Exp.13『来襲』
荒地を越えた先が、目的地のトリアトン帝国とラテーラ火山。
この地には火山灰が多く堆積していて、黒っぽい土.
太陽の照り返しで、足元がいつも以上に高温であることは気のせいではないはず。
スラムの意志を引き継いで、ここまで来ているわけだが。
暑さで、思考が溶けだしそうだ。
モンスターと軽く戦闘をしながら着実に近づいているのだが。
遠い! 蜃気楼にやられているのか?
「アンシア、しっかり水分補給しろよ」
「はいです。キョウヤさん」
アンシアもぐっしょりと服を濡らし、それでも乱さずきれいに着こなしている。
「女の子ですから」
「急になんだよ……」
景色が変わり映えしないと……道に迷った気になる。
俺は、額の汗をクッと拭った。
昨日は、野宿であり、体力的な回復は認められなかった。
回復術士の出番?
残念ながらアンシアは、治療的な術式は使えても、補給的な術式は習得できていない。
日差しが通常の何倍もきつく感じる。
「おい、止まれ!」
……最悪が始まる予感がした。
そこには、銀色の鎧を着た騎士の姿。
馬から降りて、目の前で仁王立ちしている。
四角い顔で眉間の堀は深い、筋肉質な男。
騎士の手にはビッグランスが握られ……ギリリと、金属を強く握りしめる音が聞こえる。
――鋭い殺意……。
「これって、新手のモンスターですか? はぁはぁ」
「違うぞ、アンシア」
アンシアをじりじりと隠した。
――!
がっちりとした鎧を装着していない他は、部下であろう。
兵士6人はロングソードを構えて、剣先をこちらに向けている。
「お前らは、盗賊か?」
「奴隷だよな? 指名手配犯だよな?……やっと見つけた」
男は、ニタリと笑い、猛禽類の眼力を向けてきた。
なんとも、暑苦しい。
「質問に答えて欲しいのだが」
「レベル『1』がここを通るのは珍しくてさ……声かけてしまった」
取り巻きの兵士らは、まるで、俺の不運をあざけ笑っているようだ。
おおよそ検討はついた。
俺が復讐したことを根に持っている残党らしい。
アンシアは、俺の後ろでひくひくしている。
こんなところで、襲われることになるとは。
手っ取り早く、片づけることができればいいのだが……。
俺は短剣に手を掛けた体制で警戒。
「余裕な顔しているな、レベル1。お前の状況を今から痛みで分からせてやる!」
絶対に戦闘は避けたい。
しかし、じりじりと詰め寄る兵士ら。
目元は金属帽の陰で隠れている。
……どこを今見ているのやら。
俺は、息を殺し、様子を伺うだけで、安全な立ち回りを選ぶ。
ゆっくり、ゆっくり後退り……。
――――――――――。
――来るのか!
――こいつ速い!
「レベル1のお前が」
――ズン!
「よっぽど卑劣で卑怯な作戦を立てて!」
――ズン!
「ドゥゲールを滅ぼしたんだろうが!」
ギュンッ! ランスが突き付けられるが、テンポよく回避。
「お前と戦う理由はない」
俺は、アンシアを抱えて、距離を取った。
「うるせえええええ」
六人の兵士も襲い掛かってくる!
「―――――――――キャッ!」
「アンシア!」
俺は、右手にそよ風を感じた。
……しょうがない、これも手段だ。
――!
「レベル10を風に!」
片手を兵士に向け、風を射出!
―――――――――――――――ビュン!
散り散りになって落下した兵士。
「アンシアに触るな!」
俺は、低く冷たい声で威嚇した。
――!
「お前の相手は、このユグルド様だあああああ!」
――――――ギュン!
馬鹿デカい巨体のリーダーの名前はユグルドと言うのか……知らん!
ランスを避けて、風圧を利用し、ユグルドに風をぶつける。
後ろに数メートル、ユグルドは滑るが、途中で止まった。
「とある指名手配犯に似てるな、その風の力!」
――!
俺は、もう一度アンシアを抱きかかえて、横に大きく飛んだ。
体勢を整えたい――が!
「ビッグランス!」
――グッ!
ガードした左腕に、ランスの側面がぶち当たる。
「キョウヤさん!」
「大丈夫だ」
俺は、左腕を抑えて、歯を食いしばった。
「ちなみに処刑執行人は、俺、ユグルド様だ。お前を、地獄にご招待!」
――!
「なにも、聞かないんだな」
俺は、短剣をいつでも抜ける状態で、ユグルドと間を取って警戒。
「犯罪者は殺すようにと……同盟だからなドゥゲールは」
――!
「……キョウヤさん」
「大丈夫だ」
俺は、小バカにした表情、そして歯を食いしばった。
「はいです」
自信を持って俺を信頼してくれる。
アンシアのために、早く終わらせる!
俺は、短剣を抜いた。
短剣は、ユグルドの首元を映す。
「突っ込め、お前たち!」
すると、また兵士が同時に襲ってきた。
1人当たりのレベルは20か。
空気踏み台。
後ろに素早く宙返りで下がった。
「もう一度、吹き飛ばされろ!」
短剣を素振りし、人工的に風を起こす。
「風、レベル23!」
兵士を、空中に巻き上げて、地面に叩きつけた。
「横に人影!」
「フッ! 首、もらう!」
――――ギャアーン!
ユグルドのランスを、短剣で防い……だが、弾き飛ばされ、地面に、アンバランスな形で不時着。
「もらった、死ねええええ」
ユグルドはレベル43!
ユグルドは、ランスを振り下ろし俺を潰しにかかる!
――ガチャリ。
俺は、ユグルドの攻撃を短剣で踏みとどまらせて……押し……返した。
手にしびれが残る……。
気にしている場合ではない!
俺は、ユグルドとの間合いを詰めて、攻撃!
「そんな、短剣で、俺も舐められたもんだなぁあああ」
鎧を装着しながら、ここまで速いとは。
「キョウヤさん!」
アンシアの必死さが、俺の瞳に残る。
任せろ。瞬殺で終わらせるから。
ビュン!
俺は、勢い良く地面を蹴った。
「邪魔だぁ」
ユグルドへの攻撃を邪魔する兵士6人を一振りで、斬り乱し、バタバタと倒す。
「きさま! レベル1のぶんざいで!」
鬼のような形相を浮かべ突き刺さしにかかるユグルド!
しかし俺は、タイミングを見計らい、ランスを滑るように、シュィーンと受け流し、そのまま後方に回る。
金属と金属がぶつかることで、火花が散り、短剣の一部は焦げた。
そして――――斬りにかかる。
ユグルドも体勢を整えて反撃するが……。
俺の本気を知らないらしいな。
――まったく。
斬る動作は、フェイントとして処理。
俺は、金属音を唸らせながらユグルドの攻撃を再び受け流し、暇を持て余している左手で、ユグルドの顔面を思いっきり殴った!
―――――――――――――――!
「ぐはぁっ!」
ユグルドはよろよろと躓き転がった。
……。
「もう去れ! 二度と俺たちに関わるな!」
――――――LEVEL SERVICE――――――
ユルグドの集団は引いていった。
俺は、すぐさまアンシアの元に、戻った。
「アンシア、大丈夫だったか」
するとコクリと頷き瞳を擦っている。
「ごめん、怖い思いをさせたな、どうやら俺はまだまだ犯罪人らしいな」
アンシアは首を振って否定している。
「そんなこと、無いです」
俺はあの頃のフードをスッと被った。
「歩き始めようか……」
「ちょっとケガしてるです。キョウヤさん」
「これぐらいなんとも」
「回復魔法」
俺の右腕が光り輝き、痛みが癒えていく。
それは、すごく優しかった。
……。
「ありがとうな、アンシア」
「ちょっと、ちょっと、そこの君ら! 大丈夫にゃ?」
「誰だ!」
二人の前に現れたのは獣耳の女性だった。
「もしかしてだけど、トリアトン帝国に行きたいならば、こっち来るべしにゃ」
――――――LEVEL SERVICE――――――




