Exp.8『私は、回復術士』
ドゥゲール王国の崩壊から約3か月が過ぎた……のだろうか。
正直言って覚えていない。
いや、分からなくなってしまった、という表現が正しい。
しばらく、この国の管理は俺に一任されていたのだ。
非常に忙しかった。
俺は、ちょっと無心になって「はぁ~」と直後にため息を漏らした。
別に復興の手伝いや力添えをやりたくないという訳ではない。
単に俺がする仕事としては、向いていなかったのだ。
独裁だと簡単だが、民主主義だとそうもいかない。
まぁ~権力が分散して、議論できることは、いいことだけどな。
ぼっち暮らしで本を読み漁り、知識を高めた時間は無駄ではなかった。
……いや、活かしきれていないこともしばしばだな……。
政治家……か。 王様……か。
俺は嫌いだよ。俺は小笑した。
――――――LEVEL SERVICE――――――
街はだいぶ復興し食料を売る人・小物を売る人・靴を磨く人など、商人も増えてきた。
後は、カフェやレストラン、パン売りなどの加工食品の店が並ぶと、少しばかりか華やかになるだろうか?
そんなことを俺は考えていた。
ドゥゲール王国を改名し、セレーネの街になった現在。
城だったところは、役所と病院の複合施設になった。
我ながらいい案だったと心から思う。見るたびにいつも誇らしくなる。
悪魔と残虐の城が、天使と平和の象徴になるとは――。
ちなみに役所の機能としては、治安維持はもちろん、生活の援助や問題の仲裁を行う。
さらには冒険者やギルドへの仕事斡旋や団体の結成申請と色々だ。
「天使様は、ギルドを作らないんですか」
商店の並ぶ直線道で、女の子の声がした。
――――!
隣に誰かがいることに、まだ慣れていなかったりする俺がいる。
「う、うん?」
変な返事をしてしまった。
するとアンシアは、俺を見ながらこくりと首を傾げた。
「あ、えっとレベル1だから、作れなくてな」
訂正して答えた。
すると、
「天使様がギルドを作ったならば、絶対にお供します!」
アンシアは、手に力を込めて力強く宣言してくれた。
「あ、ありがとう」
……これでいいのか?
正直、アンシアとの距離をまだ分かっていない。
どうしたものか……。
――――――――……。
アンシアは、まず体が小さいだろ。
ふわふわとした金茶髪のロングヘアーは、ツーサイドアップで結ってあるだろ。
簡単にまとめると、幼い……それから。
年歳は、高校生レベルと言っていたな。
「う~ん」
いやぁ~、……初めましての人は、納得いかないだろう。
俺もその一人だった。 うんうん。
「どうされたのですか天使様?」
俺は、じっとアンシアのことを観察していたのだ。
「ごめんごめん、それにしても服似合っている。うん」
「本当ですか!」
アンシアはパッと明るい顔になった。
それは、もうドン引くぐらい。そんなにすごいことは言ってないが!
「私、回復術士っぽいですか」
そう言って、その場でクルリと一回転。
白と青を基調とした服をひらひらさせた。
同時に、髪も円を描くように揺れる。
「どうですか? えへへ。おっとぉ。えへへ」
そう言って、落っこちそうになる帽子を押さえた。
アンシアは回復術士として成長したのだ。
レベルは22。
俺にレベル15を返還し、勉強を続けた結果が今である。
速い段階で、回復術士(認定レベル)を名乗れるほどの実力になったのだ。
どこかの街で、回復術士(学士レベル)のテストをしてもらえると最高なのだが……。
まぁ~どこまで進むのか分からないが、アンシアの成長が楽しみだ。
――! って俺の立場は、いったい何だ? と自身に問い掛け恥かしくなった。
「あ! そんなことより、『天使様』って呼び方やめてもらえないかな」
――――?
「どうしてですか?」
「え~と、天使様っておかしくないか? うん。絶対おかしいぞ。だいたい俺は普通に人だし、空飛べないし」
「え~、空飛んでたじゃないですか」
「え~と、あれってさ。爆風をレベルに変えて、飛んだだけだし。かっこ悪いしさ」
「でも、でも、天使様がいたから、私はこうして居られますし、この街だって立派に!」
――――ポンッ。
「あいたっ」
俺は、アンシアの頭に軽くチョップを入れてみた。
「そうじゃないと、回復術士ってアンシアのことを呼ぶぞ」
「それは、困ります。天使様」
「なんだ、回復術士」
俺は適当に返事し、アンシアは頬をプクーと膨らませた。
――――――LEVEL SERVICE――――――
「今日も元気だな、キョウヤ! アンシアちゃん」
さらに道を歩くと、武器屋おっさんのハンスが声をかけてきた。
俺は「どうも」と挨拶して立ち止まり、アンシアは丁寧にお辞儀した。
「どうだ、短剣の調子は」
「問題ないな」
俺は腰から短剣を引き抜いた。
「本当は、ここにある上級装備をいくらでも使って欲しいのだが、武器が嫌がっているんじゃなぁ~」
ハンスは、困った顔をした。
「でも、自分の身の丈に合った武器がいいからさ」
俺は、短剣を太陽の光に反射させた。
「プロが見てくれた、しっかりとした武器があるだけで、俺は嬉しくなるよ」
以前は、そんなこと無かったから……。
「やっぱりキョウヤは強いなぁああ。おっさん感激だぁぁぁぁ!」
「手入れのオイルもってけ、もってけ!」
そう言って、ハンスは剣専用の手入れグッズを袋に詰めてアンシアに持たせた。
追加で、ハンスは目を押さえ、キョウヤの肩をバシバシと叩いた。
どんだけだよ。相変わらず涙もろいな。
「まぁ~後、それに武器が強くなると経験値が減りますから」
「だったなぁ~。経験値を分け与える能力……だったかだったか」
「そうです」
俺は――スピンッと短剣を戻した。
「あの時代が嘘のようだな、キョウヤ!」
――――。
「そうだな」
……灰色をした城のてっぺんに、昔は大砲があった。
しかし、今は白い塔に金色のベル。チャペルのように清楚で美しいのだ。
「ありがとうな、キョウヤ」
「いえ、そんな」
今では、武力で鎮圧することなく会議によって解決していく制度。
さらには同盟村、といったものを作り健全で自由な商売ができるように国家建設が進んでいる。
まぁ……法律を作るのは、少々苦戦したが、何とかまとまって良かったと心から思う。
――それに感謝するべき人は、もう2人いるよ。
――――――――!
「あっ、今日も回復魔法の練習です!」
突然アンシアは高い声を上げた。
「そうだったな。また顔出します。ハンスさん」
「おう、おう、また来てくれよぉ~」
俺は別れを告げて、武器屋を後にした。
――――――LEVEL SERVICE――――――




