7 メイドさんを美味しく頂いた
モンスターを倒したら魔石がドロップするRPGってやった事ないんですよね。
アキーレさんと話し終えた私は、エドワードさんの仕事部屋に向かっていた。
いやちゃうねん、確かにマッサージ道具も頼もうと思うけど、他にも用事はあるんだよ。
電気ではなく魔力で動かすせいで略称がだいぶ気持ち悪いことになりそうなこけし君は、あくまでもついでだ。
というわけで部屋に到着した。
「こういうのを作って欲しいんですけど。」
…ついでの要件を先に済ませても別に良かろう。
「ふむ、これくらいの魔道具ならすぐに作れるが、これは何に使う道具なんだ?」
「健康を保つための道具です。」
嘘は言ってない。ただ私の場合は心の健康を保つために使うだけだ。
「ふむ、健康器具か。分かった、時間が出来たら作っておこう。」
「ありがとうございます。あと、セレモニーが終わったら旅に出ようと思うんですけど、オススメの場所とかありますか?」
それエドワードさんに聞く必要あるか?と思っただろ、私もそう思う。ごめんなさい、完全にこっちがついでです。
「ふむ、何をしたいかにもよるな。」
「んー観光はするつもりですけど、それ以外は特に決まってないんですよね。あ、出来れば冒険者みたいな事はしたいです。」
「冒険者?」
ないのかな?冒険者。
「モンスターを討伐したり、ダンジョンに潜ったりする職業です。」
「モンスターの討伐はその地を治める貴族の騎士団の仕事だ。民間人、特に商人は傭兵を護衛にすることもあるが、傭兵になるのはあまりおすすめしない。所属している傭兵団が他国の者に雇われると、抜けてもらわなくてはならなくなるからな。」
あーこの国に敵対するのはダメって前にも言ってたし、しょうがないか。傭兵にはなりたくないから別にいい。
「リリィ殿がダンジョンに潜るなら、魔石ギルドの討伐部門に入るか、探索者ギルドの戦闘員になるのが手っ取り早いだろうな。どちらにせよ迷宮都市を目指すことになるだろう。」
探索者!こっちの方が私のやりたい事には近そうだ。
「魔石ギルドと探索者ギルドは何をする組織なんでしょうか?」
「ダンジョンを攻略し、情報を持ち帰るための組織が探索者ギルド。探索者ギルドが持ち帰った情報を元にダンジョンに長期的に滞在して、ダンジョン内部の鉱脈から魔石を掘り出すのが魔石ギルドだな。魔石ギルドは迷宮都市なら絶対あるが、探索者ギルドは完全攻略が済んでいないダンジョンの迷宮都市にしか存在しない。」
へぇ、魔石ってダンジョンから出るんだ。
そう言えばレベリングでダンジョンに潜ったことはあるけど、モンスターを倒しても魔石なんてドロップしなかったな。
「なるほど…うーん。悩みますね。」
ガンガン攻略をしたいなら探索者だけど。場所が限られる上に攻略し終えたら移動しなきゃ行けないって事だよね。
「すぐに決める必要もあるまい。とりあえずロイス王国の迷宮都市の情報は簡単に集まる。後でまとめた物を部屋に送るように言っておく。」
「何から何までありがとうございます。」
「以前にも言ったが、こちらはできる範囲であれば、あらゆる助力を惜しまないつもりだ。この程度で貴女が礼を言う必要は無い。その代わりこの国に何かあれば戦力として味方をしてくれればいい。」
「はい、それでもありがとうございます。こちらも協力は惜しみません。」
会話が終わり、部屋を出るために後ろを向いた瞬間、ドアがノックされる。
エドワードさんが返事をするよりも早く、勢い良くドアが開いた。
「入りまああああぁぁーっ?!!」
「?!」
びっくりした!何?
「アビー、静かにしろ。リリィ殿の前だ。」
「これは失礼しました!リリィちゃんさんが居るとは思いませんでした!」
「エドワードさんの知り合いですか?」
とりあえず敵襲とかではないようだ。
「…今朝言った、リリィ殿の付き人候補だ。」
「宮廷魔導師のアビゲイル・ウィルダースです!アビーと呼んでください!リリィちゃんさんの付き人になった暁には、誠心誠意お仕えするです!!」
おぉ…この人が私の付き人候補なのか…
金髪ツインテで、目元がクリっとしている。大変可愛らしいが、少しうるさいかもしれないな。私の苦手なタイプだ。一応面接はするけど。
「ええと、なんで私の付き人に立候補したのか聞いてもいいですか?」
「リリィちゃんさんが可愛いのに格好良くて、気付いたら大好きになってました!少しでも長く一緒に居たいので、付き人になりたいです!!」
「採用します。」
「ありがとうです!!!」
「今の志望動機で納得したのか?!」
即決してしまった。同好の士を大切にするのは、オタクの習性だからね。好きな物の前ではテンションが高くなるのもオタクの習性だ。アビーさんのこのテンションも仕方がない事だと許せてしまう。
「さん付けしなくてもいいですよ、アビーさん。」
「分かりました、リリィちゃん。私の事は呼び捨てでお願いします!敬語も要りません!」
「うん、分かったよアビー。」
「はぅ!良い…」
「…まぁリリィ殿がそれで良いなら、好きにすればいい。アビーは仕事に戻れ。付き人になるなら引き継ぎもあるんだぞ。」
私用でエドワードさんを訪ねたけど、この人も宮廷魔導師長だし仕事はあるだろう。そろそろ退散しなければ。
「アビー、これからよろしくね。エドワードさん、急に訪ねて来てすみません。私は部屋に戻りますね。」
「はーい!こちらこそよろしくです!!」
「ああ、こいつがうっとおしくなったら代わりの者を寄越すから遠慮なく言うといい。」
「多分大丈夫だと思いますよ。では失礼しました。」
エドワードさんの仕事部屋から出て自室へ歩きだす。
部屋に戻ったらアリスさんに甘えよう。
今朝離れたばかりだけど、今日は結構頑張ったし、許されるはずだ。というか多分アリスさんなら甘えたらいつでも甘やかしてくれる気がする。
「戻ったよ〜アリスさん居る?」
部屋の前に居たメイドさんに声をかける。
「おかえりなさいませ、リリィ様。アリスは今他の部屋の清掃のはずです。呼びましょうか?」
「ああいや、仕事中ならいいや。暇な時があれば私の部屋に来て欲しいって伝えておいてくれる?」
「かしこまりました。」
仕事の邪魔をしないという約束をしたんだった。
むしろ今までなんで許されていたのか。
うーん困った、時間が出来てしまった。
少しだけ時間を潰すような娯楽が何も無いんだよね、ここ。
アリスさんが私の専属だったらなぁ。
いや旅に出るつもりなんだから、専属のメイドを持っても仕方ないだろう。
お昼寝でもするとしようか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お昼寝から起きたら、外は真っ暗だった。
時計の魔道具を見ると夜の九時を過ぎたところだ。
こっちの世界では深夜にあたる。どうやら随分長く寝てしまったらしい。
「夕ご飯食べてない。」
仕方ない、厨房は流石に入れないだろうから、使用人のキッチンに行って何か拝借してこよう。
バレないように部屋からこっそり出る。
「どうかなさいましたか?」
「っおぁ?!」
ああ夜警の人か、めちゃくちゃびっくりした。明かりくらいつけようよ。
「明かりを付けると暗い所が良く見えませんし、何処を警戒してるのかバレやすいので、柱の燭台以外には付けられないんですよ。」
「ああなるほど…私ってそんなに何考えてるか顔に出ているんですかね?」
昼間も心を読まれたよね。
「皆様大体同じような質問をされますので。それで、どうかなさいましたか?」
「夕ご飯を食べ損ねてしまったので、何か食べるものがないかなと。」
「なるほど、使用人用のキッチンですね?お気をつけください。」
「はい、お仕事頑張って下さい。」
そのまま歩いてキッチンを目指した。
あの後、途中2回ほど夜警の人に見つかって声をかけられた。心臓に悪過ぎるし、やたら警備が厳重だな。お城ならこんなもんなのかもしれないけど。
隠密行動は私には無理だと再認識した。
「あれ?キッチンに明かりがついてる。」
誰か居るのかな?まぁとりあえず入るか。
「あ、アリスさん。」
なんという偶然、今1番会いたかった人だ。
何か飲んでいたようだ。取り敢えず抱きつこう。
む、柔らかい。メイド服じゃない。
ネグリジェだ、すごく似合っていて可愛い。
「わ!リリィ様、何故ここに?」
「お昼寝してたらご飯食べ損ねちゃって、つまみ食いしに来たよ。」
「そうなんですね、何か簡単なものでよければ作りましょうか?お酒は飲まれますか?」
「良いの?じゃあお願いするね。お酒は要らないよ。」
暫くするとサンドイッチとお茶が出てきた。
「美味しい。アリスさんってご飯も作れるんだね。」
「ふふ、ただ大きさを揃えて挟んだだけですよ。」
「それが出来ない人もいるんだよ…」
なんならパンだけかじろうと思ってたよ。
「そういえばなんでアリスさんはここに居たの?」
「さっき仕事が終わったんです。」
「今まで仕事してたの?」
「はい、少し溜まっていまして。それで、その、リリィ様が暇な時に部屋に来て欲しいと仰っていたと聞きまして。でも、こんな時間に行っていいのか分かりませんし、警備の兵士に見つかったら絶対怒られるので、どうしようかと思っていたら、いつの間にかここに居たんです。」
「そう…」
めっちゃ可愛いな。健気過ぎる。
こんなんお持ち帰り一択でしょう。
「私と一緒なら怒られないよね?今から行こう。」
そして甘やかしてくれ。
「それは大丈夫ですが…いえ、分かりました。」
サンドイッチを食べて部屋に戻る。
帰り道では夜警の人に不意打ちされることはなく、部屋に辿り着く。
「よし、せっかくだし添い寝にしよう。こっち来て。」
ベッドに入ったまま横のスペースを手で空ける。
「は、はい、失礼します。」
アリスさんに撫でられると落ち着く。
体温高くて柔らかい。ん?
「アリスさん、なんか緊張してる?心臓の音凄いよ。」
「そ、そうでしょうか?」
「うん、ほら。」
「あんっ…」
「「……。」」
凄くえっちな声が聞こえた気がする。
「もしかして、そういう事すると思ってたの?」
覆い被さるように体の位置を変えながら聞く。
「それは…夜に部屋に行くなら、そうかもしれないとは、思いましたけど。」
「それなのに着いてきちゃったんだ。」
「うぅ…。」
おお、アリスさんの顔がみるみる赤くなっていく。
「嫌なら、ちゃんと言ってね?」
アリスさんの体はどこもかしこも柔らかくて、とても可愛かった。