Exp.7『After Story』
……藁の匂い。
目を開けずとも俺の嗅覚は、異様な空気感を捉えていた。
藁で作られた天井、さらには藁でできた丸く柔らかいクッション。
「温かい」
そこに、俺は仰向けで寝そべり……。
藁の隙間から差し込む太陽光線が強い――。
目を覚ましたのは、お昼間近な気がした。
野宿が多い俺の経験則だが。
俺は、薄ら目になり上体を起こそうとするのだが……。
俺の腹部あたりに柔らかな感触。
上半身を乗っけた少女が寝息を立てて眠っていたのだ。
そうか、昨日俺は……。
放心状態となるが、胸に掛けた十字架を拾い上げて見ていると落ち着いた。
そして、腹部に乗っかている小さな生きもの。
何これ……?
すると小さな生き物は、目をこすりながら、
「おはよ~! っておはようございますぅ! てててててて、天使様!」
油断からの、まるで軍隊のような挨拶へと訂正。
飛び跳ねるように、立ったと思いきや、後ろにゴロンと一回転。
藁の掛け布団を、体に押さえつけ、ブルブル震えている。
戸惑っているのだろうか、口をパクパクさせて、次の言葉が出ない、出ない。
「おはよう」
その様子を見て、俺は軽く笑って見せた。
「は、はい……です。ええっと私は、アンシ」
「それは、昨日聞いたよ、アンシア」
――!
「アア、エット、ジコショウカイヲサイショハ、シナキャッテ、ソンチョウサンガ」
「そうだったのか、大切なことだな」
「あ、はいぃいい~」
「ところで……昨日は、ありがとうな、なんか、泣いてばっかりだったよな俺」
「いえ、そんなことは! 私は、天使様に命を救ってもらっていますからです」
「あ、ああ、ハハハ。そこまでかしこまる必要はないよアンシア」
――!
すると、アンシアは顔を赤くして、うずくまった。
――?
「俺の名前はキョウヤ。よろしくな」
――!
――――――LEVEL SERVICE――――――
しばらくして俺とアンシアは外に出た。
やっぱり、お昼どき。
夏ほどではないが、気温が高く、蒸し暑い。
周辺には、藁のテントが点々と散らばっており、焚火がチラチラ燃えているのが見えた。
「おーアンシアちゃん」
一人の老人がこちらに、向かってきた。
「村長さんです」
「そうか」
そして、俺の目の前にやってきては、いきなり拝礼!
地面に座り伏せた!
「天使様ぁあ」
――!
「そんなこと、しなくていいから、いいから」
「ですがぁあ!」
「いいから、いいから」
「そ、そうですか」
村長は、立ち上がり、俺に対して深々とお辞儀をした。
「本当にありがとうございました。いや言葉だけでは、足りないのぉ」
「いえ、俺はいいんだ」
「天使様、お腹は、すいていますかですか?」
アンシアは、ぎゅっと手を握った。
「俺は、後でいいかな」
「あ~でも、……それより、ここはどこだ?」
俺は、辺り一面をもう一度見渡し、正直見覚えがない。
頭を強く打って、記憶が飛んでいるのかもしれない。
「アルフェ村……です」
「え?」
俺は、自分の耳を疑った? もちろん目だってそうだ。
「どういうことだ?」
アルフェ村は、衰退した村。
家屋は倒壊し、地面は焼け野原で、煤や灰の風が吹く。
そんな場所。
「天使様、あちらです」
俺の腕を引っ張るアンシア。
――――――――!
きれいな、真っ白い十字架だった。
『selene』
神秘的な一滴。
キョウヤの心に広がった。
きれいな夢を見ているのでは、美しい錯覚もした。
セレーネの十字架の前には、たくさんの花が置いてあった。
「そっか……」
俺は、確信した。もう二度とセレーネは帰って来ないのだと。
……。
だが、もう落ち込んだり、暗くなることはなかった。
「ありがとう……」
涙がスーと流れた。
「天使様!」
それは、悲しみや後悔ではなく、心の迷いが解けた悟りの涙。
「おはよう、セレーネ」
俺はぐっと胸の十字架を握った。
「昨日は君にまで、泣いている姿を見せてしまった。すまない」
「俺は……次にどうすればいいのだろうか。でも一つだけ分かったことがある。多くの人を救おうと思うんだ」
「あなたのように」
――――――――キョウヤ!
――――! ……。
声の正体は、きっと、こそばゆい風だ。
顔の輪郭をなぞるように優しく吹いたのだった。
そして、国の復興が俺の目に映った。
「天使様、こっちに来てくださぁ~い!」
「おう! 今行く!」
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第1章は、終了です。
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