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3 帰れないなら異世界を満喫しよう

 

 私はローテーブルを挟んで向かい合わせになるように設置されたソファに座っていた。対面に居るのはエドワードさんだ。

 私が狭い場所の方が落ち着くと言って無理に通してもらったが、どうやらここは彼の仕事部屋らしい。

 壁を覆い尽くすように並んだ本棚の中には資料と思われる大量の紙が隙間なく詰め込まれており、古いインクと羊皮紙と思われるすえた匂いが部屋に充満していた。

 宮廷魔導師がどんな仕事なのか分からないが、食客と言うよりは研究者なのだろう。


 エドワードさんの顔色は完全に回復していた。もしかしたら「SoS」には無いMP回復の魔法かアイテムがあるのかもしれない。眉間のシワが健在なのも気になるけども。


 エドワードさん、部屋に入ってからずっと無言を貫いているんだけど、どうしたんだろうか?紅茶飲む手が一向に止まっていない。

 まだ体調が悪いようならまたさっきのメイドキャバに戻りたい。


 と思っていたところでやっと口を開いた。


「あー、単刀直入に言う。リリィ殿には誠に申し訳ない話なのだが、今回の召喚は実質的に不可逆で、リリィ殿を、元居た世界に帰すことは、できない。」


 …ああなるほど、それで言いづらそうにしていたのか。


 ふむ、帰れないのね。

 そんなような気もしていたからか、思ったよりもショックじゃない。もうレート戦ができないのは悲しいが、それ以外は特に元の世界に心残りはない。

 親しい友人も居ないし、家族とは大学に行ってから10年近く疎遠になっている。急に失踪しても、それに家族が気づくのはあと一月は先だろうというレベルだ。

 年齢逆算しようとするなよ?

 …まぁ職場には迷惑をかけるが、どうにもならないのでそっちで頑張ってください。


「…!すまない!!」


 こちらの無言をどう受けとったのか、エドワードさんが机に頭をぶつけそうな勢いで頭を下げてくる。


「ああいえ、頭を上げてください。帰れないと言うならそれはそれで大丈夫です。1つ心残りはありますが、それ以上にこちらの世界は楽しそうなので問題ないです。」


 そう、むしろこれからが楽しみだったりするのだ。


 私はリリィが大好きだ。多分ファンと言うやつだろう。初めてキャラメイクをしてから、リリィとしてゲームをプレイする時間が大好きだった。

 元の世界ではリアルの合間にしかゲームができなかったが、ここではそれがずっとなのだ。楽しみで仕方がなかった。


「そう言って貰えると助かる。お詫びという訳では無いが、この国にいる間はなんでも頼ってくれ。できる限りの事はしよう。」


「はい、分からないことだらけなので色々と迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします。…質問しても良いですか?」


「ああ、なんでも聞いてくれ。」


「では、召喚が実質的に不可逆ってどういう事ですか?」


「世界を跨ぐような転移術は、人間の身では使用できない。神に祈りと代償を捧げる事で、条件にあった人間を下賜される、という形で成り立っている。リリィ殿が元の世界に戻るには、リリィ殿の世界で同じ召喚術を用いて、条件をリリィ殿が満たすよう狙って発動する必要がある。」


「条件?」


「今回の召喚で言うなら[異界にて最も強き戦士の内、若く健康で性格に問題がなく、人間に近い形をした言語を操る生命体]と言った所だな、実際にはもっと細かく指定しているが。」


 なるほどね?

 …多分だけど伝言ゲーム失敗しているんじゃないかなこれ。正直「SoS」に限った話でも私より強い人は沢山いる。それ以外を含めればもっと居るだろう。

 例えばだけど、「異界」が異世界という意味じゃなく文字通り「異界(ゲームの中)」と、「戦士」が戦う人間という意味じゃなく近接戦闘に長ける者、って感じに伝わってしまったんじゃないだろうか?

 自分で言うのもなんだが私は近接戦闘に限れば「SoS」では最強だと自負している。単に魔術師が戦うゲームで剣をメインで使っている私が異端なだけな気もするけど。かのフライパンカツ丼チャレンジを彷彿とさせるものがある。

 ただ、この条件なら私が選ばれる可能性もあると思う。うん、ありえる仮説だと思う。まぁどちらにせよ…


「なら無理でしょうね、そもそも私の世界に召喚術も、神に祈ることで発動する儀式というものもありませんし。」


「そうか…」


「もう一つ質問なのですが、私は何のためにここに呼ばれたのでしょうか?」


 正直こっちの質問がメインだった。さっきの質問は割とどうでもいい、帰れないと嘘をつくメリットが思いつかないので、エドワードさんの言ってる事は本当だと理解していたし。


「1つは予備戦力としてだ。召喚術は厳しい条件をいくつか満たす必要がある、その1つが星の動きなのだ。もし仮にこれから先強大な敵が現れたとき、そこで初めて召喚を試みようとしても、数十年先まで条件が合わないという事になりかねない。」

「そしてもう1つは政治的な意味合いが強い、要するに現国王の箔付けだな、こちらは説明しようと思うと長くなるが、必要かね?」


「いえ、そっちは大丈夫です。」


 納得出来る答えは聞けた。


「これから私は何をすればいいんでしょうか?」


「そうだな、取り敢えず今日はこれから国王陛下との謁見がある。」


「え、今日ですか?性急過ぎませんか?謁見の作法とか何も知りませんよ。」


「この王城は王家の家でもある。陛下かその代理人と面識の無い者が宿泊することは、防犯上良くないのだ。元々予定にも組まれていた。作法については心配ない、指示通りに歩いて、ハイハイと言っていれば問題ない。」


「な、なるほど?」


 納得はしたけど、ほんとかよ。ああ、おめかしさせられたのはこれが原因か。


「明日は御前試合がある。相手はこの国の王国軍の大隊長だ。名前はアキーレ・マロウ。この国でも有数の剣術家だ。」


 おお、そっちは楽しみだね。


 それから2人でこれからの事について色々と話をしていた。1週間後に召喚成功を国内に正式に発表するセレモニーがあって、それが終われば有事の際に呼び出す以外は、ロイス王国に敵対しない限り、割と何やっても許されるらしい。他国に旅行にいく時は付き人を付けたいから少し待ってくれと言われた。しかも私が使うお金は全額国庫から軍事費として出してくれるらしい。至れり尽くせりである。

 旅行は良いね、楽しそう。

 ああどうせなら冒険者になりたいな。定番って感じがするし。モンスターが居てダンジョンがある事も確認したので、多分冒険者という職業もあるだろう。


 色々と妄想に耽っていたが、ノックの音が聞こえて現実に戻される。


「キックス様、リリィ様、そろそろ謁見の準備をお願いいたします。」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「〜〜〜〜リリィを歓迎するとここに宣言する。」


「はい。」


 本当にハイハイ言ってるだけで終わってしまった。

 謁見の間はかなり広い部屋なんだけど、500人ぐらい人が居るらしくて結構ぎっしり詰まっている。

 当然500人の視線を独り占めしていた訳だけど、国王様のふっくらした頬っぺを眺めていたらいつの間にか終わっていた。皇后様めちゃくちゃ美人だなぁ。


 瞬く間に謁見が終わり、退室する。

 メイドさんに先導されて部屋に戻る途中、廊下の向こう側から一人の男が歩いてきた。普通にすれ違って良いのかな?あれ、止まった。


「失礼。貴方がリリィ殿で合っているでしょうか?」


「ええ、はい。私がリリィです。失礼ですが名前を聞いてもよろしいですか?」


「私はアキーレ・マロウです。明日貴女と御前試合で戦うことになったので、挨拶をしようと思いまして。」


 おお、この人が明日の相手か。


「これはご丁寧に、ありがとうございます。明日はよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願い致します。いやぁ、リリィ殿の美貌はもう既に噂になっておりますが、実際に見ると噂以上に美しい。明日も楽しみです。」


「…ありがとうございます。」


 多分軽い感じで言ってるんだと思うけど、私は褒められ慣れてないのでかなり焦ってしまうよね。なんて返すのが正解なんだろう。


「どうでしょう。私はまだリリィ殿と話したい事が沢山あるのですが、この後時間は空いておりませんかな?」


「申し訳ありません。環境が変わったせいか疲れてしまって、明日に向けて今日はもう休もうと思っています。機会があればまた今度お話させてください。」


「ああ、それは残念です。機会があれば是非。明日またお会いしましょう。」


「はい。私も楽しみにしています。」


 はぁーびっくりした。まさかナンパされるとは。

 いやもしかしたら貴族会話の定型文なのかもしれないけど。


 部屋に着くなりソファにダイブする。


 「あ"ぁ"〜疲れた!」


 体重を完全に座面に預けようとしたけど、コルセットが固くて肋骨が悲鳴を上げる。

 怒涛の1日だったなぁ、思ったよりも疲れてるかもしれない。メイドさんにお風呂に入れてもらおう。癒しが必要だ。


 今朝は勢いに押されて完全にビビっていたけど、人に洗われるのって結構気持ちいいんだよね〜。

 あと単純にメイドさんが可愛くて眼福です。


 その日はかなり早い時間だったけど、ベッドに入るなり直ぐに眠ってしまった。



説明チックな会は多分ここで終わるはずです。

次回からもっと話が進むといいな。

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