Exp.9『こいつは、怪物』
アルフェ村を経由して、木々が散らばるコウゴウ草原で模擬実践を開始した。
簡単に説明すると、回復魔法を当てる確率を上げる訓練である。
草原に立った俺と大股で20歩ほど離れたところに立ったアンシア。
「よし、頑張りますね」
アンシアは、ふんっと全身を力ませた。
コウゴウ草原は、低級モンスターのスライムやキュウリの形をした2足歩行のモンスターばかりが出現。
レベル22あれば、安全である。
――しばらくすると、級モンスターたちが現れた。
レベル1の俺に誘われたのだろう。
俺達でもレベル1は倒せる、と言わんばかりの嬉しさを浮かべて、ノソノソと出現したのだ。
シュバッ――――――――――――――!
俺は短剣を抜刀し斬りにかかった。
「アンシア! 俺たちはギルドメンバーではない。だから俺の位置を予測しながら回復魔法を撃てよ」
「そうでないと、当たらないから!」
「はい。キョウヤさん!」
アンシアは金茶色の前髪を揺らし、一呼吸の後に術式を唱えた始めた。
ギルドメンバー同士だと、誰に回復魔法を与えるのかを自動で追跡することができる。
しかし、ギルドを組んでないとそうはいかない。
作戦として回復ポイントを作り、そこだけに回復魔法を撃つ、といったものもあるが……。諸刃の剣。
臨機応変さに欠けるのだ。
俺は、敵を交わし、斬って、横に飛び、ジグザグに動いて見せた。
うじゃうじゃ現れるモンスターを前に、体力を著しく消耗させる悪い戦い方である。
しかし、アンシアの的に俺はならなければならない。
――!
地を這うような魔法の軌道。
アンシアの一発目は遠くに反れた……。
「あっごめんなさい!」
「大丈夫。もっと力を抜いて、焦らなくていいから」
きっと俺の足元の動作に合わせようとしたのだろう。
――おっとっ!
二発目はクリア。
「アンシア! タイミングは悪くない。しかし俺の足元ではなくて、心臓部を把握してみてくれ」
「分かりました。キョウヤさん」
――――――LEVEL SERVICE――――――
その後も訓練は続き、約50%の確率で魔法を届けることができるようになったアンシア。
初めての模擬実践にしては、なかなかである。
「お疲れ様だ!」
「ありがとうございます! キョウヤさん」
汗を輝かせ、笑顔のアンシア。そよそよと手を振りながら、こっちに走ってくる。
俺も片手を挙げて答えようとするが……。
この臭いは……。空気感が変わっ⁉
――!
「アンシア! 地面に伏せろ!」
全力で声を上げた。
草原にいた黒い鳥はバサバサと慌てて飛び出し、驚いたアンシアは「ふがっ」と声を上げてその場に倒れた。
――俺はアンシアのいる方向に、短剣をまっすぐ投げつけた。
――――――グシャリ!
――クリーンヒット。
そして、アンシアの元へダッシュ。
「アンシア、まだ伏せとけよ!」
キィエエエエエエエエエエ!
ゴブリンは、舌を出して喚いた。
ドゴッ!
俺は地面に突き刺さった短剣を抜き、ゴブリンに蹴りを一発、そして斬首!
ゴブリン2体を瞬殺した。
「アンシア! 大丈夫か!」
「大丈夫です。キョウヤさん」
アンシアは柔らかく微笑んだ。
引き続き警戒するも、ゴブリンは……もういなさそうか……。
冷たい風が異常なほど頬に染みる。
「なぜ、こんなところにゴブリンが……」
――ゴソッ!
スッと茂みに剣先を向けてアンシアを左手で抱き寄せた。
アンシアは「ふぎゃ」と反応。
「たす……けて……」
ボロになった服を着た老人が肩から血を流して倒れた……。
俺は、間違っても斬ってはいない。
――! 老人には、ひっかき傷がありゴブリンの被害であると推測した。
「アンシア、回復魔法」
アンシアにとってこの状況は、衝撃的だったのだろう。
ブルブルと震えていた。
よって、俺の腰に張り付いたまま、指先だけでちょいちょいと回復魔法をかけた。
キィエエエエエエエエエエ! キィエエエエエエエエエエ!
「レベル30!」
俺は空気結界を張った。
キュウィイイイン!
すると、ゴブリンたちは、衝突し逃げていった。
どうなっているんだ、いったい!
本来ここにゴブリンは生息してはいけないはず……。
「どうしますか。キョウヤさん?」
「村に戻って事情を聞くか」
俺は老人を背負った。
――――――LEVEL SERVICE――――――




