Exp.11『討伐』
「水が、濁り始めてこの街は、おかしくなったんだよな」
カコンッと水路の入り口を開けた瞬間から最悪。
空気結界でも臭いを完全に防ぐことができない。
「アンシア……大丈夫か?」
「私は、生きてるです。キョウヤさん」
見るからに苦しそうなアンシア。
顔を押さえ、いつうずくまってもおかしくはない。
「無理して来なくてもいいんだぞ」
「んんん、一緒に行きたいのですけど」
「けど……?」
「光がないです。キョウヤさん」
「スラムさんから、火の結晶を貰ったから、これにレベルを与えて長持ちさせながら、強い発光にするが」
なんだ、そのポーズ⁉
前に手を突き出し、一回引いて、上に腕を挙げて、それから手のひらを天井に向ける?
――キラリッ!
「アンシア、ちょっと待っ!」
フワッアアアアアアアアアシュュー!
急な眩しさに目を細める二人。
これは、発光魔法!
そして、光が持続する照明魔法のコンボ。
――――――。
「アンシアが、やったのか」
俺は、アンシアを瞬時に見た。
「キョウヤさんの役に立とうと思って、独学です」
アンシアは、慌てて、一生懸命グーサインを出した。
……。
アンシアを見れば分かった。
できるかどうか半分以上、不安だったのだろうな。
グーサインは、歯を光らせて、軽く出すものだよ。
でもさ。
「えらいぞ、アンシア」
俺は、トントンとアンシアのふわふわな頭を撫でた。
「えへへ」
すると調子を出したのか、仕切り始めた。
アンシア設立のギルド?
「では、行きましょう」
「お、おう」
――――――LEVEL SERVICE――――――
よく考えると、俺とアンシアは悪臭への耐性が備わっている。
思い出したくはないが、檻や下水道で過ごした経験があるからだ。
完全に空気結界が溶けた状態なら分からないが、現状では生き延びることができるようだ。
何より何より……。
――!
バシュ! バシュ!
しかし、どこからともなく現れるゴブリンを斬るのは大変で、気が抜けない。
ときに、水路の中からあわれることもあるのだ。
アンシアをやっぱり後ろに下げて、剣先を先行させる。
――バシュ!
ゴブリンを突き刺す。
50体ぐらいは斬り潰しているわけだが。
「……奴がいたぞ、アンシア」
「はいです」
俺は、物陰に隠れて囁いた。
水路の行き止まりには、体長およそ5メートルあるオークがグゴガガガガガとイビキを立てて寝ていた。 レベルは37。
その周りには、市街地から取ってきて、食べたであろう食べ物が腐った状態で放置。
まるで、ゴミ屋敷……。
さて、どうすべきか……。
レベル80。
アンシアに空気結界を張った。
予測を立てた上での空気結界の増強である。
「アンシア、お前を地上に転送しても……いいか」
ぼそりとつぶやく。
「え、えええ?」
「私は、キョウヤさんと一緒がいいのです……けど。どうしてですか?」
アンシアは、簡単には承諾してくれず、俺の表情を伺っていた。
「アンシアが邪魔だとか、そういう理由では、無いんだ」
今からこいつを狩るわけであって、それだけならよいが……。
騒ぎを聞きつけたゴブリンが、大量にうじゃうじゃと、わいてくるわけで……。
アンシアの安全を完全には保障できない。
「アンシア、やはりを地上に転送したい」
「光は、どうするですか?」
――!
「アンシア、タイムオーバーのようだ」
オークを起こさなくても、ゴブリンは続々とこちらに押し寄せてきていた。
「スラムがくれた火の結晶を使って発火させ……」
「どうしても……ダメですか?」
「残念ながら、転送したい」
俺は、ぽんぽんと、頭を撫でた。
すると、ギュッと小さな体で抱きついてきた。
「分かったです。キョウヤさん」
「絶対に生きて戻ってきてください、です」
「ギャアアアアアアア」
「ギャアアアアアアア」
「ギャアアアアアアア」
ゴブリンが一斉に騒ぎ立てた。
「でもね……」
――!
フワッアアアアアアアアアシュュー!
アンシアは、発光魔法をゴブリン目掛けて放つ。
ゴブリンの動きを止めた!
「よし、助かるよ」
そして俺は、ゴブリンの足止め代わりに、炎の結晶レベル35を投げた。
ガチャリと地面に叩きつけられた炎の結晶。
発火すると、ババッとゴブリンの皮膚に引火して大きな炎になる。
ゴブリンの大群を焼失させる作戦を実行!
「絶対生きて帰ってくるからな安心しろ、アンシア」
「はいです」
――シュッファン。
アンシアは青い光をまとって消えた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「ふんっ」
――――ズブッ!
俺は、短期決戦に持ち込むために、不意を突いた。
「ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
レベル37のオークは、喚き声をあげた。
すると、水路の壁はボロボロと崩れ、オークがあと2体、壁から出てきた。
壁が薄い! いや、そうではない。
破れた壁の奥には、大きな空洞が広がり、削り砕かれた痕跡を確認。
ゴブリンの住処とティレンテ市街を、完全に開通させようとしていたわけか。
後から来た2体のオークは9メートルの巨体である。
両方ともレベル45。
って! 2体のオークが最初のオークを食らいつくしているだと……。
アンシアに見せなくてよかったぜ。
俺は短剣にレベル20を与えた、刃が欠けたり、折れないようにコーティング。
あとは、俺の腕次第!
――!
「食事中悪いが、お前らを殺す!」
「んっ!」
バキン!
「ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
「どわっ」
攻撃は、オークの棍棒により吹き飛んでしまった。
オークは、俺を認識するとブンブンと棍棒を振り回して反撃。
空気結界を張っているが、ダメージが蓄積しすぎると割れてしまう。
オークの一撃一撃を交わし、タイマン勝負をしたいが、こいつらの連携は……良い。
夫婦といったところか!
ブンッ――――――――――――。
ブンッ――――――――――――。
素手で殴る風圧もすごい。
――バシュリ、バシュリ!
それぞれの、右手を切り離したっ!
って、何匹かのゴブリンも炎から立ち上がり俺に向かってくる!
そいつらまでも、蹴り倒し、殴り倒し……。
体力の消耗が激しい。
俺は、汗を拭って連続攻撃を中止。
「これじゃ、きりがない」
――ブシャリ、ブシュリ!
「どんだけいるんだよ!」
俺は、大きな間を取り、短剣を構え直した。
……悪臭を吸いたくなくて、酸欠気味。
――――――――⁉
目の前に光の粒が……1つ!
落ちる寸前に、手ですくった。
すると、体力が回復し、息が整い、体が軽くなった。
回復魔法である。
「アンシアか……」
それは、地上から地下へ遠距離からの魔法であった。
アンシア、俺の位置が良く分かったな。
見えなくても感じる何か?
または……透視魔法も独学したのか?
「とにかく、ありがとうな」
俺は、目を完全に開いた。
グタリしている暇はない!
――!
オークの重い一撃がくる!
スパッと高く跳んで回避。
「レベル20を追加で、短剣に与える」
――!
オークの一体は俺の短剣を、腕を使いガードしたが、――短剣は鋭い!
オークの体をぐにゅりと割いた。
――!
すると、もう一体のオークは、ゴゴゴゴゴゴと突進してきたが、俺は一振りで、スパッと、足を奪い取る。
オークがうつ伏せで倒れたところを、短剣でとどめさす。
「ハッ!」
心臓を突いたのだった。
――――――――駆逐……完了。
広い空間には、大きな穴がぽっかり、そしてオークとゴブリンの死体がそこにはあった。
――――――LEVEL SERVICE――――――




