃ」
「ええ、それはもう。ずっと会いたかったのですからね。キョウヤ!」
ローリエは、口元を緩ませ高揚していた。
「確かに、そうにゃ。トリアトン帝国は、旧ドゥゲール王国と同盟関係だから、大量の情報が舞い込んでましたにゃ」
「反乱がおきて、奴隷を殺せ。とか、レベル1の犯罪者とかにゃ」
「かなり物騒というか、やっぱり俺、悪役ポジションだな」
――――! 俺は、ハッとした。
「旧ドゥゲールの話しを聞いて俺のことを、怖いと思わなかったのか?」
「そんなことないわよ。ねぇ~ケーシー」
「はいにゃ! ローリエ様は、その出来事を聞いて毎晩月を眺め祈っていましたにゃ」
「そ……そうか」
俺は、ますます到着の遅さを悔しく思った。
だったら俺が絶対にユグルドたちを止めなければと決心もした。
「そうだわ、キョウヤの武勇伝を聞かせて欲しいわ」
「いいですにゃ!聞きたいにゃ!」
「え、あ⁉ 大したことは無い。まぁ~時間が、あったら……そのうち……な」
俺は、照れ笑いをすると、アンシアは、
「むー、王女の地位を使ってキョウヤさんを誘惑しているです……」
プクーと膨れっ面になっていた。
「どうした、アンシア?」
「何も無いです。ふんっ」
アンシアは、そっぽを向いてしまった。
「むー!」
何を怒っているのか、分からないけど。
「アンシア、ちょっとちょっと」
「はい!」
「髪が乱れているから、梳いた方がいいな」
「むー」
「え、違った⁉」
ゴン、ゴンゴン!
――――――!
屋根をノックする音が響いた。やはり来たか!
全員は一斉に立ち上がった。
「到達時間は?」
俺は、天井に向かって声を上げた。
「約10分後だと推測されます」
屋根で見張り役をしてくれた亜人が答えた。
「みんな、呼吸を整えろ。臨戦態勢だ」
――――――LEVEL SERVICE――――――
ズダダダダダダダダダダダダダッダダダダダッダアダッダ!
地響きがどんどん近づいてきた。
――――やはり、夜襲!
俺は指揮をとるために、アンシアと共に屋根へ飛び乗った。
アンシアの電光魔法が合図となって、兵士が室内から飛び出す作戦。
―――――――――――――――。
……!
「アンシア、魔法唱え開始」
「はいです」
…………。
ズダダダダダダダダダダダダダッダダダダダッダアダッダ!
――!
―――――――――――――――。
「電光魔法!」
―――――――――――――――。
ピュファ――――――――――――――――――――――――――――ン。
―――――――――――――――!
パ――――――――――――――――ン
「アンシア! 後は任せた。前線に行ってくる!」
「はいです。キョウヤさん!」
俺は、空中でぐるっと一回転。
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
亜人たちの叫びも凄まじい迫力。
俺は砂埃を舞い散らせながら地面に立った。
―――――――――――――――。
「迎え撃つぞ!」
ぐおぉおおおおおおおおおおおう!
亜人兵の勇ましい肉声を体中に纏って、
――ズサリ!
砂を蹴って、風を切って。駆け出した。
そして亜人兵も、俺に続いて一斉に突っ込んだ。
うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
唸る咆哮と猛撃の足音!
さっそく意表を突いたようだ。
敵側から慌てふためく声が聞こえる。
つまりは、逆に奇襲を仕掛けることに成功したのだ。
俺は、短剣を銀色に光らせて突っ込む。
敵兵を馬飛びしたり、流したり、時には攻撃を受けることもあったが回避して突破。
全ての兵士を退けた。
敵の兵士は、ざっと数えて30!
「空気! レベル2」
俺は上へ大きく飛び上がり、短剣を素早く大きく振った。
そう、見つけたのだ!
ガギュン!
――ユグルドはランスで防御。
パワーは劣るが、重力を味方にしている俺。
――グッ!
俺が押し切りを制し、ユグルドは軽く吹っ飛んだ。
俺自身も反動を受けたが、片手を地面につけてバランスを保った。
「やっぱりか、ユグルド!」
「レベル1が、図ったな」
ユグルドは、ランスを振り土煙を消し飛ばした。
「夜襲が来ると思った。だから防衛を固めたまでだ。さて、トリアトン帝国とディレンについて話してもらおうか」
ユグルドは、グッと口元を絞り眉間にしわを寄せた。
「うるせぇえええ! ビッグランス!」
ギュンッ! ランスで突撃してくるが、俺はクルリッと回避。
――が、さらに、ランスで薙ぎ払うユグルド。
しかし俺は背後に回った。
よってユグルドはもう一度、薙ぎ払い。
さらに、
「おらおらおらおら!」
連続で突き刺し攻撃をしてくるユグルド!
「空気結界、カウンター!」
俺は、ほんの瞬間をついた。
―――――――――――――――!
「ぶはっ」
ユグルドは、地面をぐるぐると回った。
「おのれ、レベル1がっ! うごっ!」
俺は、すかさずユグルドの首元をつかんだ。
「お前の持っている情報を全て吐け!」
俺は、ユグルドの体を揺さぶった。
「俺は、お前の……死刑執行人だ! 調子に乗るな、レベル1が」
「ぐふぁ」
力任せのユグルドの攻撃!
俺は、蹴ったぐられて数メートル飛ばされた。
ビュン!
「ビッグランス!」
「―――――は!」
ギュン! ギリリリリリリリリリリリ、ジリリ。
「だいたいな亜人ってのは、動物実験! 材料なんだよ!」
いきなりの猛攻を短剣で受ける俺。
右手に電撃が走った!
「うぐぁっ」
骨折するギリギリで、左手でも剣を握り右手に力添え。
「材料……だと」
「そうさ、だから、自由に扱ってもいいだろうが! 俺らの勝手だろうが!」
「ぐはっ」
俺は、またも吹っ飛ばされっ!
―――――――――――――――!
「そして、レベル1! 目障りだ」
グギャン!
追撃が俺を襲う。
「レベル1! お前が全ての正義かよ! お前に盾突くものは悪か!」
――――!
「そんなわけないだろうが!」
―――――――――――――――!
俺は、ブンッと、ユグルドの攻撃を短剣で跳ね返した。
そして、ユグルドに詰め寄り、
「残念ながら、正義とか言って比べている時点で、ユグルドお前は終わりだ」
「俺は、俺の勝手な基準で正義とか悪とか分割しない!」
――バシュ!
風をも割く一撃がユグルドの鎧を真っ二つにした。
「レベル1の分際でぇええええええええええええええ!」
俺は、瞬時に短剣で攻撃を受けた。
「生意気なんだよっ!」
―――――――――――――――!
「おりゃ、うおりゃ、うおりゃ、死ね、死ね、死ね」
ユグルドは錯乱しているようだった。
俺は、ビッグランスの一撃一撃を全て軽く受け止める。
闇雲に打っても意味がない。
――!
俺は、ランスを絡めとり、ユグルドの腹部に拳を叩きこんだ。
「ユグルド、お前の敗北は、何も知らないことだ」
その時、電光魔法が夜空に光った。
先攻の交代か、お疲れ様。
「ユグルド、確かにお前は強い。でも、その強さは力で埋め尽くされている」
「うるせーよ。俺はユグルド、帝国の次期支配者」
「世界は俺が自由に好き勝手していいだろうが! だから全てを自由に抹殺してやるんだ!」
「ビッグランス!」
……そうか、そこまでお前が言い切るのなら……ユグルド!
俺はお前を殺すことに、一瞬の躊躇いもない。
――――ッ!
短剣の先をユグルドに合わせた。
「なんだその目は……」
ユグルドは確かに怯えていた。
だが、俺はユグルドに対し思うことはない。
俺の姿は月光に照らされ、瞳は青く輝き凍てついた。
そして、
「斬る」
――!
「ぐがっ」
ユグルドは吐血して、ズダズダと首を押さえた。
「レベル1の、分際でぇ…………」
ユグルドの魂は、ロウソクのように消えゆく……。
――ドカンッ!
勢いよく、巨体は、地面に沈んだ。
「ただ俺は、理不尽を変えたい。ただ苦しみから誰かを救いたい。それだけなんだ」
「弱いものを、いたわることのできない世の中ならば、悪を潰す。誰かを殺す。俺は……」
――――スピンッ!
俺は静かに短剣を収めた。
―――――――――――――――。
地面は、ボコボコになり、激しい戦いの痕跡が鮮明に残っていた。
「もう、眠りな」
俺は、ユグルドの瞳を閉ざした。
――!
「へぇ~やるじゃん、キョウヤくん」
――は!
暗闇から出てきたのは、ディレン……。
「準備ができたのか」
「まさか、賞賛だよ賞賛。ここまで強いと神も喜ぶね」
ディレンは、金色の十字架を月に輝かせた。
「うん、美しい」
……。
「お前は、いったい何者なんだ」
「なんだろね、僕も僕が分からない」
「まぁ言うなれば、神の使いってとこかな?」
「……神」
「なに? 知りたい聞きたい?」
「……」
「やめときな、絶望するよ」
そう言って、ディレンは闇の中に溶けた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「うわああああああああ助けてぇええええええ」
帝国の兵士がこちらに大勢で逃げてくる。
「どうした、どうした」
俺は、嬉しそうに聞いた。
「亜人ども、体力が化け物かよ、うわあああああ」
あ~、2段式上手くいったのか。
「夜は危険だから、足元みて帰れよ……」
さて、俺も戻りますか。
「お~い、みんな無事か?」
「あ、キョウヤさん!」
「キョウヤ殿ぉ~」
「キョウヤ。フフッ」
「元気そうで何よりだよ」
「けが人は?」
「軽傷が3人以上です」
アンシアはピッシリと敬礼をした。
「お~、やるな」
そして、力尽きた。
「ね、眠いです」
……そうだよな。
「キョウヤ殿、ご無事で何よりにゃ」
「うん、ケーシーも」
あとは、ローリエの読心術の結果だな。
「そうですわね、キョウヤさん、でも今日は、遅いですわ」
アンシアもフラフラしている。
「そうだな」
――――――LEVEL SERVICE――――――
「よろしくお願いした」
俺は、ケーシーにアンシアを託した。
「はいにゃ」
そして、俺は、1人、月を眺めにいくことにした。
「月、好きなんですか」
ローリエが隣に座った。
「王女、夜は危険だから、城に帰りなさい」
「城じゃないわ。それに、さっきまで、危険なことさせといて、それはないと思うわ」
「それも、そうだな」
「それで、月は、好きなのですか?」
「ああ……」
「俺の大事な人が、月の女神みたいに美しい人だった」
「だから、毎晩、こうやって十字架を夜空に照らしているんだ」
「そうなのね、キョウヤ」
―――――――――――――――。
それから、少しだけ俺の過去を語った。
「思ったより、冷えるな」
「そうですわね」
火山に近い地域とはいえ、夜は寒い。
俺がスッと立ち上がると同時にローリエは俺の手を握った。
「ありがとう」
「これから、だろ」
――――――LEVEL SERVICE――――――




